映画『タクシードライバー』解説考察・ネタバレあらすじ評価まで|今に通じる気持ち悪さを探る

スリラー・SF・アクション

こんにちは!運営人の映画好き画家・タクです。

今回のムービーダイアリーズレビュー作品は『タクシードライバー』。1976年公開・アメリカ映画です。

マーティン.スコセッシ監督×ロバート・デ・ニーロの『タクシードライバー』を古典的名作と言っても反論する人はあまりいないでしょう。1976年公開ということは、今から40年以上前の映画です。

今、そのタイトルを出しても「ああ、あのアメリカの病理をついた作品ね」「うん、アメリカンニューシネマの名作だよね^_^」と言うオールドファン、多いと思います。

その『タクシードライバー』を、ぼく自身、久々に=多分数十年ぶりに見返しました。結果、想定外の驚愕でした。

どんな話で、どんなところが驚愕だったのか?

ぼくが昔観た時の印象を越えて迫ってきた『タクシードライバー』をレビューしてみます。




『タクシードライバー』監督・キャスト

監督:マーティン.スコセッシ

キャスト:ロバート・デ・ニーロ ジョディ・フォスター シビル・シェパード ハーベイ・カイテル 他




『タクシードライバー』予告編

『タクシードライバー』どんな話?…あらすじです

舞台はニューヨーク。時代は1970年代。

ベトナム戦争帰還兵トラビスは、ニューヨークでタクシー運転手として働きながら、孤独と不眠症に苦しんでいた。

夜の街で目にする売春や暴力をウインドウごしに眼にするトラビス。

次第に彼は、社会を直すのは自分だ…という暴力的な衝動に駆り立てられていく。

ある日大統領選ボランティア事務所の女性に恋したトラビスは女性をデートに誘う。

チグハグな行動を取るトラビスに彼女は怒り、デートは失敗するが、執拗に花を送るトラビス。

同時に、家出少女=年端も行かない売春婦アイリスとの偶然の出会い。

その二つの出来事が、トラビスの心の閉塞感を「社会を直すのは自分だ」と、暴力的な思いへと変えてゆく。

ヤミ売人から4丁の拳銃を手に入れ、身体を鍛え直し、ガンの腕を上げてゆくトラビス。

ついに彼は「世直し」の第一歩、大統領候補の暗殺計画を企てる…

…といったあらすじです。

 

この映画は、公開当時、社会の暗い側面と人間の孤独感の葛藤を描いた作品として、高い評価を得て、ロバート・デ・ニーロの演技も大絶賛されました。




『タクシードライバー』あらすじ結末までネタバレあり閲覧注意

トラビスの大統領候補者の射殺計画は、シークレットサービスに気づかれ失敗に終わる。

しかしトラビスはすぐに、知り合った売春婦アイリスを夜の世界から救い出そうと売春宿へと向かう。

売春宿の安ホテルで少女を囲うポン引きたちと激しい銃撃戦の末、射殺。動転するアイリス。

トラビスは自らも重傷を負う。

ホテルには警官が駆けつける。

場面が変わって、タクシー会社でドライバー仲間と談笑するトラビス。

トラビスは傷を癒やし、タクシードライバーとして復帰していた。

スクリーンにトラビスの少女救出を讃える新聞記事の切り抜きがアップで映る。

トラビスはマスコミによって闇社会から家出少女を救った英雄として偶像化されていた。

 

ラストはトラビスが運転する「ルームミラーに映る夜のニューヨーク雑踏」で終わります。




『タクシードライバー』考察〜時代を超えた病理を描き出した気持ち悪さ

公開当時、日本でこの映画の真髄を理解できていた人はいたのだろうか?

今、2024年に『タクシードライバー』をみなおして、疑問に思ったことがあります。

それは、当時、『タクシードライバー』を真の意味で理解してみていた日本人はあまりいなかったんじゃないか?ということ。

公開当時「アメリカ社会の病理を紹介した映画だ」と、日本の映画雑誌や評論家は語っていたように思います。

しかし、果たして出版社の編集者や評論家がどれほど「アメリカの病理」を理解していたか?ということ。

今でこそ、世界はグローバルになり、異国のあれこれ裏側を知ることができるようになりました。

しかし、映画が作られたのは1976年です。

当時、アメリカ社会の情報は今ほどリアルに入ってこなかった時代です。

ぼくが思うに、映画評論家といえども、『タクシードライバー』に描かれた社会の闇を、当時「本当に理解していたのだろうか?」と疑問を感じました。




モヒカントラビスが今のぼくらに突きつけたものとは?

評論家でも映画雑誌編集者でもないぼくが、2024年の今に『タクシードライバー』を再び観て「すごい映画だ!」と思ったのはなぜでしょうか?

改めて自分自身に「タクシードライバーの何がスゴかったのか?」と問い直してみると、答えは映画の舞台となったアメリカではなく足元にありました。

ぼくは、モヒカンにサングラス姿+アーミージャケットという、絶対そばに寄りたくないトラビスの姿と行動を見ながら、映画冒頭からラストまで、ずっとこう思っていました。

「やばいよ、これ、日本の今じゃないか。トラビスは今の日本のあっちこっちにいて、日々ニュースになってるじゃないか…」

そうです、ぼく自身が「今の日本社会の病理を感じているから」…という理由に行き当たったのです。

『タクシードライバー』に描かれている1970年代の病理は、悲しいことだけど、半世紀過ぎて日本を覆っている社会病理に通じていたのです。

日本のあちこちにさまようトラビスの亡霊

主人公トラビスを一言で表すなら、ベトナム戦争から本国に戻り、社会にうまく適応できず病んだ男、となります。

トラビスの口から出るセリフの数々、そして、後半頭を剃り上げモヒカンカットにサングラスとなった姿が、主人公トラビスの病んでいる心をじわじわと映画に沁み出させます。

もちろんロバート・デ・ニーロの絶妙な演技あってこその「じわじわ」です。

劇中、観ているこちらが徐々にトラビスの心の闇と対話している感覚になります。

いやはや、フィクションとはいえ、病気の男と話している気分はいいもんじゃありません。はっきり言って怖いです。




『タクシードライバー』の怖さはどこからくるのか?

ネットでもこの映画の「気持ち悪さ」「怖さ」が囁かれています。

『タクシードライバー』の何が怖いのか?というとですね、誰の心にもある、「己が正しいと思い込む」怖さが正面切って描かれていることです。

「オレのせいじゃないぜ、社会のせいだ…」って思ってしまう時って、少しは誰にだってあるじゃないですか。今時の日本ならなおさらです。

その証拠に現在の日本、巷には「正しいと思い込んでブチ切れた妄想」に突っ走った「普通の人々」による破滅的なニュースがあふれています。

そう、今の日本を覆っている空気は、妄想が大きく膨らみ、己を正しいと思い込んで突き進むトラビスの居た1970年代アメリカと通じているように思えます。

トラビスの妄想が、日本の今に繋がる「気持ち悪さ」

「妄想」って本来「クレイジー」と紙一重なことでしたよね。

ところがいつの間にか、日本において「妄想」という言葉は、「あ、これ、僕の妄想だよ〜」なんて皆が使うようになり、奇妙な市民権を得ちゃいました。

『タクシードライバー』は、そんな妄想癖が当たり前と思われる日本社会の「気持ち悪さ」も、想定外にも暴いてしまった作品のように、ぼくは感じています




『タクシードライバー』解説

「アメリカンニューシネマ」の傑作の一本。

『タウシードライバー』は、いわゆる1960年代のベトナム戦争がアメリカに及ぼした影響から生まれ出た「アメリカンニューシネマ」の最後の時代を飾った映画の一本です。

「アメリカンニューシネマ」って何?と知らない方、全然OKです。イマドキ、知らない方が普通です。

「アメリカンニューシネマ」って、今から半世紀も前に生まれたムーブメントです。

当時、アメリカは反ベトナム戦争や公民権運動が盛んになってきていた時代でした。今まで「ヨシ」としていた社会に「ホント、いいのか?」って疑問を投げかけた人たちが大勢いました。

アメリカハリウッドの映画界でもそんな流れがあったんです。

で、自然発生してきた映画ムーブメントが「アメリカンニューシネマ」。

『イージーライダー』や『俺たちに明日はない』なんて映画の名前、どこかで聞いたことあるかもしれませんが、ぶっちゃけそれまで映画で描かれていたシンプルな善悪や起承転結を「ちゃうだろ!」と、実験的な作品やバッドエンドな作品が生まれました。

『タクシードライバー』もそんなムーブメントのおしまいの方に作られた映画です。

公開当時、「ベトナム戦争後のアメリカの病理をついた傑作」といったようなレビューだったと思います。

そんな意味でも「アメリカンニューシネマ」の代表作の一本です。
(カンヌ映画祭でグランプリを受賞)




名匠マーティン・スコセッシの撮ったニューヨークの夜がすごい

監督のマーティンスコセッシもこの映画で大ブレイクしたといっても良いです。

今や超大御所俳優のロバートデニーロも、そう。

今や当たり前に知られているニューヨークの名物タクシー「イエローキャブ」という言葉を知ったのもこの映画でした。

下水溝から立ち上がる蒸気がニューヨークの夜を見事に表現しているとも言われていました。

タクシー運転手から見た、闇のニューヨークを描いた作品は、それまで無かったのです。

マーティンスコセッシ監督は黒澤明監督に心酔していると聞きますが、この夜のニューヨークの蒸気シーンは黒澤作品『七人の侍』の雨のシーンに匹敵します。

蒸気から現れるタクシー描写はいま見ても見事です。まさしく黒澤DNAが滲み出ていると、ぼくは感じました。

 




『タクシードライバー』ぼくの感想 

公開から半世紀もたった今に観る意味はあるの?

公開から半世紀たった今、はたして『タクシードライバー』を見る価値はあるのでしょうか?

ぼくは『タクシードライバー』は、まさに混迷の令和の今をさまようぼくら日本人こそが観るべき映画だと感じました。

その理由をこれから書きます。

この映画が公開されたのは1976年。ぼくは高校生。映画に目覚めてまもない頃でした。

公開当時に映画館で見たのですが、音楽とガンアクション以外あまり記憶に残らなかった。「ふーん、よくわかんないや…」が高校生の正直な感想でした。

映画館から戻ってきて、モデルガンをシャカシャカさせて主人公気取りしてた程度の、まあ、そんなものです。

『タクシードライバー』の内容をシンプルにいうなら、「しがないタクシー運転手トラビスの心とバイオレンスを通して描かれるアメリカの病理…」といったところでしょうか。

そんな映画の内容など全く理解できていません。

その後、大学生くらいの時にテレビか何かのリバイバルで「アメリカのベトナム戦争後の社会病理」を描いていることに気づきました。

そして令和の今に観直して、あらためてこの映画が時代と国境を越えまくっていることに驚きました。

『タクシードライバーは』数十年という時代のフタを開けてみると、当時のアメリカの病理のみならず、資本主義社会が産み落とした、日本をも含む世界共通の病理を半世紀前に予言していたと感じました。

最近作られた『Pearl』というホラー映画や、タクシードライバーとの類似性でも話題となった『ジョーカー』を観た時、こう思いました。

「トラビスの亡霊が時を超えて現れたな…」と。

(ちなみにぼくは『Pearl』も『ジョーカー』も大好きな作品です。みる人選ぶと思うけど…。)




ラストの銃撃戦はあっという間、だけど必見!

トラビスがクライマックスでアイリス救出のためガンを持ち売春宿に単身乗り込むシーンは、短いけれど傑作銃撃戦シーンです。

狭い廊下と階段で、至近距離で撃ち合う様は、絶妙なカットつなぎで痛々しいほど。火薬の破裂音はトラビスの狂気が破裂する音のようです。

銃撃戦が終わり、被弾したトラビスが自らのこめかみに血まみれの人差し指をあて、えもいえぬ笑いを浮かべるシーンにはぞくっときました。

その後、カメラは惨状となった誰もいない血にまみれた階段廊下をゆっくり舐めるように移動しますが、そのカメラ移動はトラビスの狂気を振り返るかのようです。

ぼくは、『タクシードライバー』の銃撃戦シーンは、ガンアクション史に名を残す傑作シーンの一つだと感じました。

『タクシードライバー』ぼくの評価は85点

映画『タクシードライバー』のよかったところを、具体的に挙げておきます。

抑制の効いた演出。

そしてどこかチグハグゆえにこわいトラビスのセリフ。

さらにリアルにそばにいて欲しくないとまで思わせたトラビスを演じたロバートデニーロの演技から、若いポン引きを演じたハーベイ・カイテルのヤバそうな実力。

そして、売春婦の家出少女ヒロイン・アイリスを演じたジョディ・フォスターの、デビュー作とは思えない堂々とした存在感。(これまた可愛いし…って、あくまで主観です)

あげればキリがない高得点ポイントに、ぼくは、半世紀の時代を軽々と越えた『タクシードライバー』の持つパワフルなスペックに改めて脱帽していました。

感想でも書きましたが、ラストのバイオレンスシーンのこっちまで返り血浴びるような至近距離バイオレンスシーンは、半世紀経った今もなお「次はこうなる!そして次はこう撃たれる!」ってぼく自身が覚えていたことにも驚きました。やっぱり、『タクシードライバー』のクライマックス、すごい。

マーティンスコセッシ監督、当時は30代だったと思います。あらためてパワフルで深い監督だと感じました。

しかし、決して派手な映画じゃありませんよ。

なので、最近主流のVFXド派手アクション好きな方には物足りないかも…とも思ったのでした。(そんなVFXド派手アクションもぼくは嫌いじゃないですけどね)




『タクシードライバー』配信は?

以下のサービスで視聴、レンタルできます。

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