『西部戦線異状なし』2022レビュー*登場人物解説:ネタバレ考第2回
『西部戦線異状なし』(原題: Im Westen nichts Neues)のレビュー2回目は、”登場人物解説”から”レマルクの原作との違い”考察、”兵士の絶望感を極限まで表現した戦車登場のシーン”までレビューしてみます。
今回2回目レビューということは、1回目レビューももちろん書いています。
1回目の解説ブログでは、”ネタバレありのあらすじ”から、”西部戦線とは何か?”そして”映画への評価”まで書きました。そちらから読みたい方はこちらへどうぞ。
それでは原作と2022netflix作品『西部戦線異状なし』レビュー第2回です。
2022netflix作品『西部戦線異状なし』予告編
『西部戦線異状なし(2022)』主要登場人物まとめ
第一次世界大戦末期の西部戦線を舞台に、若いドイツ兵たちの理想と心の崩壊を描いた『西部戦線異状なし』には、多くの人物が登場します。
ここでは特に物語の軸となるキャラクターをわかりやすく解説しておきましょう。
パウル・ボイマー(演:フェリックス・カマーラー)
『西部戦線異状なし』の主人公。まだ17歳の学生で、仲間とともに志願兵として入隊。
戦うことへの期待と高揚を抱いて戦場に向かうものの、塹壕戦の過酷な現実に直面し、理想が音を立てて崩れていきます。
戦友への友情、生きるための本能、戦争の虚無がパウルの目を通して描かれます。最後まで観客と感情を共有する存在です。
スタニスラウス “カット”・カチンスキー(演:アルブレヒト・シュッホ)
古参兵で、経験豊富な頼れる存在。
戦場で生き残る術を熟知しており、若い兵士たちの心の支えになっています。
パウルにとっては兄のような存在であり、彼との関係は『西部戦線異状なし』の中で最も人間味を感じさせる要素のひとつです。
アルベルト・クロップ(演:アーロン・ヒルマー)
パウルと同じ学生志願兵のひとり。明るい性格でしたが、戦場の現実の中で次第に追い詰められていきます。
若者が戦争によって精神と未来を奪われていく象徴的なキャラクター。
フランツ・ミュラー(演:モーリッツ・クラウス)
真面目で控えめな青年兵。
愛する女性の写真を大切に持ち歩くなど、「普通の若者らしさ」を失わない姿が印象的。
その思いが戦争に踏みにじられていく。
ルートヴィヒ・ベーム(演:エイドリアン・グリューネヴァルト)
志願兵仲間のひとりです。
行軍・戦闘・混乱の中で、若い兵士の「希望が奪われていく瞬間」を最も象徴的に描くキャラクターです。
彼の描写によって、戦争というシステムの残酷さがより際立ちます。
マティアス・エルツベルガー(演:ダニエル・ブリュール)
政治の場で描かれる人物。
ドイツ側の休戦交渉を担当する代表で、前線で命を落とす若者たちの現実とのギャップを痛感しながら、戦争終結のため奔走します。
「戦場の現実」と「政治の意思決定」の乖離を浮かび上がらせる重要な立ち位置。
フリードリヒ将軍(演:デヴィッド・ストリーゾウ)
ドイツ軍の将軍。
休戦期限が迫る中でも兵士の犠牲を顧みず、無意味な突撃命令を下す人物として描かれます。
若者の命を奪う戦争の構造そのものを象徴するキャラクター。
『西部戦線異状なし』登場人物相関表(役割・関係性)
| キャラクター名 | 立場・役割 | 主人公との関係・物語上の役割 |
|---|---|---|
| パウル・ボイマー | 若き志願兵・主人公 | 戦争が青年の人生を壊す様を体現 |
| カチンスキー(愛称カット) | 古参兵 | パウルにとって兄のような存在・精神的支柱 |
| アルベルト・クロップ | パウルと同級の志願兵 | 仲間の象徴・友情と喪失を描く |
| フランツ・ミュラー | 志願兵仲間 | 若者の普通の夢が戦争に奪われる象徴 |
| ルートヴィヒ・ベーム | 志願兵仲間 | 戦争の残酷さが若者を瞬時に飲み込むことを示す |
| マティアス・エルツベルガー | 休戦交渉を行う政治家 | 前線と政治の乖離を描き、戦争の不条理を強調 |
| フリードリヒ将軍 | 軍上層部 | 兵士の命を顧みない“体制指導がわの象徴” |
『西部戦線異状なし』登場人物が語るテーマ
登場人物たちは、それぞれ異なる角度から作品の反戦メッセージを強調しています。
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パウルと志願兵仲間 → 戦場が若者の未来を奪う現実
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カチンスキー → 戦争の中でも消えない人間性と仲間意識
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将官・政治家 → 「決断する側」と「犠牲になる側」の断絶
複数視点が描かれているからこそ、『西部戦線異状なし』はただの戦争映画ではなく、戦争の仕組みそのものを批判する作品に仕上がっていると思います。
『西部戦線異状なし』考察・原作と2022年公開映画との違い
原作を換骨奪胎、新ストーリーで展開させる
2022年公開の映画『西部戦線異状なし』は、あくまで原作文学をベースにはしていますが、よくある「そのまま映画にした作品」ではありません。映画として脚本を練り直し、新たな作品として生まれ変わらせています。
また、Netflixサイトや映画サイト等では「リメイク」と書かれています。過去、2本の『西部戦線異常なし』が映画とテレビシリーズで作られていますので、そのリメイクという意味かと思います。しかしぼくは「それらの映画の焼き直し」とは思えませんでした。
リメイクという言葉、受け取る印象が人それぞれなので難しいですよね。
本作は、原作とは、ものがたりの進め方も別モノです。(登場人物はだいたいリンクしていますが)
原作に書かれている戦場の狂気の世界と、反戦の思想。それを今回の映画制作陣は丁寧に取り込み、換骨奪胎、新ストーリーを作り上げています。
原作に敬意を払い、仕込み、熟成させ、蒸留し、「今という時代にしかできないこと」をバッティングし、成功させています。
『西部戦線異状なし』2022 ストーリー解説=原作にはないダブルストーリーが光る
新作は、原作にはないエピソードを同時進行させている点も、大きな効果をあげています。
そのエピソードとは、
森の中の客車が舞台となってのドイツとフランスの停戦交渉です。
政治の場での緊張感あふれる交渉。そして最前線での塹壕戦の凄惨なシーンがカットバックする。そのダブルストーリーの構成は、ドラマに重みと深みをあたえていました。
そして、その「同時進行スタイル」は、見事、ラストへの伏線となります。
『西部戦線異状なし』2022 ラストシーン解説〜ネタバレ閲覧注意
1930年に公開された第一作目(便宜上、旧作と呼ぶことにします)のラストでは、パウルが静かな中、蝶に手を伸ばしたところを撃たれて戦死するシーンで終わります。
ネタバレになりますが、2022公開の本作でのラストは、こうです。
2022公開作ラストシーン
ピリピリ張り詰めた空気の客車内、独仏停戦交渉団の交渉は、「11月11日、11時をもって停戦とする」という内容で合意。サインが入れられる。
一方、前線の後方陣地では、指揮官の将軍が停戦合意をしり激怒。停戦まであと30分を切ったにもかかわらず、パウルら兵を集め、最前線突破、敵陣地奪還の命令をくだす。
停戦間近を知った一部の兵は将軍の発した理不尽な命令に逆らうが、即、銃殺。
表情を失ったパウルをはじめ、兵たちは重い足取りで最前線に向かう。
一方フランス軍陣地では、フランス兵たちがあと15分で停戦だと、戦勝気分でシャンパンを開けている。
パウルらの最後のシーンは?
そこへドイツ兵たちが押し寄せる。阿鼻叫喚の最後の塹壕戦が開始される。
塹壕で返り血と泥にまみれたパウルの顔は、悪鬼のそれだ。
そして、パウルは、停戦数分前、フランス兵の銃剣に胸を貫かれる。
そう、パウルが刺し殺したフランス軍兵士・印刷業のジェラール・デュヴァルを刺した、まさにその場所を。
11時。停戦。
生き残った一人のドイツ兵の若い新兵が、我を失い座り込んでいる。
その彼に、「戦死者の認識表を集めろ」と声をかけるドイツ軍の上官。
呆然とした表情で、戦死者の認識表を胸元から折り取る若い兵。
その姿は、パウルの初戦の茫然自失となった姿を彷彿とさせ、映画は終わります。
このように終わらせ方こそ違いますが、伝えたいことはひとつ、反戦への思いです。
ストーリーの中にも、ラストにも、ぼくは、リメイク感は全く感じませんでした。まったく新しい映画といって良いと思います。
『西部戦線異状なし』解説〜戦車への恐怖の描かれ方
実は「戦車」が開発されたのは第一次世界大戦においてです。
劇中、フランス軍戦車が塹壕に迫るシーンがあります。
その時の兵士たちの表情が「得体の知れないバケモノ兵器」戦車への恐怖を物語っています。
分厚い鉄の箱=戦車へライフルを撃ちまくる兵たち。
「戦車に鉄砲?効果あるわけないじゃん」と、今なら誰もが思うでしょう。
しかし当時の兵士たちは、「戦車という存在」を知らなかったのです。
戦車が戦場に初めて投入されたのは映画の舞台となっている第一次世界大戦の西部戦線なのです。
当時、戦車を初めて見た兵士たちは、巨大な鉄の塊が向かってくるのを見て、どう思ったでしょう?そしてどんな気持ちで立ち向かったのでしょうか?
想像を超える恐怖がそこにはあったはずです。
絶叫と共にキャタピラに踏み潰される兵士のグロいシーンが描かれますが、恐怖心が最高潮まで達していることを表現するための見事な演出です。
その驚愕、恐怖は画面を越えて観客に突き刺さってきます。
ちなみに登場する戦車はフランス軍のサン・シャモン突撃戦車といいます。

出典:ウィキペディア
当時、開発されたばかりの新兵器ですが、実際には実戦投入の際、塹壕上で動けなくなったりしたようで、縦横無尽に活躍…というわけにはいかなかったといいます。
最初に戦場に登場した戦車は、イギリス軍の戦車です。同じ西部戦線・ソンムの戦いに投入された「Mark I」と呼ばれる戦車です。現在の戦車とは似ても似つかない形をしていますので、写真をアップしておきます。

出典:ウィキペディア
この「Mark I」が、今はタンクと聞けば誰でも頭に浮かぶ「戦車」のルーツです。
余談ですが、なぜ戦車がタンクと呼ばれるようになったか?
開発された「Mark I」を見た将軍だったか誰かが、「給水タンクみたいだな」といったのが始まり、、、と聞いたことがあります。
『西部戦線異状なし』Netflix公式撮影舞台裏映像
最後に撮影舞台裏の映像も公開されています。


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