映画『グリーンマイル』レビュー
〜歳の積み重ねと共に観なおしたい一作〜
こんにちは、映画好き画家のタクです。
今回レビューで取り上げる映画は、映画『グリーンマイル』(1999年公開・制作国アメリカ)です。
原作はスティーヴン・キング。ホラー小説の大家でありながら、この作品ではホラー要素を抑え、“人間の尊厳”や“赦し”、そして“奇跡”を描いた作品となっています。
映画の舞台は1930年代アメリカ南部の刑務所。その重苦しい空間に、ある日「奇跡」をもたらす黒人死刑囚が送られてきたことで、看守たちの人生が少しずつ変わっていきます。
監督は、キング作品の映画化に定評のあるフランク・ダラボン。主役はトム・ハンクス。
それでは、『グリーンマイル』のあらすじ(ネタバレ結末まで)を紹介しながら、映画の内容を感想ベースでレビューしてみます。
『グリーンマイル』内容解説
どんな内容の映画?
映画『グリーンマイル』は、「不思議な能力を持った男」と「それを見守る者たち」のドラマです。
ジャンルとしてはファンタジーとも言えますが、物語の中心には、人間の「罪」と「赦し」、そして「救済」という普遍的で宗教的なテーマが据えられています。
なので純粋なファンタジー映画を期待してみると「あれれっ?」となるかもしれません。
映画では宗教的なモチーフ(特にキリスト教的なイメージ)が随所に登場し、クリスチャンにとっては非常にメッセージ性の強い作品なのでは、、、と思います。
(ちなみに僕自身はクリスチャンではありません。なので『グリーンマイル』をごく普通の日本人的な見方をしているはずです。なので、映画の持つ意味の見落としもあるはずですので、その辺りはご容赦くださいね。)
監督フランク・ダラボンと原作者スティーブンキングのこと
ぼくは監督フランク・ダラボンはスティーブン・キングとは親子のような信頼感があるのではないか、、、と思う時があります。
キングの小説の特徴として、ある一つの出来事を描くため、幾重にも下地を塗り固める感じがあります。その重層感あっての”怖さ”だったり”感動”だったりすると思います。
だから映画化となったとき=2時間前後の枠の中で脚本をまとめなければならない、となった時、それはとても書きづらいんじゃないか、と思うのです。筋だてだけを脚色したのでは、単なるダイジェストにすぎませんし、、、。
そんな意味でも『ミスト』や『ショーシャンクの空に』とキング作品を佳作映画に押し上げているフランク・ダラボン監督は、ある意味、スティーブン・キングと親子のような信頼関係なのでは、、、と勝手に想像しています。
キャストは名優揃い踏み
『グリーンマイル』の意味は?
「グリーンマイル」というタイトルが何を意味するか?を書いておきましょう。
直訳すると「緑の道」となります。何の道が緑色なのか?が答えになりそうです。
原題の意味は「処刑台へ続く緑の床」。意訳すると「処刑台への道」みたいな感じかもしれません。
『グリーンマイル』あらすじ(途中まで)
ではあらすじを紹介します。ネタバレも含まれますのでその点ご理解の上お読みください。
物語は一人の老人、ポール・エッジコム(演:トム・ハンクス)の回想から始まります。
+ + +
ポールは高齢者施設で静かに暮らしていました。
ある日テレビで見たフレッド・アステアのミュージカル映画『トップ・ハット』の映像をきっかけに、60年前の記憶がよみがえってきます、、、。
そう、1935年、、、。当時ポールは、ルイジアナ州の刑務所で主任看守を務めていました。それも、死刑囚だけを収監するE棟・通称「グリーンマイル」の主任だったのです。
そんなE棟に、身の丈2メートルを超える巨漢の黒人男性、ジョン・コーフィ(演:マイケル・クラーク・ダンカン)が収監されてきます。
コーフィは、白人の少女二人の殺害の罪で死刑判決を受けていました。
しかし、コーフィの物腰は穏やかです。どうみても少女殺人犯には見えません。そのうえコーフィは不思議な力をもっていました。
それは、ポールの苦しんでいた尿路線感染症を治したり、ネズミの命を取り戻したり、説明がつかない奇跡のようなことを看守たちの目の前で起こしたのです。
コーフィの奇跡の力に触れたポール、そして看守たちは、やがてコーフィが実は無実で死刑判決は冤罪なのではないか…と思い始めます。
そして、ポールらは所長にその理解を促すために、コーフィの不思議な力で所長ハル(演:ジェームズ・クロムウェル)の妻の病を癒そうと、コーフィーを刑務所の外へ=所長の自宅へ連れ出すという禁じ手に踏み切りますが…
『グリーンマイル』あらすじラストまで(ネタバレ閲覧注意!)
以下はネタバレですので、映画を見たい方はスルーしてください。
+ + +
コーフィは刑務所長の妻の病を、一瞬で抜き去ります。
コーフィの奇跡の力によって病から解放された妻は、全てを理解したかのように、コーフィに聖人クリストファーのペンダントを授けます。
その後コーフィは、自らを冤罪に陥れた少女殺人の真犯人が、すぐそばにいることを示し、断罪。そして自らの無実を看守たちに示します。
しかし「もう疲れてしまった」と、刑を受け入れるコーフィ。ポールは仕方なくコーフィの死刑を執行します。
+ + +
1935年から時は移り、場面は変わり、今。
老いたポールは、コーフィの奇跡と記憶を引き継いで、今もなお”生き続けて”いました。
ポールは、ネズミのMr.ジングルスとともに“異常な長寿”を生きている事実が明かされます。
ラストは、ポールもコーフィの奇跡を受け継いだ結果、愛するものの死を何度でも見届けなければならない「受難者」となっていることも明かされ、静かな余韻でエンドロールとなります。
『グリーンマイル』スタッフ・キャスト情報
- 監督・脚本・製作:フランク・ダラボン
- 原作:スティーヴン・キング(『The Green Mile』)
主なキャスト
- ポール・エッジコム(主任看守):トム・ハンクス
- ブルータス・“ブルータル”・ハウエル(看守):デヴィッド・モース
- ジョン・コーフィ(不思議な力を持った囚人):マイケル・クラーク・ダンカン
- ディーン・スタントン(若い看守):バリー・ペッパー
- パーシー・ウェットモア(看守):ダグ・ハッチソン
- ウィリアム・“ワイルド・ビル”・ウォートン(囚人):サム・ロックウェル
- トゥート=トゥート(囚人):ハリー・ディーン・スタントン
- デル・ドラクロア(囚人):マイケル・ジェッター
- ハル・ムーアズ(所長):ジェームズ・クロムウェル
- メリンダ・ムーアズ(所長の妻):パトリシア・クラークソン
- クラウス・デタリック(殺された女の子の父親=農園主):ウィリアム・サドラー
『グリーンマイル』ぼくの感想
人生経験が深まるほどに心に響く映画
ぼくが初めて『グリーンマイル』を観たのは2000年、公開時です。そして今回、2025年に改めて再見したところ、全く違う印象を受けました。
ぼくは若い頃は、「奇跡なんて、ない!」と思っていました。(還暦過ぎた今はもちろん違います)
でも、歳を重ね、理不尽なことや喪失、救いようのない出来事を体験すると、逆に「奇跡は確かに、、、起こるんだよね、、、」と気付かされる機会も増えてきました。
「奇跡は常にある。それも、日々のそこかしこに」
が、ぼくが今思っていることです。…変われば変わるものです。
若い世代にはやや難解かもしれない宗教的要素も、40代・50代以上になると、「痛みの共有」や「贖罪」という概念が、現実に感じられるようになります。(すみません、なんか上から目線っぽいですが、あくまで質量的に歳が嵩んでいるというだけです〜ちなみにぼくは62歳)
特にぼくの印象に残ったのは、以下のコーフィのセリフでした――
「毎日愛が利用され、たくさんの人が苦しんでいる。それを感じることに疲れてしまった」。
『利用される愛情。それによって傷つけられる、大勢の人』
この言葉は、とても深いと思います。
誰にだって、間違った愛や、使命といった愛の大義名分に乗っかった挙句に、泥を舐めるような経験って、ありますよね。
そんな経験を積んだり、理不尽さを実体験した上で、『グリーンマイル』のそんなセリフたちを聞く…。すると、真に澄んだ響きとなって心に迫ってくるのです。…そんなマジックがあるセリフが散りばめられているのが『グリーンマイル』だと、ぼくは思いました。
『グリーンマイル』ドラマを支える名脇役たち
主役のトム・ハンクスはもちろん素晴らしいですが、ぼくが個人的に最も印象的だったのは若い看守ディーンを演じたバリー・ペッパーです。
セリフが決して多いわけじゃないけれど、なんというか、いわば”観客代表”のような位置付けの役柄で、映画に妙味を与えていると思います。
彼は『プライベート・ライアン』でもトム・ハンクスと共演しており、二人の信頼関係がスクリーンにも自然に表れているような気がするのは、ぼくの思い込みでしょうか。
また、看守なんですがいわば”悪役”として登場するパーシー・ウェットモア(ダグ・ハッチソン)の“超絶なるいやらしさ”も見事でした。社会的なコネをこれでもかとふりかざし、傲慢さで暴走するパーシーの姿には「こんな奴、実際にいるよな…」とゾッとさせられます。
名優ハリー・ディーン・スタントンはなぜディーン・スタントン役ではなかったのか?
ポールの看守仲間にはブルータス・ハウエル(ディビッド・モース)とディーン・スタントン(バリーペッパー)そしてもう一人ハリー・ターウィルガー(ジェフリー・デマン)がいます。
ここで役名に気づくことがありませんか?ディーン・スタントンとハリー・ターウィルガーを掛け合わせ引き算すると名優ハリー・ディーン・スタントンが浮かび上がってきます。
ちなみにハリー・ディーン・スタントンも「トゥート=トゥート」という模範囚役で出演しています。死刑執行の予行練習のシーンで登場します。
ぼくは、監督が原作を読んでいるときにディーン・スタントンとハリー・ターウィルガーの名から「トゥート=トゥート役はハリー・ディーン・スタントンしかありえない!」と打診したのではないか、、、、と、勝手に想像しています。(根拠はありません、悪しからず)
でも、そんなふうに、映画を観た後に”自分で勝手な連想ゲーム”をするのも映画の楽しみ方の一つだと思います。
ネズミのMr.ジングルスの可愛らしさ必見
物語の脇役の中で印象的な存在なのが、ネズミのMr.ジングルスです。彼の可愛さは、それはもう主役級です。
彼は死刑囚のデルによくなついており、一度はパーシーに踏み殺されますが、コーフィの力で蘇ります。
このネズミの存在は、ラストシーンで、とある“奇跡の余韻”として効いてきます。
ぼくは、「Mr.ジングルスは、人間のような穢れを抱えない、ある意味もっとも純粋な存在だった…」と、思っています。
とはいえ、ジングルスの殺され方のエグさはそうあるエグさじゃありませんでした。
パーシーの情け容赦ない殺し方に、スティーブンキングの恐ろしさ(凄さ)を見せつけられました。パーシーの殺し方がどんなだったかは、映画をみてくださいね。
『グリーンマイル』ぼくの評価は?
評価:星四つ半⭐️⭐️⭐️⭐️✨
文句なしの名作だと思います。が、キリスト教的な象徴の一部が日本人には若干理解しにくい点を考えて、星⭐️⭐️⭐️⭐️✨=5つ中4.5=としました。
たとえば、ジョン・コーフィが奇跡を起こした、社長の妻から受け取るペンダントには、聖人クリストファーのイコンが描かれていました。この辺りはクリスチャンでないと、多分わかりにくいですよね。そんな意味でのマイナス星半分です。
コーフィと聖人クリストファーのペンダントの関係とは?
最後にちょっとだけ、”聖クリストファーとは?”について、簡単に書いておきます。
聖クリストファーはキリスト教文化圏では「旅人の守護聖人」として知られ、伝説では“幼子イエス”を背負って川を渡ったとされています。
すなわち、「重荷(=人々の罪や苦しみ)を背負って生きる者」の象徴となっているんですね。
つまり、ジョン・コーフィが聖クリストファーのペンダントを受け取る描写は、彼が“人々の苦しみを背負う受難者”であることを示しているように思えます。
この視点から物語を俯瞰すると、コーフィの存在がよりキリスト教的に、神聖で、メタファーに満ちたものとして捉えることができます。
なかなかぼくをはじめ、クリスチャンではない人にはわかりにくいですよね。
以上、「聖人クリストファーのペンダントって、なに?」への参考アンサーでした。
『グリーンマイル』まとめ:歳の積み重ねと共に観なおしたい一作
『グリーンマイル』は、単なるお涙頂戴感動ドラマではありません。(原作がキングですから、それはありえない)
赦しと奇跡、そして人間の逃れられない業と哀しみを静かに、丁寧に描いた、チカラ技傑作だとぼくは思っています。
世の中の不条理さや残酷さ、それを越えた喜びを体験しているほど、この映画は心に響いてくるように思います。歳の積み重ねと共に観なおしたい一作です。
『グリーンマイル』配信レンタル情報(2025年8月現在)
配信先は以下でご覧いただけます。
- Amazon Prime Video
- U-NEXT
『グリーンマイル』DVD・ブルーレイ購入先
DVD・ブルーレイはAmazon等で購入可能です。


コメント