実話映画『カセットテープダイアリーズ』考察|あらすじ・感想・評価〜勇気とチャンスのつかみ方

ヒューマン・ハートフル

映画『カセットテープ・ダイアリーズ』(原題:Blinded by the Light)は、実話を元に作られたミュージカルムービーです。『カセットテープ・ダイアリーズ』で描かれるのは、人生に立ち塞がる様々な壁とそれらを乗り越えるチカラを持つ大切さです。




全編に流れるのは「The Boss」ことブルース・スプリングスティーンの名曲の数々。勇気とチャンスのつかみ方を教えてくれる青春音楽映画をひもといてみました。(2019年・イギリス映画)



『カセットテープ・ダイアリーズ』予告編




『カセットテープダイアリーズ』解説

『カセットテープダイアリーズ』(原題:Blinded by the Light)は、原作・共同脚本のサルフラズ・マンズールの少年期〜高校を卒業するまで体験したことがベースとなっている実話です。

サルフラズ・マンズールが出版した本を読んだスプリングスティーンが、マンズールとグリンダ・チャーダ監督に会う機会がありました。スプリングスティーンは本への賛辞を示し、チャーダ監督がスプリングスティーンに映画化を打診。即OKをもらったというエピソードが伝わっています。

チャーダ監督は、インド系移民で、イギリスで育っています。BBC放送ジャーナリストを経てドキュメンタリーフィルムを制作。映画『ベッカムに恋して』(2002)でブレイク。

その後、『パリ、ジュテーム 』 (2006)、『ジョージアの日記/ゆーうつでキラキラな毎日』 (2008)、『英国総督 最後の家』 Viceroy’s House (2017)に続いて、本作が5作目です。スプリングスティーンの音楽に出会ったパキスタン系の青年が、自分の夢を切り開いてゆく作品。

全編通して要所要所でブルース・スプリングスティーンの音楽が使われます。

『カセットテープ・ダイアリーズ』あらすじは?

はじまり

舞台はロンドンの北部のさびれゆく町、ルートン(Luton)。

主人公ジャベドは貧しいパキスタン移民の高校生だ。彼の父親マリクは昔ながらの家長第一主義。若いジャベドはそんな父に反発している。

近所に暮らしている親友マットとは子供の頃からの幼馴染。マットはテクノバンドに夢中で、口は悪いがジャベドに楽曲の作詞を頼む、そんな仲だ。

詩を書くことが好きなジャベドは、入学した高校で同級生ループスから一本のカセットテープを渡される。ループスもまたパキスタン移民だ。

出会い

町では「パキスタン野郎は帰れ!」そんな移民排斥運動がうねり始め、家族の、そして移民への理不尽な行為が日常化している。やり場のない怒りに駆られる彼。

そんな時、ふとそのカセットから流れてくる曲の歌詞に、彼は目を醒めさせられる。歌っているのはブルーススプリングスティーンだ。

気になる同級生の白人の女の子イライザへの告白。パキスタン人を見下す、イライザの両親との確執。しかし高校の国語教師がジャベドの詩の才能を見出し、道を開こうと陰ながらジャベドを支える。そして近所にくらす、理解者としての一人の老人との出会い。

急転

それらが絡まり、「文章を書くことで生きる」道へと、彼をいざなう。しかし、古い家長制にこだわる父は、主人公のやりたいことに耳も貸さないどころか、否定する。

主人公の姉の結婚式の日、モスクに向かう家族は極右のデモに巻き込まれ、物語は急転する。。。

….そんなあらすじです。



『カセットテープ・ダイアリーズ』は実話

『カセットテープ・ダイアリーズ』は、フィクションではありません。一人のジャーナリストの青春時代を描いた実話です。

「事実は小説より奇なり」という言葉がありますけど、『カセットテープ・ダイアリーズ』を観ると、本当にそう思います。

脇役の音楽がブルース・スプリングスティーンの名曲オンパレードで聞き応えがあります。また、ブルース以外の1980年代のヒット曲も流れ、時代背景をじょうずに表現しています。

と同時に「歌って踊るミュージカルスタイル」となっているところも『カセットテープ・ダイアリーズ』の魅力です。

『カセットテープ・ダイアリーズ』は、80年代を生きてきた世代には絶品懐かしく、まだ生まれていなかった世代には新鮮に響く映画ではないでしょうか。




『カセットテープ・ダイアリーズ』ぼくの感想

「親との確執」「移民への差別」がストーリーを進めます

何度も書きますが、映画『カセットテープ・ダイアリーズ』は、実話を下敷きにロックの名曲オリジナルが流れ、主人公たちが歌い踊るミュージカル仕立てムービーです。

「親との確執」「移民への差別」が物語の中、要所要所で曲がり角を作り、物語をぐいぐい進ませます。あっという間にぼくは引き込まれていました。

「悩みと差別を主人公はどう乗り越えていくのか?」が『カセットテープ・ダイアリーズ』のとなっています。

と書くと、差別、人種というキーワードから重い映画かな、、、と思うかもしれませんが、そんなことはありません。ノンフィクションにありがちな、硬い語り口ではありません。心底楽しめるエンターティメントムービーです。

旧態然としたパキスタンの伝統的な父権家族にこだわる父親とジャベドの確執や、「パキスタン人は出て行け!」という排斥運動が、実際にあったこととして描かれます。

しかし、そういったことへの答えをブルーススプリングスティーンの歌詞で置き換えたり、歌詞をジャベドらに踊り歌わせたりする「ミュージカルスタイル」をとったことで、しっかりとエンターティメント映画に仕上げられています。

『カセットテープ・ダイアリーズ』を観ているうちに、ぼくは勝手にジャベドの友達になった気分で、笑顔と涙で応援していました。

『カセットテープ・ダイアリーズ』は「人生の応援歌」と言っていい一本だと思います。




とことん練られた脚本

「物語の組み立て」って映画のキモですよね。

その「組み立て」って、実はシンプルで、定石みたいなものがあります。

例えば、「ボーイ・ミーツ・ガール」や「賢者としての老人の存在」「主人公の進む道をはばむ強敵の出現」「力のなさを痛感する主人公」「戦いに勝ち凱旋」、、、といったものです。

超有名な映画は、ほぼこれらの定石をシナリオに使っていますよね。

例えば、名画『スターウォーズ/エピソード4』はまさに前述スタイルです。ルークがレイアと出会い、師匠としてオビワンケノビの登場。さらには強敵はダーズベイダー出現。ラストはデススターを破壊し、凱旋、です。

『カセットテープ・ダイアリーズ』は、そんなシナリオ定石を丁寧に踏んだ脚本が、見事だと感じました。

さらには登場人物のキャラ設定からそれぞれの絡みまで、ほんと無駄がないのです。

どれだけ脚本を練りまくったんだろう…」と、拍手喝采でした。




『カセットテープダイアリーズ』考察〜ジャベド流チャンスのつかみ方

夢に向かってジャベドのとった行動は?

『カセットテープ・ダイアリーズ』をみて、つくづくこう思いました。

「叶えたいことをダイレクト最短で叶えるなんて、できんこと。でもあきらちゃいけない。叶える人は人との出会いを大事にしてるんだなあ」でした。

例えば、

文章を書くことが好きなジャベドは、高校新聞部に売り込みます。しかし、ケンモホロロ。それでも諦めません。紆余曲折はあれど、結果学校新聞のトップを飾ります。

また、ジャベドの才能に気づいた国語の教師:グレイ先生が、さりげなく地元新聞社を紹介します。(このさりげなさが超絶に素敵すぎる)日本の高校でいうなら、多分校外学習みたいな位置付けでしょう。

もちろん高校生に決して最初から文章を書く仕事なんてあるはずがありませんが、それでもジャベドは新聞社に出向きます。

奇跡的に移民差別の事件が起こり、記事を任されることになりますが、それでもすんなりなんていきません。常にジャベドの前には「壁」が立ち塞ぎます。

一歩前進、でもすぐに後退(といえば言い過ぎか)をジャベドは繰り返します。

そう、チャンスの掴み方にショートカットなんてないんですね。

ゴールへの早道なんてない

『カセットテープ・ダイアリーズ』が暗に表現しているのは、右がダメなら左に進んでみよう。ダメダメシチュエーションに、どのような方法で繰り返しぶつかっていくか?が、遠回りのように見えて最短距離なのだ….ということ。

また、こうも思いました。

道を示してくれる「キーマン」の現れ方

人生のキーマンとなる「誰か」は、さりげなく自分の人生に現れて、スッと去っていくものだ、

ちょっと脇道に逸れますが、国語教師のグレイ先生の役回りの「さりげなさ」がいいです。

教師の仕事って、若者に道をさりげなく敷いてあげる存在であること、なんだなあ、、、と妙に感心してしまいました。

グレイ先生を演じたのはヘイリー・アトウェルですが、素敵でした。イギリス人女優です。アベンジャーシリーズや、ミッション:インポッシブル デッドレコニングといったハリウッド映画でも活躍しています。



『カセットテープダイアリーズ』考察〜歌詞の映像表現が素晴らしい

『カセットテープ・ダイアリーズ』の劇中、ブルース・スプリングスティーンの名曲が多数使われます、その歌詞=言葉の映像表現が素晴らしいです。

主人公ジャベドは、スプリングスティーンのメロディラインはもとより、その歌詞に勇気をもらいます。

ミュージカル映画では「歌詞を、どう映像に絡めるのか、、、?」が映画の良し悪しを左右しますよね。普通は、登場人物に普通に歌わせるのが正攻法です。

『カセットテープ・ダイアリーズ』においてももちろんそれはあります。しかし、それ以外の「歌詞表現」もふるっていました。

『カセットテープ・ダイアリーズ』では歌詞ワードが映像化され映画背景に絡みつくようにインサートをするのです。

映像に「動く歌詞」を絡めるシーンは、昨今の音楽映画の中で、「突き抜けている」とぼくは感じました。

その表現はデジタル加工をフルに使っているんだろうけど、80年代の空気を損なわないような絶妙なさじ加減なのです。

「このテがあったか!」と、思わず唸ってしまいました。公開元の本編特別映像の中に一部分使われていますので、見てみてください。

登場人物たちが歌い踊るミュージカルシーンも所々に挟まれます。

特に「涙のサンダーロード」を歌うシーンは、好きな子へ対して主人公が全力での愛の告白です。泣けました。

映画史に残る名シーン…と僕は思っています。



ミュージカルとして、どうなの??

スプリングスティーンのロックを使ったミュージカル風の仕立てでもあるのですが、なんと言いますか、『カセットテープ・ダイアリーズ』のそれは、ハリウッドスタイルの豪華絢爛なそれと違って、「シミジミ」といいのです。

『カセットテープ・ダイアリーズ』は英国映画です。「ブリティッシュスタイルミュージカル」というジャンルがあるかどうかわかりません。

だけど、以前に観た歌が入るイギリス映画でも(名前忘れた)、今回と同じシミジミ感があったので、多分イギリスの国民性が持つスタイルなんだと、ぼくは思います。決してハデじゃないんですけど、好きです、英国ミュージカル映画。




『カセットテープ・ダイアリーズ』という邦題に隠された意味

『カセットテープ・ダイアリーズ』の原題は『Blinded by the Light』と言います。これはブルース・スプリングスティーンの楽曲に由来します。「光に目もくらみ」とよく訳されています。

『カセットテープ・ダイアリーズ』の中ではクライマックスのジャベド受賞トークシーンで「光に目もくらみ」のことがジャベドによって話される、キーワード的な言葉です。

その原題を『カセットテープ・ダイアリーズ』と邦題に置き換えたのは、素晴らしいな、と思いました。

なぜなら、冒頭で幼年時代のジャベドが幼馴染からノートをもらいます。以来、ジャベドの本棚には日記と言いますか、詩が綴られたノート(日記帳だと思います)がずらりと並んでいるのです。

そのノート=日記帳が物語の隠れアイテムとなっているわけです。

ジャベドの宝物、カセットテープウォークマンと自分の思いのたけを綴った日記帳。この二つを邦題に冠した配給会社のセンス、素晴らしいと思いました。

ちなみに『カセットテープ・ダイアリーズ』劇中においてはジャベドとループスが、アメリカ・ニュージャージーのアズベリーパークを訪問するシーンで流れます。(アズベリーパークはスプリングスティーンのファンにとって聖地でもあるのです。)

こちらがブルース・スプリングスティーン&Eストリートバンドのプレイする『Blinded by the Light』です↓




『カセットテープ・ダイアリーズ』ぼくの評価は?

ちなみにぼくは、『カセットテープ・ダイアリーズ』に描かれた同時代を生きてきました。劇中の重要なアイテムの一つ、カセットテープとウォークマンを使い倒した世代です。偶然にも映画の同時代を英国にバックパックで旅し、有色人種への差別も実際に体験しています。

おまけにその昔、スプリングスティーンを東京代々木オリンピックプールライブを観に行ったほど、ボスが好き。だからこの映画が響いたのでしょうか?

答えは、イエスであり、ノー。

ブルース・スプリングスティーンにあまり興味を示していなかった家人が、こう言いました。

『スプリングスティーンの歌詞って、こんな歌詞だったんだ。いいねえ!!』

愛と勇気をもらえた一本でした。ぼくの評価は星五つです。

『カセットテープ・ダイアリーズ』スタッフ・キャスト

以下、制作スタッフとキャストを書いておきます。

監督:グリンダ・チャーダ 脚本:グリンダ・チャーダ/サルフラズ・マンズール/ポール・マエダ・バージェス

キャスト ビヴェイク・カルラ/クルヴェンダー・キール/ミーラ・ガラトナ/ネル・ウィリアムズ/ヘイリー・アトウェル/他



『カセットテープ・ダイアリーズ』配信は?

配信は U-NEXT/HULU /FODプレミアムで配信中です(2023年6月現在)

レンタルは Prime Video/ DMM TV/RAKUTEN TV/クランクインビデオでレンタルできるようです。

運営サービス 配信 or レンタル
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