『でっちあげ:殺人教師と呼ばれた男』
ネタバレあらすじ感想評価レビュー
久々に、腰の据わった法廷劇を観ました。映画『でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男』です。
実在した冤罪事件を基に脚色された社会派法廷ドラマです。監督は三池崇史監督。主演は綾野剛。柴咲コウ、亀梨和也、小林薫らが脇を固めています。
福田ますみのルポルタージュ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』の映画化です。実話と言っていいでしょう。そんな『でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男』(以下『でっちあげ』と略します)をレビューしてみます。
『でっちあげ』解説
ある小学校教師が、保護者から「児童へのいじめ・暴力」を告発され、マスコミ報道によって一気に“殺人教師”という烙印を押されていく――という、実際あったこととは思えないような、心理劇とも取れる法廷ストーリーが描かれます。
『でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男』の特徴は、単なる冤罪告発映画に留まらず、教育現場の構造的弱さ・メディアと世論の暴走の怖さ・裁判という場でしか語れない「事実」の重み…を、冷静に積み上げていく点にあります。
世間一般のごく普通の人間の弱さと強さが描かれたドラマを見たい…という方におすすめの一本と言えるようにも思います。
『でっちあげ』スタッフ・キャスト
スタッフ
監督:三池崇史 脚本:森ハヤシ
キャスト
綾野剛 柴咲コウ 木村文乃 光石研 小林薫 亀梨和也 迫田孝也 北村一輝 三浦綺羅 飯田基祐 東野絢香 他
『でっちあげ』あらすじ(途中まで)
地方都市の小学校の教師、主人公・薮下誠一。ある日、学校に一人の児童の保護者・氷室律子から「うちの子が薮下先生からいじめを受けている」という訴えが持ち込まれる。
もちろん薮下はそんなことはしていない、と反論。
当初は校内のトラブルとして処理されるはずだったが、事態は急変。
保護者が裁判に訴え出たことで、薮下は一気に“加害教師”としてレッテルを貼られ、マスコミに報道されてしまう。
“加害教師”のインパクトにマスコミと世論は暴走。
学校側も事態の沈静化を優先。
薮下は停職処分となる。
納得いのいかない薮下は「これは事実ではない。でっちあげだ」と裁判を争う覚悟を決める。
しかし弁護を引き受けてくれる弁護士は見つからない。
ただ一人、年配の弁護士湯上谷が弁護を引き受ける。
二人は、作戦を練り、法廷での戦いに挑む。
しかし、さらなる薮下バッシングに走る世論とマスコミ。
学校側は最後まで明確な責任を取ろうとせず、「問題を起こした教師個人」に全てを押し付ける姿勢を崩さない。
果たして、世論とマスコミを敵に回した薮下に勝ち目はあるのか?
『でっちあげ』あらすじ〜ネタバレラストまで
※ここから先はネタバレです。映画をご覧になる方はスルーしてください
裁判が始まると、保護者側の主張には次第に矛盾が浮かび上がってくる。
証言の食い違い、都合よく変化する記憶、そして不自然な診断書。
薮下の弁護士・湯上谷は、感情論に流されることなく、冷静に事実を積み重ねていく。
勝てる突破口は、ただ一点、「いじめ」は保護者氷室によって作られた捏造物語だ、ということへの証拠だ。
裁判の結果、薮下は、無実を勝ち取る。
さらに教育委員会からも懲罰はなかったことにするという書面が届く。
薮下は学校へ復職した。
しかし、失われた名誉、壊された日常、家族が受けた傷は、元には戻らない。
エンドロール。
『でっちあげ』感想
久々に骨のある法廷劇を観ました。
冒頭、主人公・薮下誠一が嫌な教師として描かれますが、のちにそれは正しい目線ではなく、一方的な目線であることがわかります。
その脚本と演出、そして演技には感服でした。
実は『でっちあげ』を僕は法廷劇だと思わずに観たのです。しかし、そんなことはどうでも良く、冒頭10分で一気にドラマの沼に引き摺り込まれていました。
特に印象的だったのは、薮下誠一を演じる綾野剛の演技の変化の付け方です。
冒頭の、でっちあげられた虚像の演技から、穏やかで実直な教師像に入ってゆき、裁判が進むにつれて見せる疲弊、怒り、そして静かな覚悟。
綾野剛の同じ一人の教師でありながら、まるで別人のように見える演技には圧倒されました。
また、亀梨和也演じる雑誌ライター鳴海三千彦の存在がメディアの暗部を際立たせています。マスコミが、販売部数優先主義となっている現場の裏側が描かれるのですが、ライター鳴海の取材攻勢が、薮下を結果的に薮下の精神を追い詰めていくのです。亀梨和也の”危ない記者像”、凄みがありました。
また、主人公を支える弁護士・湯上谷年雄の存在も非常に渋い。
演じているのは小林薫ですけど、たまらなく、ヨイです。
同じく法廷劇の『12人の怒れる男』で有名な名優ヘンリーフォンダの持つオーラみたいなものを小林薫に感じました。
激情に走らず、静かに、あくまで「事実」で闘う弁護士湯上谷の存在が、『でっちあげ』に説得力を与えていると思います。
薮下の家族の描写も丁寧でソツがありません。
薮下の妻・希美(木村文乃)はもちろん薮下を理解し信頼しています。けれど決して声高に励ますのではなく、黙ってそばに居続ける。ーー薮下が安心して(という言い方は変ですが)戦いに出ていけるのは、妻・希美がいるからなんだ、と、観客に思わせる静かな演技。とても気が配られた演出だと感じました。演出って、複数の歯車を一つにまとめる力なんだなあ…と、久しぶりに感じた映画です。
一方で、主人公薮下を追い詰める夫婦の氷室律子(柴崎コウ)は、ほとんどサイコパス的な怖さがあります。柴崎コウ、見事にやってくれましたね、モンスターペアレント。
モンスターペアレントという言葉が教育現場で発せられて久しいですけど、現実にいるんでしょうね、こんなタイプの親って。教育の現場って、想像を遥かに超えて修羅の現場なんだろうな、、、と思いました。
氷室夫婦の二人の目に久々に怖い「目」を観ました。
「自分たちは正しい」という思い込みが、どこまで人を残酷にできるのか。ぼくはそこに一切の救いは見出せませんでした。
そして何より恐ろしく感じたのは、教育の現場=教育委員会=学校の組織の責任逃れ体質です。
個人を切り捨てることで、自分たちを守ろうとする姿は、あまりにも悲しすぎました。フィクションですよ、と言われればおしまいですが、多かれ少なかれ、『でっちあげ』で描かれたような教育現場体質ってあるのでしょうね。なかったらこんな事件は起きなかったはずですから。
主人公の薮下は、映画の中では裁判の後、教育現場に戻っています。
実際被害に遭った教師は、果たしてあれほど心にキズを受けながら、再び教育現場に戻れたのでしょうか?
僕なら絶対に無理だなあ….エンドロールを見ながら、そんなことを考えていました。
ただ一点、裁判後の“告発者一家のその後”が、もう少し知りたかった……という複雑な思いは残ります。
ですが、もしも、氷室夫婦のその後を最後にちらつかせたら、映画を観終わった時の感覚はどんよりと沈んだようにも思えます。
『でっちあげ』は、そんなふうに「あえて観客に考える余地を残した映画なのだと思います。
『でっちあげ』には、『勝訴!』と旗を振るようなカタルシスはありません。
「では、告発した側はどうなったのか?」「バッシングに加担した社会は本当に学んだのか?」
という問いが残されました。
『でっちあげ』ぼくの評価は?
先にも書きましたが久々に骨のある映画を見せてもらえました。
ぼくの評価は ★★★★☆(五つ星中/星4つ)です。
日本映画の社会派ドラマとして、オススメの一本だと思います。
いい映画をありがとうございました。
『でっちあげ』配信は?
以下で配信されています。(2026年1月現在〜変動あり)
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