映画『すばらしき世界』ネタバレあらすじからラストの死因まで〜考察・評価|実話ベース

ヒューマン・ハートフル

こんにちは!運営人の映画好き画家・タクです。

今回のムービーダイアリーズレビュー作品は『すばらしき世界』。2021年公開・日本映画です。

映画『すばらしき世界』のテーマは、ずばり、「正直に生きるとはどういうことか?」です。

社会からはみ出した人間が、世間の中で素直に実直に生きようとすると、そこには何が起こるのか??

佐木隆三が実話をもとに書き上げたと言われる「身分帳」の映画化作品で、実在のヤクザがモデルとなっています。

主役を役所広司が演じ、脇を仲野太賀、長澤まさみ、六角精児・北村有起哉らが固めています。

誰もが当たり前と思っている日常=このすばらしき世界は、本当にすばらしき世界なのか??を深くえぐり出す社会派ドラマです。

第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、国際評価も高いと言われる『すばらしき世界』をレビューします。




『すばらしき世界』予告編







『すばらしき世界』あらすじは?

主人公は元ヤクザの三上(役所広司)。映画は旭川の刑務所を三上が出所するシーンから始まる。

殺人の罪で13年の刑期を終え出所した三上は、東京の古いアパートで新たな生活を始め、身元引受人となった弁護士の庄司夫妻の助言のもと、社会復帰を目指す。

そんな三上の存在に、一人のテレビプロデューサー吉澤(長澤まさみ)が目をつける。

「社会復帰を目指す前科者を、失踪した母親を探し出して対面させる」企画だ。

小説家志望のテレビディレクター・津乃田(仲野太賀)がその企画を投げかけられ、渋々ながら制作を引き受ける。

三上の過去を調べた津乃田は、三上が幼い頃から虐待を受けていたこと。少年院に送られたこと。出所後にヤクザの世界に入り、殺人を犯してしまったことなどを知る。

必死に更生しようと努力する三上だ。しかし、三上の実直ストレートな性格は、社会の中ではきしみを生んでしまう。

生活保護申請のため訪れた役所では役人と口論となりかけたり、スーパーでは店長に万引きの疑いをかけられてしまったり。やりたい仕事はすでに時代の彼方に消え去っていたり、、、。

そんなトラブルや想定外の出来事が繰り返されるが、結果、役人やスーパー店長は三上に救いの手を差し伸べるようになる。

時折、三上には爆発するかのようにヤクザとしての顔が現れるが、次第にディレクター津乃田はそんなこともひっくるめて、三上の更生を応援する様になる。

三上自身は性格を抑え込み、社会に溶け込もうと苦悩するが、世間の風は冷たい。

ついに三上は、禁を破り、ふるさとの福岡へ向かい、かつて世話になっていた組の親分を訪ねてしまう。

挫折しかけた三上が福岡で出会うドラマが、物語をクライマックスへと進めていく。

そんなあらすじです。

『すばらしき世界』あらすじ・結末ラストまで(ネタバレ閲覧注意)

途中は、かいつまんじゃいます。

以下、結末までを、ざっと書きます。ネタバレですので、映画を見たい方はスルーしてくださいね。

福岡での出来事は、三上に真っ当な世界に生きるきっかけをくれる。

東京に戻った彼を身変えたのは、世話になっている役場職員だ。

役場職員は、機転をきかせ、三上の体力や丁寧さを活かせる職場をと考え、老人介護施設を斡旋する。

しかしそこでもまた、人間関係の嫌な面を見せられ、自分を殺し抑え、苦悩する三上。

唯一の救いは、一人の障害を持った介護施設要員との交流だった。

他の職員からうざがられる障害者の介護要員が「これ、あげるよ」と、摘んだコスモスを三上に手渡す。

そのコスモスに、あたかも未来を託すかのような表情を浮かべる三上。

しかし三上の未来は、花束を持ち帰った小さなアパートで、途切れる。

持病である高血圧の発作が彼を襲い、倒れる三上。

二度と起きることのない三上の手元には、「すばらしき世界」への切符になるかもしれなかったコスモスの花束が転がっていた。

…という結末です。




『すばらしき世界』モデルは実在。実話ベースです。

『すばらしき世界』はフィクションのような雰囲気がありますが、実話がベースとなっており、モデルも実在します。

映画の元になったのは、佐木隆三氏の小説「身分帳」です。

主人公三上のモデルとなった方は田村明義氏といい、実際に殺人罪で刑務所に服役していました。

田村氏が出所後、佐木氏にコンタクトをとり、「自分のことを小説にしてくれ」との依頼から本になったいきさつがあります。

田村明義氏の出所後の社会での苦労や軋轢を佐木隆三氏が取材を重ねて、一冊の本にまとめたといいます。

もちろん映画にあたって細かな設定は変わってフィクションとなっていますが、『すばらしき世界』の三上の性格は小説の田村明義氏の主人公像を反映させたもののようです。

三上・最後の死因は?

「三上の最後のシーンの死因はなんだったのか?」がはっきりとは明かされずに映画が終わります。

その点スッキリしませんが、答えは多分「高血圧症」でしょう。(ぼくなりの推測です)

劇中前半で、出所した三上が、手続きのために訪れた役所で突然倒れ、病院に担ぎ込まれるシーンがあります。

そこで三上は医師から「高血圧症なので、治療に専念するように」と、言われています。

劇中では、高血圧症の発作が、たびたび三上を襲っていますので、その発作が伏線となっての最後の三上の死ではないかと思います。

死に至った病名は明かされませんが、高血圧症からくる心筋梗塞や脳梗塞ではないかと、ぼくは推測しています。

『すばらしき世界』感想考察レビュー

俳優陣の素晴らしい演技に喝采

冒頭・オープニングは旭川刑務所から始まります。服役している三上が出所するシーンからスタートです。

三上を演じる俳優は役所広司ですが、静かなオープニングなのですが、すぐにしっかりと観客をドラマにひき入れます…というか、ぼくはぐいっと引き込まれました。

役所広司は、静かな空気を出しておきながら、深く語るのがうまいですよね。それはズルいほど。

例えば、静かな「はいっ」という一言で、そのシーンを占領してしまう…役所広司、さすがです。

先ごろ役所広司はヴィム・ヴェンダースが撮った映画『PERFECT DAYS』でその演技をカンヌ映画祭で認められ、レッドカーペットを歩いたばかりですね。

渡辺謙や真田広之といった海の向こうへ舞台を広げていった世界クオリティの俳優にもう一人役所広司が加わりました。

それも、前述の二人の、ハリウッド大作映えするトーンとは異なった空気が世界に認められたのが嬉しいです。

本能でネタを嗅ぎ分けるタイプの女性プロデューサー・吉澤を演じた長澤まさみも、弾けっぷりがよかったです。

そしてその対極とも言えるディレクター津乃田を演じたのは仲野太賀ですが、シーンごとの心の機微を嫌味なく演じきっていました。

三上の背中を流す時に見せる泣きのシーン、そしてクライマックスの津乃田の慟哭には、ぼくは最敬礼でした。

味のあるスーパー店長役の六角精児も、一見堅物役人役の北村有起哉もとことん素敵です。

俳優の妙味がきっちり詰まった一本です。




練られた脚本とリズミカルな展開で最後まで一気見

『すばらしき世界』は最後まで一気見でした。途中、意味不明となるところもなく、筋のブレも感じません。

登場人物の意味づけ役回りもはっきりしていて、それぞれがきちんとキャラが立ち上がって、程よく主役に絡んでいきます。

主役三上の性格=「実直&素直=悪く言えば喧嘩っぱやくて、単純」=の描き方が、シナリオではとっても大事なところだったと思います。

その性格の描き出し方=脚本が絶妙です。

三上は真面目に生きたいんだけど、世間はそれを許してくれません。

ヤクザの三上が、血がすぐに沸騰する自分を抑えて、更生への道を歩もうとするシーンの連なりと、抑えているけどどうにもならず暴発してしまう状況が、うまい具合に物語の流れにリズムと緩急を作っています。

そんなシーンは、「ここぞ!」で投入されるエンタメスパイス的で、気持ちがいいです。

そんなシーンが登場するたびに、監督・脚本家の観客へ向けた「ニヤリ」が見えました。




監督・西川美和の素晴らしさ

正直に言います。ぼくは西川美和という監督を知りませんでした。「ニシカワヨシカズ?それともミワ?」そんな無知さ丸出しです。

でも、「映画って、結果よければ全てヨシだろう」と見始めたのですが、結果、「素晴らしい監督に出会ったなあ」と思いました。

で、西川美和監督を軽く調べてみたのですが、そこではじめて女性監督だということがわかりました。ヨシカズではありませんでした。ごめんなさい。

実はぼくは、映画全編に「人間の本能的な匂い」を感じていました。

「人間の本能的な匂い」って何かというと、「道徳感」とか「善悪観」を越えた匂いです。

建前を通り越した先に漂っているほのかな「異臭」といってもいいです。

映画の主軸の「更生」という名のドラマで、社会の歪みの「匂い」と人間再生への「匂い」を感じたのは、女性ならではの感性で撮られた映画だったからなのではないかな、と思いました。

「何言ってんだよ!今どき監督に女性も男性もないだろう?それは色眼鏡ってもんだ」と言われそうですね。

でもしかし、こと「匂い」に関しては、男性よりも女性がはるかに敏感だと思うんです。

西川美和監督は、「何が善で何が悪かなんて、くだらない。理屈じゃないんだよ。匂いで嗅ぎ取れ!」というメッセージを、映画の中のフィードバックしていたようにぼくは感じました。




数枚の古い写真にキャラを語らせる〜光っていた美術の仕事

登場人物のキャラクターをどうやって厚みを持たせるか?

それって簡単なようで、案外難しいように思います。役者の演技はもちろんですけど、演技以外に、美術の小道具が下支えしたりもします。

『すばらしき世界』では、小道具がとことん生きています。

途中、三上の幼い頃から10代までの古い写真がスクリーンに現れます。その写真はたった数枚なのですが、その写真が三上がどんな過去でどんな性格なのかを強力に印象付けます。

古い写真から童顔で微笑む若い三上。

その表情は、三上という男は一匹狼のヤクザではあるけれど、素直で実直な性格であることを、無言のうちに語利かけていました。

机の上の一本のボールペンの軸の中からメモが取り出されるシーンもありますが、そのシーンも印象的でその後のドラマにセリフなしで展開させます。このシーンも小道具さんの勝利ですね。

他にも、ロケされたアパートの絶妙な古めかしさや、三上が取り込む洗濯物まで、映画の裏を支える美術チームの丁寧な仕事が光っていました。




残念感想〜音声セリフの不明瞭さ

と、褒めモードでレビューを書いてきましたが、非常に残念だったことがあります。

それは、録音=音声です。

はっきり聞きとれないセリフがいくつかあったこと。

『すばらしき世界』に限らず、日本映画には音声セリフの不明瞭さが非常に多い、と、常々ぼくは感じていました。

はっきりいって、セリフの不明瞭な録音って、大きくマイナスです。ドラマに入り込んでいる気持ちが、そこで途切れちゃうから。

特に部屋の中のシーンに多いようですが、セット内に妙に反響してモゴったセリフになると、何を喋っているのかわからない。これが方言になるともはや致命的。

大事な冒頭オープニングに、そのモゴりがあったのが残念です。




『すばらしき世界』ぼくの評価は『すばらしき映画』

「すばらしい」映画でした。

映画を見ながら俳優たちに感情移入し、「こんなシチュエーションで、あなたならどう動く?」と何度も問われ、その答えを登場人物の行動に重ねること多々でした。

また、仕事も立場も異なる登場人物たちからは、それぞれキャラクターの裏側が滲み出た生き様さえ感じました。

ヤクザ、スーパーの店長、役人、テレビディレクターそれぞれ別個に感情移入できたってことは、すごい映画であることの証明だな、と感じています。

「善と悪」「常識と非常識」の境目の曖昧さを見せてくれたこと。そしてみているうちに、ワルなはずの主役が真っ当に見えてきて、善良な市民の方がワルに見えてくる。そんな視点を『すばらしき世界』はぼくにくれました。

「すばらしき世界」とは、僕らが当たり前に感じている世界のことなのか?それとも三上の実直な世界なのか?それとも???

観終わっても、いつまでもそんな問いが心の中をメリーゴーラウンドしています。

ぼくの評価は、五つ星中、四つ星と半です。

監督、出演俳優の他作品にすばらしき世界を見てみたくなりました。

『すばらしき世界』スタッフ・キャスト

監督:西川美和

キャスト:役所広司・中野太賀・長澤まさみ・六角精児・北村有起哉・安田成美・白竜・キムラ緑子・梶芽衣子・橋爪功




『すばらしき世界』配信は?

下記サービスで配信・レンタルできます(2023年12月現在)

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