『ぼくの家族と祖国の戦争』ネタバレ感想・あらすじ
実話が問いかける「戦争はなぜ起こるのか」
久々にすごい戦争映画を見ました。『ぼくの家族と祖国の戦争』です。
『ぼくの家族と祖国の戦争』は、第二次世界大戦下のデンマークを舞台にしたヒューマンドラマです。
戦争映画と言っても、戦場も銃撃戦も映し出されません。
戦場から遠い地の人々を、戦争がどう引き裂いてしまうのか?
争いのタネは身近にあることを、この映画は静かに教えてくれます。
2023年のデンマーク映画です。
『ぼくの家族と祖国の戦争』あらすじは?
時は第二次世界大戦末期。舞台は戦火の及んでいない、デンマークのとある町です。
そこでの生活は、ドイツ軍に占領はされているけれど、いたって普通。
映画の主な舞台となるのは市立大学ですが、学生が勉学に励み、カリキュラムも組まれている。ごく普通の大学です。
そこへ、急転直下、占領ドイツ軍の指示のもと、ドイツ本国から避難民がやってきます。
わかりやすく言えば、国境を越えての強制疎開です。
その大量の疎開民を、その町の大学が押し付けられる。
主人公の学長はもちろん反対します。
が、そこは非占領国の悲哀、ドイツ軍からあっさり「面倒を見ろ」と、押し切られます。
仕方なく体育館だけを開放する学長。
学長も町の人々はもちろんアンチナチスです。
しかし、学長の妻は、避難民の腹を空かせた子どもたちを捨て置けません。
だって、母親ですから。
子どもたちにこっそりとミルクを届けようとしたり、シリアルを分けたりします。
次第に町の空気はギスギスと音を立て始めます。
さらには難民ぎゅうぎゅう詰めの劣悪な環境が、感染症を引き起こし、事態が急変していきます。
学長と妻は、疎開民と町の人々の板挟みにあいながらも、信念を貫こうとします。
しかし小学生の息子は、ナチの手先と同級生たちからいじめに合います。
そして、避難民孤児と息子の言葉なき心の交流。
どういう行いが正しくて、何が間違っているのか?
町の人々の分裂と国家の大義と良心のはざまに揺れる学長家族たち。
はたして、その先にはどんな景色が現れるのか……?
『ぼくの家族と祖国の戦争』感想
⚫︎人間ドラマに徹底して焦点を当てた脚本
ドラマのはじまりで敵国ドイツ軍兵士は命令を伝えるシーンと避難民がやってくるシーンなどで登場はしますが、ほんの脇役です。
あくまでデンマーク人の目を通したデンマーク人同士のドラマが展開します。
このことは、「敵と味方」という、戦争映画にありがちな構図を捨て去っています。
逆にあまりドイツ兵を出さずに町の人々の分裂を描くことで、「もう一つの戦争が起きている」と語っているんですね。
この脚本が見事です。
⚫︎絵的に優れた構図と映し出す心の揺らぎ
主人公は、市立大学の雇われ学長ヤコブとその家族=妻リスと小学生の息子=12歳の男の子です。
「歴史が答えを出す」とはよく言いますよね。『ぼくの家族と祖国の戦争』は、まさにそんな答えを見せてくれている映画です。
映し出すのは、誰もが持っている心の闇と揺らぎです。
冒頭の大学学長とその息子がデンマーク国旗を掲揚するカットからして、ゾクリとするほど絵的に素晴らしいです。
そのカットから「この映画、間違いなく佳作だ!」って思わせられました。
制作側の気持ちが込められたカット構図には、そんなパワーがありますね。
絵的な話は後回しにして、この映画がどんな良さを持っているか?順を追って書いていきましょう。
⚫︎少年の視点が問いかける「正しさ」とは?
この映画は、無垢な少年=息子の視点がめちゃくちゃ生きています。
子どもって、オトナが持っている判断基準や「語る言葉」をまだ持ち合わせていません。
なので、「正しい!」とか「間違っている!」って声高に言えません。
その描き方が秀逸なんです。
アンジェリーナ・ジョリー監督の名作に『最初に父が殺された』という、これも子ども視点の映画がありましたけれど、それと同じです。
子どものリアルをきちんと描いています。
ネタバレになりますけど、学長の息子は街の子供たちから父親がドイツ人に手を差し伸べたことへの答えの1つとして、壮絶ないじめを受けます。
そこから息子は自分なりにきちんと考えて行動するんですね。
それがいいか悪いかは別にして、彼なりに、悩み、そして考えて、答えを出しているんです。
その彼のとった行い、選択に、観客は誰しもうなずかざるを得ないでしょう。
⚫︎登場人物たちをあなたは裁けるか?
この映画の登場人物たちは、誰もが自分を正しい、と思い行動します。
・徹底的にドイツ避難民を敵対視し、レジスタンスに協力する音楽教師。敵対派の急先鋒が、音楽=ハーモニーの教育者という設定が、超絶ニクすぎる。
・敵国ドイツ人とはいえ、食べ物を届けようとする学長の妻。
・学長を任命した市長夫妻は、学長にドイツ人を支援しないよう強要します。
・学長は、ドイツ人の子どもたちが感染症で命を落とし始めたことで、それまでの態度を一転させ、感染症の対策へ奔走します。
・その学長の姿勢に唾を吐きかける町の人々。
・そんな大人たちを、子どもならではの素直さで無言のうちに見守り、行動する少年。
この映画の素晴らしいのは、そんな人々がそれぞれ正しい!と思っていることが、ある時点でひっくり返るんです。
母性からか敵国の子に食事を与えていた学長の妻が、学長が感染症防止に走ろうとすると、一転して止めに入るカットは、人の心の揺らぎをわかりやすく表現しているんですね。
ドイツ難民を敵対視していた音楽教師の態度にもその「ひっくり返り」が見られます。
どの人の気持ちを想像してみても、ぼくはすべての気持ちに、強いて言うなら唾を吐きかける気持ちにさえ(唾を吐く行為は良くないけどね)納得できました。
もしかするとぼくもその場にいたなら、唾を吐きかける側だったかもしれないんです。
もしかするとぼくもその場にいたなら、レジスタンスに協力する敵対派に入っていたかもしれません。
もしかするとぼくもその場にいたなら、ドイツ人の子どもたちに抗生剤をこっそり届けていたかもしれません。
戦争という巨悪の下では、誰も人の行いを裁くことなんかできないのです。
戦争とは、その時代に生きる市井の人々全員の呼吸が生み出した、臭い息のようにぼくには思えました。
・祖国という言葉の持つ意味は?
そういう考えをもって、この映画のタイトルに使われている「祖国」という言葉を考えると、とても複雑な意味を含んでいるように思えます。
「祖国」って言葉は、ただの土くれの広がりではなく、そこに生きる人々が生み出す、一つの概念でしょう。
この映画はデンマークで実際に起きた出来事をもとに制作された作品です。
この映画が伝えたかったのは、登場人物一人一人の行為の良し悪しではなく、戦争を起こした時代の市井の人々の呼吸が生み出した、狂気なんだ…と、ぼくは感じました、
たぶんデンマーク人にとっての祖国を仮に人に例えるなら、デンマークという大地は、泣いていたんだと思います。
そして、戦争から80年経った今だからこそ、世界に向けてようやく発信できたんだ、とも思います。
戦争の話として捉えるよりも、普段生きている日常を取り巻くぼくらの世界にも当てはめることができる逸話だとぼくは感じました。
『ぼくの家族と祖国の戦争』はこんな人におすすめ
- 戦場ではなく人間を描いた戦争映画を観たい人
- 『関心領域』『最初に父が殺された』のような作品が好きな人
- 「戦争はなぜ起こるのか」を考えたい人
『ぼくの家族と祖国の戦争』ぼくの評価は?
ぼくの評価は星四つ半です。
学長の心境が変化する重要な場面だけは、少し展開が急に感じられました。大切な転換シーンであるだけにそこだけが惜しく、評価は星4.5です。
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スタッフ・キャスト
監督
アナス・W・ベアテルセン
脚本
アナス・W・ベアテルセン
アナス・フリース・ハンセン
出演
- ピルウ・アスベック(学長ヤコブ)
- カトリーヌ・グライス=ローゼンタール(妻リス)
- ラッセ・ペーター・ラーセン(息子セーアン)
『ぼくの家族と祖国の戦争』配信先は?
以下のサービスで配信・レンタルされています。(2026年7月現在情報です。配信が終わっておいる場合もありますので、ご確認ください)
| U-NEXT | 見放題配信 | 初回31日間 無料 |
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