映画『コットンテール』レビュー|父と子の再生を描く英国ロードムービー【リリー・フランキー主演】
こんにちは、映画好き絵描きのタクです。今回取り上げるのは、リリー・フランキー主演の映画『コットンテール』。
愛する妻を亡くした男が、遺言に従いイギリス・湖水地方へと旅するヒューマンロードムービーです。
この映画の舞台は、英国屈指の美景・湖水地方(レイク・ディストリクト)。家族の絆や喪失、再生の物語が、やさしくも切ない風景の中に描かれています。
監督・脚本はイギリス人のパトリック・ディキンソン。制作陣も英国側がメインで、実質“イギリス映画”と言える構成。
「ピーターラビット」「親子の確執」「家族の再生」「迷える旅人」…そんなキーワードが、物語を丁寧に紡いでいきます。
本作は第18回ローマ国際映画祭で最優秀初長編作品賞を受賞。2024年、日本とイギリスの合作として公開されました。
※以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。
『コットンテール』のタイトルの意味は?
“コットンテール(Cottontail)”とは、ピーターラビットの三姉妹のひとりの名前。直訳では“綿しっぽ”ですが、うさぎの尻尾のように小さくて柔らかく、そしてどこか寂しげで温かな響きを持っています。
ちなみに、ぼくの初・海外ひとり旅は1989年、ピーターラビットの故郷・湖水地方でした。あの風景の素晴らしさといったら…右も左も絶景だらけ。
そんな個人的思い出もあって、『コットンテール』というタイトルだけで、胸にグッときてしまいました。
『コットンテール』作品情報・キャスト一覧
監督・脚本:パトリック・ディキンソン
キャスト:リリー・フランキー/錦戸亮/木村多江/高梨臨/恒松祐里/工藤孝生/イーファ・ハインズ/キアラン・ハインズ
『コットンテール』あらすじ(ネタバレあり)
60代の作家・大島兼三郎(リリー・フランキー)は、最愛の妻・明子(木村多江)を病で失う。
深い喪失感に包まれる中、彼は明子が残した「遺灰をウィンダミア湖へまいてほしい」という願いを受け取り、長らく疎遠だった息子・慧(錦戸亮)、その妻さつき(高梨臨)、孫のエミとともにイギリスへ向かう。
しかし、父と息子の間には深い溝が。衝突を繰り返す中、兼三郎は単身湖水地方へ向かうが、道に迷ってしまい……。
感想① ダメ親父キャラが絶妙にリアル
物語は、妻の死をきっかけに始まりますが、いわゆる「しんみり感」は排除。
日常を淡々と描く中に、リリー・フランキーの自然体の演技が光ります。
彼の演じる兼三郎は、作家になれなかった“なりたかった人”。
孫を見失うほど頼りなくて、息子夫婦に怒られたりもしますが、それでもどこか憎めない。
まるで、自分の父親や自分自身を見ているような錯覚にさえ陥ります。
感想② 現在と過去の交差が痛くも美しい
本作では、イギリスでの旅と日本での過去が交差しながら描かれます。
過去パートでは、木村多江演じる明子が若年性アルツハイマーを患う様子が描かれ、その演技には胸を締めつけられました。
そして、現在パートでは迷える兼三郎の姿が静かに浮かび上がってきます。
情けないのに優しい。醜いのにどこか愛おしい。その空気感が、とても好きでした。
感想③ すれ違う父と息子に刺さる人、続出か?
錦戸亮演じる息子の慧もまた、「理解できない父」を抱える存在。
ぼく自身、親との距離感や衝突に悩んできたので、見ていて本当に痛かった…。
この父子関係が「刺さらない」方は、おそらく親との関係が良好だった人。
むしろ、そんな方がうらやましい…。
感想④ 迷子になる過程がリアル
映画の中で兼三郎が汽車を間違えて降りる場面があるんですが、ぼくはそこに妙にリアリティを感じました。
キングスクロス駅からヨーク方面行きの列車に誤乗→ヨークシャーで下車→自転車で西へ向かい、湖水地方へ…
こんな地理的ロジックを感じさせる展開、好きです。説明せずとも、物語が筋を通してると感じます。
感想⑤ 湖水地方の魅力は控えめ…
期待していたイギリス、湖水地方の絶景は…正直、やや物足りなかったです。
イギリス風景が平凡というわけではないけれど、新しい視点での“切り取り”が感じられなかった印象。
監督がネイティブのイギリス人であるがゆえに、イギリス風景を“当たり前風景”として見てしまったのかもしれません。
感想⑥:イギリス人の親子がいい味出してる
迷って倒れかけた主人公を助けるのが、地元イギリス人の農家親子。
その親子のやりとりが印象的で、「ああ、この映画は父と息子の物語なんだ」と、改めて思わされます。
静かなシーンなのに、心に残る。こういう描写が映画の芯を支えていると思いました。
『コットンテール』ぼくの評価は?
ぼくの感想評価、星四つ🌟🌟🌟🌟です。
星が欠けた理由は、ふたつあります。
一つ目は、リリー・フランキー演じる「ケンザブローと脇役たちとの間合い」が、何かを伝えたい「間」だ…ということはわかるのですが、どうも終始、説明的な「間合い」に終わっていて、生かされていなかったのが残念と感じました。
監督のパトリック・ディキンソンは、日本人や日本文化に理解と造詣が深そうです。
ということは、日本人の対人の距離感や対話の「間」もわかっている方でしょう。
なので、その残念感は、ぼく個人の感覚とイギリス人監督の「コミュニケーション間合い」についての感覚のズレなんだと思います。
もう一つはラストシーンの湖水地方を見下ろすカットへの残念感です。
ドラマのさまざまな意味での終着点がウィンダミア湖だったのならば、「丘の上のビューポイント」というラストアングル設定は、眼下にはちらっとでも「湖が広がっている場所で撮影してほしかった」と思いました。
なぜあの印象的なラストカットで普通の湖水地方の山並みカットにしたのか?
別にロケ地はウィンダミア湖でもエスウェイト湖でも、どこでもよいし、ビューポイントは実際数多くあるわけで、、、。予算の関係で撮影しきれなかったのか?
ラストシーン直前の湖に散骨するシーンが秀逸でしたし、きちんと野うさぎをラストに出していましたので、なおさらに物語の円環が、プツッと途切れてしまったようで残念に感じました。
と、二つの正直残念を差し引いても、いい映画でした。
いい映画をありがとうございました。
『コットンテール』予告編
映画『コットンテール』のレンタル・配信情報
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まとめ|『コットンテール』は“父と息子”に心揺れる静かな佳作
『コットンテール』は、風景ではなく“関係性”を描いた映画です。
イギリスの空気に癒やされつつも、ぼくたち日本人が抱える家族の距離感、その痛みや優しさに深く共感できるヒューマンドラマでした。
親子関係で悩んだ経験のある人なら、きっと心に残る一本になるはずです。(誰でもあるよね?きっと)
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