ショートアニメ『広瀬川〜君の翼になれたら』想いをカタチに〜塗り絵アートで探ったアニメとクリエイティブの可能性

アニメ

今回のムービーダイアリーズは、いわゆる映画産業の作品とは違う、自主制作アニメ『広瀬川〜君の翼になれたら』を取り上げてみます。

コロナ禍が世界を襲った2020年、人と会うことができなくなり、不要普及の外出も制限されましたよね。その時、仙台市市民文化事業団が「多様なメディアを活用した文化芸術創造支援事業」と銘打って、仙台市内のアーティストから「やりたいアートプロジェクト」を募集しました。

要は、「コロナ禍で尻すぼみになったアーティストに対して、経費を助成するよ、、、」というプログラムでした。

自主制作アニメ『広瀬川〜君の翼になれたら』は、その支援事業に応募し、認可されて制作されたショートアニメです。

「多様なメディアを活用した文化芸術創造支援事業」は一部制作費を仙台市市民文化事業団が負担するから、アート活動を頑張ってね…というプログラムだったのです。

作ったのは、実は運営人のぼくと妻。100人の一般市民の方に塗り絵を塗ってもらい、その原画をつなげて作った1分程度の「手作りショートアニメ」です。

今回はそんな手作りアニメを紹介します。

『100人で作るぬりえアニメ 広瀬川〜君の翼になれたら』

こちらがそのショートアニメです。

制作期間は4ヶ月。制作スタッフは、僕と妻と全国100人の塗り絵に協力してくれた方々の、総勢102人でした。

『広瀬川〜君の翼になれたら』を作ったきっかけは?

コロナ真っ只中のそんな時、ぼくの妻が、仙台市市民文化事業団の「コロナ禍のアート助成プログラム」を見つけてきて、こんなことを言い出しました。

「アートを支援するプログラムがあるよ。仕事も干上がってるしさ、いろんな人とオンラインや郵便で繋がってさ、でも、家にいながら自主アニメって作るのって、どう?」

アニメーターの経験があるぼくは、

「そんなん、できるわけないさ〜。だって、助成は期限付きだよ。数ヶ月で仕上げなきゃならないんだろ?そんな短い時間でアニメなんてムリムリ!!」

と、あっさりシャッター下ろす答えを返しました。

ところが妻は引き下がりません。

「あんた、アニメーターだったんだから、パラパラマンガ、つくれるでしょ?あんたが描いた一枚一枚に、塗り絵を塗ってもらって、つなげるの。何もすんごいアニメ作ろうっていうわけじゃないよ。塗り絵協力してくれた人が楽しんでもらって、そんな結果1分くらいでもいいからアニメができたら、いいじゃない!」

「1分くらいっていうけどさ、かなりの枚数描かなきゃならないんだぜ。それ、一人でオレ描くんだろ?やっぱ、ムリだ〜」とぼく。

「だ・か・ら、テレビアニメのクオリティで作ろうっていうんじゃないよ。あくまで手作りの匂いぷんぷんでいいのよ。」と妻。

「そうねえ、、、。…仙台の広瀬川を鳥の目線で1分でパラパラっ…と海まで…なんて楽しいかもなあ….」と、ぽろっとぼくは言ってしまいました。

それがことの始まりでした。

『広瀬川〜君の翼になれたら』冷静に考えたら、それは背景を動かすアニメだった

1分の手作りアニメと言っても数百枚は必要です。

人様に塗り絵を手伝ってもらうとなったら、ちゃんとしたシナリオを作らなければなりません。

「広瀬川を仙台市のマチナカ、青葉城の麓から太平洋に注ぐ河口までを鳥の目線でアニメで動かす。」と決めた時、ハタと気づきました。

「これって背景を動かすアニメになるじゃないか…」

そう、普通アニメは背景が固定され、その背景画の前でキャラがアニメで動きます。

僕らがやろうとしたことは、とんでいく目の高さで背景が動いていくアニメだったのです。

ほんとにできるのか???と思いましたが、「手作り感たっぷりでええやん!」と制作はスタートしたのでした。(制作スタートといっても、全てワンマン=ぼくが描きまくる制作=でした)

 

『広瀬川〜君の翼になれたら』アイデアをカタチに〜絵コンテ制作

まずは落書きのような絵コンテを描きました。

冒頭、カワセミが飛び立ち、カワセミ目線で川沿いを歩く男の子とぶつかってしまう。そのままカワセミ目線で広瀬川を河口まで下り飛び、河口で降り立つとその目線は男の子の目線だった、、、というあらすじを仕立てました。

広瀬川は鳥の目線で見るとどんな景観なのか?橋はどこにかかっているのか?といったディテールが必要でした。

そのディテールは、以前水彩画個展で広瀬川をテーマにしたことがあったので、源流から河口まで、丹念に取材しており、写真が大量にありました。それが生きました。

絵コンテで大雑把にアングルを決めてゆきます。

「鳥が広瀬川の流れに沿ってとんでいく目線を追体験してもらおう…」とアングルは飛ぶ鳥のアングルで進めました。

『広瀬川〜君の翼になれたら』アイデアをカタチに〜音楽発注

絵コンテ完成と同時に、音楽をどうするかを考えました。

無音では意味がありません。かといってSEだけじゃつまらない。。。

「そうだ、作曲が好きな息子に頼もう!」

絵コンテを息子に送り、内容を説明。「1分で完結する歌付きの音楽、考えてくれ」

無茶振りでしたが、「いいよ〜」と楽しんで作ってくれました。

作曲はもとより、歌詞も彼がコンテからイメージ膨らませて作詞したオリジナルです。

以下は後日談です。

アニメ編集と音楽は同時進行で動いていました。編集で組み上げていったアニメが、編集段階で音楽とばっちりリンクしたのには驚きました。

息子にそういうと、彼はあっさりと「だって、親子だもんな」と笑って言いました。

『広瀬川〜君の翼になれたら』アイデアをカタチに〜塗り絵原画描き地獄

テレビのアニメは通常1秒24コマですが、日本の場合、24枚描くことはあまりありません。コスパ優先で8枚くらいで済ませます。それでも大勢のスタッフ=アニメーターが関わって死に物狂いで描きまくります。

ぼくにとっては、納期と体力考えても、1秒8枚を描くことさえ至難の業。1秒6枚で進めることにしました。

「手作りアニメのカタカタした感じの方が、一枚一枚の塗り絵の雰囲気が印象に残るのではないか…」とも考えてのことでした、、、が、正直、背景を一枚ずつ動かしていくのは1秒6枚制作が限界だったということです(笑)

だって、1分間=60秒動かすとそれだけで360枚ですから。他に効果用の動画も加えると500枚を超える枚数となりました。

ぼくはフリーランスですので、イラストや水彩画の制作を断るわけにはいきません。通常仕事もしつつ、夜はひたすらアニメ原画制作の日々が続きました。

『広瀬川〜君の翼になれたら』アイデアをカタチに〜原画と動画

アニメって、「原画」と「動画」という2段階システムで進めるのです。

鍵になる絵=原画を2枚描いて、その間にスムーズに動かす数枚を作画してさしはさみます。このスムーズに動かすための数枚を動画と言います。

キーになる原画を2枚描いて、その後、その2枚の間を割っていくのですが、専門用語で「中割り」と言います。

例えばキャラが一歩、歩くシーンを作りたいと思ったら、まず、「右足が前に出ている絵と左足が前に出ている絵を2枚」描きます。これが原画。

そして動画担当のアニメーターが原画2枚の間に3枚描き足す=中割り=ことで、キャラはスムーズに歩いて見えるわけです。

『広瀬川〜君の翼になれたら』は1分とはいえ実は「ワンカット構成」です。ポイントごとに何枚もの原画をまずは描いて、その後、中割りをひたすら続ける作業が続きました。

『広瀬川〜君の翼になれたら』アイデアをカタチに〜塗り絵参加者募集!

ぼくが原画動画をひたすら描いている二ヶ月ほどの間、妻は、塗り絵による原動画着彩を手伝ってくれる市民の方々を募集しました。

先にも書きましたが「非対面で制作を行う」のが前提でしたので、SNSとホームページで「塗り絵参加者募集!」の告知でした。

結果、仙台のみならず全国から希望者が集まってくれました。

 

『広瀬川〜君の翼になれたら』アイデアをカタチに〜塗り絵ハウツー・その1

「塗り絵で着彩する」というは簡単ですが、一本のアニメ作品としてまとめるとなると、難問がいくつもありました。

まず、「100人が、それぞれ何を使って色を塗るのか?」です。

全国に散らばっている100人です。コストも考えなければなりません。

そこで、100均で手に入る12色色鉛筆をそれぞれ入手してもらうことにしました。

あえて、24色はNGとしました。

こちらは、参加者への注意事項をまとめたシートです。

12色あれば、複数色を掛け合わせ塗ることで、複雑な色も作れるのです。

12色あれば無限の色が作れることを理解してもらうため、「色の掛け合わせチャート」を作りました。

 

『広瀬川〜君の翼になれたら』アイデアをカタチに〜塗り絵ハウツー・その2

描き上げたパラパラマンガ=原動画は500枚強でした。

それを5枚づつ協力者に送って塗ってもらうわけですが、ここでまた難関出現でした。

徐々に川を下っていく絵が350枚あるのです。

1枚目と2枚目の風景は微妙に違います。でも、例えば木々や河川敷、遠くに見えるビル群は、一枚一枚好き勝手に塗ってもらうわけにはいきません。

ある程度、色彩トーンは全編通して共通出なければ、はちゃめちゃな色合いアニメになってしまいます。

で、どうしたか?

一枚一枚原画動画をコピーして、着彩見本を一緒に送ったのです。

着彩見本といっても、ぼくと妻が色鉛筆できちんと塗り見本を作るのはもちろん無理。

コピックマーカーで大雑把に塗りわけ、「この木は、黄色×緑×青」「この河川敷の芝生は黄色×黄緑」といった具合に手書きで指定しました。

「黄色×緑×青」がどんな色になるか?を「色の掛け合わせチャート」で確認して塗ってもらう方法を取ったのでした。

『広瀬川〜君の翼になれたら』アイデアをカタチに〜原画は郵送でのやり取り

100人の皆さんとの塗り絵原画と仕上がり塗り絵のやり取りはアナログな郵送でした。

「データでやり取りできないの?」と言われそうですが、皆がスキャナーやプリンターを持っているわけではありませんし、さまざまなトラブル回避を想定した結果、ベストなやり取り方法が「郵送」だったのです。

受け取り証明もしてもらえる「レターパック」が最強だったのです。

着彩見本と塗り絵原画が100人の皆さんのもとに発送されました

『広瀬川〜君の翼になれたら』アイデアをカタチに〜塗り絵バック〜編集へ

続々と塗り絵が届きました。100人全ての方が締め切りを守ってくれました。

全ての塗り絵を順番に並べ、順繰りにスキャンします。ひたすらスキャンと調整の数日間がまずは編集第一歩でした。

そこからぼくの冷や汗新チャレンジでした。

手作りアニメとはいえ、アプリで制作しなければなりません。

色々調べた結果、アニメ編集に使ったアプリはadobeのプレミア・プロです。実は、初めて触ったアプリでした。

このアプリ、55歳のアナログ世代のぼくが使えましたから「絶品使いやすい!」アプリです。太鼓判押します。

編集をしている間に効果音が欲しくなったり、声を入れたくなったり、、、まあ、色々と出てくるものです。

プレミア・プロに一枚一枚データを入れていき、効果を使いながら試行錯誤、なんとか2週間ほどで仕上がりました。

音楽が絵とピッタリとリンクしたのには、本当に驚きでした。

『広瀬川〜君の翼になれたら』完成〜塗り絵参加者へのDVD発送

最後は完成お披露目はYouTubeにアップしての公開でした。

参加してくれた100人の方にDVDの発送でプロジェクトは終わりとなりました。

いつか広瀬川に遊びにきてほしい…との思いで、アニメの各シーンと現地情報をリンクさせた「広瀬川マップ」を作って、ペーパーを同封しました。

『広瀬川〜君の翼になれたら』ぼくらがしたかったこととは?

ぼくと妻が4ヶ月ほどかけてやったこのアニメプロジェクトでやりたかったこと。

それは、「アートって、クリエイティブって、特別なことじゃない。誰だって、表現したい気持ちがあればできるんだ」ということを「形」にしたかった、、、ということでした。

ぼく自身、アーティストとして仕事をしています。

だけど、「アート」のどこか排他的なニオイが、イヤなのです。

だから、子供からオジイサンまで、塗り絵でクリエイティブを楽しんでみよう、、、と思ってのチャレンジでした。

アニメの出来は、手作りのそれです。

でも、100人の「表現してみたい」という仲間と出会えて、一本の作品を作ることができた体験は、何にも代え難い体験でした。

クリエイティブって、決してスペシャルなことじゃありません。それを証明したかったのでした。

最後に、塗り絵に参加してくれた皆さん、本当にありがとうございました。

 

 

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました