1990年公開のアメリカ映画『ダークマン』は、リーアム・ニーソン主演のアクション・サスペンスにゴシックホラーのスパイスを効かせた映画です。監督はサム・ライミ。大傑作B級ホラー『死霊のはらわた』で彗星の如くデビュー。有名ムービーでは、『ダークマン』のあとに『スパイダーマン』を撮っています。
ぼくがサム・ライミの映画をはじめて観たのは、『死霊のはらわた』でした。『死霊のはらわた』は低予算ながら、完璧かつユーモアとこだわりの効いたシナリオと「低予算だってここまでできるんだぜ」的驚異のカメラワークに打ちのめされました。
そのサム・ライミが『ダークマン』の主役に起用した俳優が、当時はまだあまり知られていなかったリーアム・ニーソンです。リーアム・ニーソンは『ダークマン』出演後に快進撃となりました。
DVDのキャッチには「顔を変え、生まれ変わる男」とあります。それでは、サム・ライミ監督の映画へのラブがそこかしこに塗り込められた「ダークヒーロームービー」を、あらすじから感想評価までレビューしてみます。
『ダークマン』まずはあらすじから
遺伝子工学の研究者ペイトンは、恋人で弁護士のジュリーが手掛けている、デベロッパー汚職の証拠を握っていたため、ギャングに襲撃され、研究所ごと爆破されてしまう。
瀕死の重傷を負い、顔の半分を重度の火傷で失ってしまったペイトンは、病院で実験的な医療を施され、命を救われる。
しかし、視床下部の神経を切断されたため、痛みを感じなくなってしまう。
副作用は「怒り」によって気持ちのコントロールを失うことと、そのことで発揮させる超人的な力だ。
ペイトンは、自らの開発した人工皮膚で火傷を覆い、ギャングへの復讐を誓う。
恋人のジュリーと会うペイトン。
しかし顔が崩れたことを明かすことはできない。
ダークマンとなったペイトンは、超人的な身体能力と人工皮膚で作り出したマスクを使い、ギャングを1人また1人と倒していく。
しかし、ペイトンは次第に復讐に囚われ、ダークマンとしての正義感と、本来の人間としての感情との間で苦悩する。
汚職事件が明るみに出ることを恐れたデベロッパーの社長は、恋人のジュリーを亡き者にせんと、魔の手を伸ばす。
ジュリーを救うため、ダークマンは戦いに身を投じる…
といったあらすじです。
『ダークマン』粋なラスト〜ネタバレ閲覧注意!
ラストで登場する俳優は誰なの?
最後は、B級映画ファンなら大きな拍手を送りたくなるクライマックスが待っています。
ラスト、宿敵を倒し、人混みに消えたペイトンをジュリーが追いかけ、探します。
が、ペイトンは見つからない。
カメラが雑踏を捉えると、人混みの向こうで振り返る男がひとり。
もちろんその男がダークマンなのですが、こちらを見る顔が、リーアム・ニーソンではなく、ブルース・キャンベル!なのです。
ここでB級映画ファンは拍手喝采となること必至です。
ブルース・キャンベルって?
ブルース・キャンベルって、誰?という方も多いと思いますので、ネタバレしますと、俳優ブルース・キャンベルはサム・ライミの初監督作品『死霊のはらわた』そして『死霊のはらわた2キャプテンスーパーマーケット』の主演をしている俳優です。
実は、サム・ライミとブルース・キャンベルは、自主映画を作っていた頃からの盟友なのです。
盟友にラストを飾ってもらうなんて、なんともニクい、すてきなラストシーンではありませんか。
『ダークマン』感想〜リーアム・ニーソンの絶品演技に酔う。
ほぼ目と体で演じたダークヒーロー役
主役のリーアム・ニーソンはこの映画以降、快進撃となった、と、前書きで書きました。
もちろんこの映画が映画デビュー作ではありません。
リーアム・ニーソンの映画初出演は1978年ですから、デビュー後12年目。数えてみたら『ダークマン』に至るまで25本もの映画に出ています。
演ずる役回りは主役ですけど、リーアムニーソンが素顔のままで登場するのは半分くらいでしょうか。他はダークマンとして「顔に包帯を巻き、黒いコート」。ほぼ目と体でダークヒーローを演じ切っています、、、って、考えただけでもやりにくそうです。
そんな「演じにくい」役なのに、しっかりと喜怒哀楽の「哀」を伝えてくれたのが、さすがだなあ…と思います。
この映画以降「シンドラーのリスト』で名優として認められ、以降、『スターウォーズ』シリーズをはじめ、タフな役が多いですが、ぼくはリーアム・ニーソンの「どこにでもいそうな感じ」が好きです。
『ダークマン』感想〜ただの復讐アクションにあらず。
痛々しいメイクから伝わってくるのは、心の痛み…
『ダークマン』は、たしかに復讐映画ですが、単なる復讐アクションで終わっていません。
ブラックコメディやサイコホラーの要素も取り入れており、どこかアルフレッド・ヒッチコックへのリスペクトも漂っています。
火傷で崩れたペイトンの顔はホラーになってもおかしくないほどの崩れ方ですが、ホラー感はないんですよね。
むしろやけどで崩れて筋肉まで露出した痛そうなメイクから伝わってくるのは、顔の痛みではなく、ペイトンの心の痛みです。
こういうギリギリラインの際どさが、サム・ライミはうまいな、と、思います。
もちろん、顔半分しか表情を見せられないという難役をこなしたリーアム・ニーソンあってこそ、です。
心象の演出が独特です
また、『ダークマン』は、心象風景の表現の演出も独特です。
ダークマン=ペイトンの孤独感を、サム・ライミは独特なコミック風カット割りで捉えています。
昨今のマーベル系のアクション映画とは異なった、サム・ライミ風コミックワンダーランドなのです。
人間の正義と復讐の矛盾、そして愛と憎しみの感情を丁寧に描いた、深みある映画だと思います。
『ダークマン』感想〜描くぼくに与えた影響
実はぼくは『ダークマン』のDVDを持っています。今回久々に見直して、この記事を書いたのですが、個人的に気がついたことがありました。
それは、この映画の幾つものカットから、ぼく自身が描く表現のヒントをもらっていたということです。
例えば、映画のあちこちで、「関係なさそうな複数のイメージ映像を短くオーバーラップさせ繋ぎあわせ」て、ペイトンの心の混乱を表現しています。
他にもドキッとするようなカットを矢継ぎ早に出してくるのです。
そんなシーンを改めて見直して、自分の表現って、結構『ダークマン』にインスパイアされているなあ、、、と感じました。
表現を仕事にしていると色んなモノゴトから刺激をもらいますが、『ダークマン』はことさらぼくには多大な影響をくれた映画だったということを、改めて知りました。
どうでも良いことかも知れないけど、そのことをあらためて知れたのが、ぼくは訳もなく嬉しかったのです。
『ダークマン』ぼくの評価は、「B級映画ファーストクラス」
「B級映画」ってどんな映画?
「B級映画」と書いてしまいましたが、決して「低級」という意味ではありません。
B級映画ってよく言われますけど、辞書系を引いてみると、実は定義っぽいのがあります。こんな感じです。
1.低予算
2.無名の俳優を起用
3.制作時間が短期間
4.上映時間が90分以下
以上はあくまで大雑把な定義です。
「B級映画っていったいなに?」ということだけで、映画好きは激論必至となるでしょうから、気になる方はwikiへゴーしてください。
ちなみに、「B級映画」をぼく流にいうなら、こうです↓。
1.明快な起承転結。ストーリーは武骨。
2.限られた予算内で、驚きの効果を出している。
3.チープな作りでもラブがある。
3.監督の熱量が予算を上回ってスクリーンに現れている。
かの有名な『ターミネーター』だって、1作目は低予算。見事なほど愛すべきB級映画だとぼくは思います。
話を戻しますが、そんなぼくなりのB級映画条件オールクリアしてくれたのが『ダークマン』です。
『ダークマン』のどこがファーストクラスなの?
確かに映像の作りこみは今見るとチープに見えるかもしれません。コマどりアニメも使っていたりします。(手が焼けるシーン)
それでもそのチープさが映画の中でマイナスにならずに、「映画を愛して作り上げた」メッセージとして、きちんと昇華されている、と、ぼくは感じます。
「痛そうなカット」「笑っちゃうようなカット」「ありえんだろ?そんなカット」「どっかでみたぜ、そのカット」があっちこっちにある映画なのですが、すべて監督の「ふふふ、あえてのこの演出さ!」というニヤリとした声が聞こえてくるんですね。
簡単にいうなら監督の熱烈一級品=ファーストクラスな「映画ラブ」が、全カットから伝わってくるのです。そういう意味で、B級映画ファーストクラスなのです。
こんなにもダイレクトな映画ラブに溢れた映画って、ABのみならず、そうありません。
改めて『ダークマン』は、大傑作だ、と思いました。もちろん当サイト映画の殿堂入り♩です。
『ダークマン』配信先は?
現在配信で『ダークマン』を見ることができるのは以下サービスのみのようです(2023年現在)
配信先 | サービス |
U-NEXT | 見放題配信 |
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