ネタバレ感想『すばらしき世界』最後の死因からあらすじ・考察評価まで〜真っ正直に生きる果てに待つものは?

ヒューマン・ハートフル

『すばらしき世界』評価:四つ星半⭐️⭐️⭐️⭐️✨
最後の死因からネタバレあらすじ考察評価まで

今回取り上げる映画は『すばらしき世界』。2021年公開・日本映画です。

『すばらしき世界』で描かれるのは、「一度社会からはみ出した男がまっ正直に生きるとどうなるか?」。佐木隆三が実話をもとに書き上げたと言われる「身分帳」の映画化で、実在のヤクザがモデルとなっています。

主役は役所広司。脇役は仲野太賀、長澤まさみ、六角精児・北村有起哉、他。

誰もが当たり前と思っている日常=このすばらしき世界は、本当にすばらしき世界なのか…??

社会からはみ出した人間が、世間の中で自分に実直に生きようとすると、そこには何が起こるのか…?? 

第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、国際評価も高い『すばらしき世界』をレビューしてみます。





『すばらしき世界』主人公のモデルは実在人物。実話ベースです。

『すばらしき世界』は実話がベースとなっており、モデルも実在します。映画の元になったのは、佐木隆三氏の小説「身分帳」です。

主人公三上のモデルとなった方は田村明義氏。実際に殺人罪で刑務所に服役していました。田村氏が出所後、佐木氏にコンタクトをとり、「自分のことを小説にしてくれ」との依頼から本になったといいます。

もちろん映画にあたってはフィクションとなっていますが、『すばらしき世界』の三上の性格は、小説「身分帳」の主人公像を反映させたもののようです。



『すばらしき世界』あらすじは?ネタバレ閲覧注意!

出所と再出発の困難

物語は、三上(役所広司)が旭川刑務所を出所する場面から始まります。

殺人の罪で13年服役していた三上は、弁護士・庄司夫妻の支援を受け、東京での社会復帰を目指します。

しかし社会の風は冷たく、生活保護申請での口論、職探しの難航、偏見と誤解が次々と三上を襲います。

真面目に生きようとするほど浮いてしまう彼の姿に、社会の歪みが見え隠れします。

テレビ企画と揺れる心

ある日、テレビプロデューサー吉澤(長澤まさみ)とディレクター津乃田(仲野太賀)は、「前科者が母親と再会する」企画に三上を抜擢。

最初は乗り気でなかった三上ですが、失われた母への想いと、津乃田との交流によって、少しずつ心を開いていきます。

福岡帰郷と再起

世間の視線に疲れた三上は、かつての地・福岡を訪れます。

旧知の親分に、そして過去の影に向き合う三上。

福岡で彼は「真っ当に生きること」の意味を再確認し、再び東京へ戻る決意をします。

 

『すばらしき世界』あらすじ・結末最後まで〜ネタバレ閲覧注意!

以下、結末までネタバレですので、映画を見たい方はスルーしてください。

福岡での出来事は、三上に真っ当な世界に生きるきっかけをくれます。

東京に戻った彼をむかえたのは、世話になっている役場職員でした。

役場職員は、三上の体力や丁寧さを活かせる職場はどこかと考えた末に、老人介護施設を斡旋するのです。

仕事自体は三上の性格に合っているものでした。しかしそこでもまた、人間関係の嫌な面を見せられ、自分を押し殺し、苦悩する三上。

唯一の救いは、一人の障がいを持った介護施設スタッフとの交流でした。

他の職員から距離を置かれる障がい者の介護要員が「これ、あげるよ」と、摘んだコスモスを三上に手渡す。

そのコスモスに、未来を託すかのような表情を浮かべる三上。

しかし三上の未来は、花束を持ち帰った小さなアパートで、途切れてしまいます。

持病の発作が彼を襲い、倒れる三上。

二度と起きることのない三上の手元には、「すばらしき世界」への切符になるかもしれなかったコスモスの花束が転がってました。

…エンドロール。




『すばらしき世界』主役の最後の死因は?

「三上の最後のシーンの死因はなんだったのか?」が明確には明かされずに映画が終わります。ネット上でも「死因は何?」という疑問が多数見受けられます。なので、最初にぼくの推測ですが答えの一つとして書いておきます。

映画の前半で、出所した三上が、手続きのために訪れた役所で突然苦しみ倒れ、病院に担ぎ込まれるシーンがあります。

そこで三上はドクターから「高血圧症なので、治療に専念するように!」と、かなり強く言われています。

劇中では、その発作が、他のシーンでも三上を襲っていますので、その発作が伏線となっての最後の三上の死だと思います。

三上の死因、それは高血圧症からくる心筋梗塞ではないかと、ぼくは推測しています。



『すばらしき世界』感想・考察

演技のリアリティと圧倒的な存在感

冒頭・オープニングは旭川刑務所に服役している三上が出所するシーンからスタートします。

三上を演じる俳優は役所広司です。とても静かなオープニングなのですが、すぐにしっかりと観客をドラマにひきこみます。

役所広司は、静かな空気を出しておきながら、深く語るのがうまいです。

例えば、静かな「はいっ」という一言で、そのシーンを占領してしまうのが、役所広司です。

また、キャストの中では、本能でネタを嗅ぎ分ける敏腕女性プロデューサー・吉澤を演じた長澤まさみも、その弾けっぷりがよかったです

そしてプロデューサー・吉澤の対極キャラとなるのが映像ディレクター津乃田です。その津乃田を演じたのは仲野太賀ですが、シーンごとに津乃田の心の動きを嫌味なく演じていました。

中でも津乃田が三上の背中を流す時に見せる涙、そしてクライマックスの慟哭には、俳優仲野太賀の底力を感じました。

スーパー店長役の六角精児の味のある演技、そして、一見堅物役人役の北村有起哉も、とことん素敵です。

俳優それぞれの妙味がきっちり詰まった一本だと思います。




練られた脚本とリズミカルな展開で最後まで一気見

『すばらしき世界』は最後まで一気見でした。途中、意味不明となるところもなく、筋のブレも感じません。

登場人物の意味づけ役回りもはっきりしていて、それぞれきちんとキャラが立ち上がって、程よく主役に絡んでいきます。

主役三上の性格=「実直&素直=悪く言えば喧嘩っぱやくて、単純」=の描き方が、シナリオではとっても大事なところでしょう。その性格の描き方=脚本が絶妙です。

三上は真面目に生きたいんだけれど、なんとすばらしいことに、世間は三上の生き方を許してくれません。

ヤクザの三上が、すぐに血が沸騰してしまう自分を抑えて、更生への道を歩もうとするシーンの連なりと、どうにもならず暴発してしまうシーンが、うまい具合に物語に緩急を作っています。

「ここぞ!」で投入されるそんな三上暴発シーンは、エンタメスパイスが効いており、見ていて気持ちが良かったです。




西川美和監督の鋭い嗅覚

正直に言います。ぼくは西川美和という監督を知りませんでした。「ニシカワヨシカズ?それともミワ?」…もう無知丸出しですね、ごめんなさい。

で、西川美和監督を調べてみたのですが、そこではじめて女性監督だということがわかりました。ヨシカズではありませんでした。ごめんなさい。

実はぼくは、映画全編に「本能的な嗅覚」を感じていました。

「本能的な嗅覚」って何かというと、「道徳感」とか「善悪観」を越えた匂いを嗅ぎ取るセンスです。

言い方を変えれば、建前を通り越した先に漂っているほのかな「異臭」です。

『すばらしき世界』から、社会の歪みの「匂い」と人間再生への「匂い」を感じたのは、西川美和監督の、女性ならではの嗅覚で撮られた映画だったからなのではないかな、と思いました。

そう書くと「何言ってんだよ!今どき監督に女性も男性もないだろう?それは色眼鏡ってもんだ」と言われそうです。

しかし、ことそんなタテマエを通り越した向こう側の「匂い」嗅ぎ取るチカラは、男性よりも女性の方がはるかに敏感だと思います。

西川美和監督は、『すばらしき世界』を通して、今、ぼくらが生きている世界の、タテマエの向こう側に漂う匂いを嗅ぎ取る大事さを教えてくれた気がしています。




数枚の古い写真にキャラを語らせる〜光っていた美術の仕事

映画で大事なのは、『登場人物のキャラクターをどうやって厚みを持たせるか?』でもあります。

それって簡単なようで、案外難しいように思います。

役者の演技はもちろんですけど、美術の小道具がその下支えを担います。

『すばらしき世界』では、そんな小道具がとことん生きています。

劇中、三上の幼い頃から10代までの古い写真がスクリーンに現れます。その写真はたった数枚なのですが、その写真が三上がどんな過去でどんな性格なのかを強力に印象付けます。

古い写真から童顔で微笑む若い三上。

その表情は、三上という男は一匹狼のヤクザではあるけれど、素直で実直な性格であることを、無言のうちに語りかけていました。

また、「机の上のボールペンの軸からメモが取り出されるシーン」も印象的で、その後のドラマを際立たせていました。それが際立ったのも、腕のいい小道具スタッフがいてこそでしょう。

他にも、ロケされたアパートの絶妙な古めかしさや、三上が取り込む洗濯物まで、映画の裏を支える美術チームの丁寧な仕事が光っていました。




『すばらしき世界』ぼくの評価は?

ぼくは、映画を見ながら登場人物たちに感情移入し、「こんなシチュエーションで、あなたならどう動く?」と何度も問われ、その答えを登場人物の行動に重ねていました。

そんなふうに、ヤクザ、スーパーの店長、役人、テレビディレクターそれぞれに感情移入できたこと=映画に没入できたことは、演じる俳優と演出した監督のシンクロあってこそだったと思います。

また、「善と悪」「常識と非常識」の境目の曖昧さを見せてくれたこともまた、この映画の奥深さだと思っています。

みているうちに、ワルなはずの主役が真っ当に見えてきて、善良な市民の方がワルに見えてくる。そんな二つの視点を映画『すばらしき世界』は持っています。

「この“すばらしき世界”とは一体何なのか?」

最後に「この“すばらしき世界”とは一体何なのか?」について書いて終わりにします。

それは、社会の裏側にいた人間が、再び生き直そうとする「すばらしいはずの世界」は、果たして本当にワンダフルワールドなのだろうか?…という問いを立てることで見えてきます。

ぼくは、三上の心の内こそが、実は「すばらしき世界」だったように思えました。

ぼくの評価は、四つ星半⭐️⭐️⭐️⭐️✨です。

いい映画をありがとうございました。

『すばらしき世界』スタッフ・キャスト

監督:西川美和

キャスト:役所広司・中野太賀・長澤まさみ・六角精児・北村有起哉・安田成美・白竜・キムラ緑子・梶芽衣子・橋爪功




『すばらしき世界』配信は?

下記サービスで配信・レンタルできます(2023年12月現在)

サービス 配信or レンタル
Amazonプライム 配信中
TSUTAYA DISCAS DVDレンタル
music.jp  レンタル
TELASA レンタル
クランクインビデオ レンタル
Lemino レンタル
FOD Premium レンタル

 

 

 

 

 

 

 



コメント

タイトルとURLをコピーしました