『ユナイテッド93』その真実と感想・評価レビュー|日本人も乗っていた911テロ実話ベース

実話・リアリティ

2001年、アルカイダハイジャック機による、全米同時多発テロ事件がありました。その混乱を、航空管制塔、米軍基地、そして、ただ一機のみ目標ホワイトハウスに到達せずに墜落した「ユナイテッド93便」を機内目線で描いた作品。生き残った乗員乗客はゼロ。(中には日本人も搭乗していました。久下季哉さん。20歳の学生です。)




管制官や陸軍司令官などは実際事件当時に現場に居た本人が演じています。また、乗客乗員はほとんど無名の俳優を起用。監督・脚本は『ボーンスプレマシー』などボーンシリーズや『グリーン・ゾーン』『この茫漠たる荒野で』の英国人監督ポール・グリーングラス。

「記録を残すことが映画の役割の一つ」ですが、その役割を果たした作品をレビューします。




『ユナイテッド93』の感想・評価レビュー

一言で言うと、まるでハイジャックされたユナイテッド93便の機内や管制塔に自分が一緒に叩き込まれたような錯覚に陥る映画です。

決して派手な演出は加えていません。しかし、観客をあっという間に機内や管制室に引っ張り込む真の臨場感とはこういうことか、と思いました。




絶句1 混乱する管制塔

管制官の間を行き交う混乱したセリフ群。「混乱」を見事に映画を見ているこちら側に伝えながらも、肝心のストーリーは決して混乱させずにグイグイ引き込む演出のうでに絶句。

絶句2 てらいがない映像

普通、映画って、なんらかの「効果」を狙って撮影しますよね。

アクションならアングルをキメます。ラブシーンなら空気感を醸すトーンで柔らかく包み込む。

そんなふうにケースバイケースで効果を狙うわけですが、『ユナイテッド93』は効果狙ってるてらいがない。

カメラレンズ通さずに、その場に自分がいるような気になっていました。




絶句3 機内も自然な光。

飛んでいる飛行機の機内シーンが映画の半分以上を占めるのですが、光の具合があたかも飛行中の機内の光のよう。

光と影が自然すぎて、セットで撮影してるなんて思えませんでした。(たぶんセットだと思う)また、飛行機の中の通路の狭さをていねいな撮影で伝えてました。

照明マンとカメラマンの腕に絶句でした。

絶句4 俳優さんの演技

延々と緊張状態が続く管制官と空軍基地内の軍人たち。その張り詰めた空気を醸し出す演技に脱帽です。

スクリーンを見ているこちらの胃が痛くなりました。

機内の上客を演じた俳優さんたちは、無名の俳優を起用したとのこと。その全員がリアリティありすぎます。「それが俳優の仕事です」と言われればそれまでだけど、平常時とハイジャックされた後の役のきり変え方に、感じ入りました。

また、管制官や軍人の役を、現場を知っている本人が演じています。俳優としては素人なはずですが、全く素人感を感じません。映画観終わってエンドロールクレジットで配役に「本人」と出るまで気が付きませんでした。

現場を知ったものだけが出せる静かな凄みを感じました。

(同じような本人出演の事実ベースでテロを扱った映画に『15時17分、パリ行き』があります。こちらも当ブログで取り上げています。)

有名俳優を使っていたなら、こんな佳作にはならなかったと思います。




『ユナイテッド93』墜落・その真実はどこにある?

「ユナイテッド93便」は実際に墜落してしまった飛行機です。「機内映像」が残っているわけではありません

また、乗員乗客44名の全員が死亡(ハイジャック犯人含む)という惨事でした。

全員死亡ですから、現場を証言できる証人がいません。では、どうやって映画制作スタッフば機内の様子を知ったでしょう?

観終わってぼくは疑問におもいました。

で、調べてみました。




『ユナイテッド93』真実の探り方

映画でも描かれますが、乗客がテロリスト達の目を盗み、機内電話やケータイを使い、家族や警察に電話しています。

電話を受けた人たちの証言から、機内がどうだったのか、ある程度推測できます。

乗客たちが飛行機の奪還を意図したことは、電話を受けた家族たちの証言でわかっているようです。

また、回収されたボイスレコーダーにも、テロリストたちと乗客の緊迫した押し問答や食器が割れる音などが記録されていたと言います。

また、コクピットと客室を隔てるドアを叩き壊す音も録音されていたことから、乗客たちによる操縦席奪還行為が、事実として浮かび上がってきます。

そんな録音記録や外部の証言を丹念に繋ぎ合わせて浮かび上がってきた「こうだったに違いない」という推測を映像化したのが『ユナイテッド93』なんですね。

記録がない古代史でも、残された残滓や遺物にいくつかの光を当てて、誰も見たことがない事実を炙り出していきます。

『ユナイテッド93』は歴史の史実証明と同じアプローチで作られたのですね。




『ユナイテッド93』日本人乗客も搭乗

実際の事件において、久下季哉さんという当時20歳の日本人の学生さんも搭乗し、亡くなっています。

『ユナイテッド93』劇中でも所々のシーンで、久下さんと思われる役回りの若いアジア人が描かれています。

日本人だから、、、というわけではありませんが、制作陣のていねいな配役に手を合わせました。



『ユナイテッド93』ラスト数分の真実の記録

Wikipediaに、飛行機が地面に激突する10分間のボイスレコーダーの記録が記されています。

その内容で締めくくりとします。(Wikipediaから転載=一部省略・表現変更あり)

953分:「連中が来たら非常用の斧を使え」との声。

958分:乗客の怒鳴り声や大量の皿などが割れる音。

959分:乗客が操縦席のドアを壊そうとする音。ハイジャック犯の「ドアを押さえろ、絶対中に入れるな」との声。

1000分:機体が急降下・急上昇を繰り返す。

1001分:ハイジャック犯の「墜落させてやる、酸素を止めろ」との声。

1003分:時速907 kmでピッツバーグ郊外シャンクスヴィルに墜落。




『ユナイテッド93』映画のあらすじです。

2001911日、朝、ニューアーク空港を一機の旅客機ユナイテッド93便が離陸した。

ガラガラの機内には乗員乗客ふくめて老若男女44人が乗っている。

空の混雑を仕切る航空管制塔で、管制官が空の異変を察知する。

複数の飛行機が同時ハイジャックされたのだ。

軍と連絡を取り合い必死の対応に追われる中、ハイジャック機の2機が貿易センタービルに突っ込み、別の一機はペンタゴンにも墜落する。

呆然となる管制官、そして、軍。

その時ユナイテッド93便では、アルカイダのテロリスト達が操縦席を制圧すべく、ハイジャック計画を実行に移し始めていた

ラストは、記事後半の『ユナイテッド93』ラスト数分の真実の記録に書いています。




『ユナイテッド93』ぼくの評価

導入でも書きましたが、映画の役割「歴史の記録を残すこと」を果たしていると思います。素晴らしいリアリティの映画でした。

唯一、ぼくはハイジャック犯=アルカイダの四人の「人となり」が、劇中、よく見えなかったのが残念です。

もっとも犯人たちも死亡、彼らの過去も霧の中でしょう。分かろうはずもありませんが、、、

監督は、単純にハイジャックの犯人を悪役として描いていません。微妙な行間を持たせています。

本作では事件の性格上、その「行間」を映画に忍ばせるのが、精一杯だったのかもしれません。








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