第二次世界大戦、「海の狼」と恐れられたドイツ海軍潜水艦Uボート。そのUボート乗組員たちを主役に、物語のほとんどが狭い潜水艦内で進む戦争映画です。
ぼくは1982年、公開当時に映画館で観ましたが、そのリアリティ、そして映画のラストに茫然…いまだにぼくの中では戦争映画の金字塔の一本です。いまだに時折再見しては、「やっぱりすごいわ。。。」と思います。
傑作が多い潜水艦映画の中でも、極限の緊迫感が満ちた艦内描写と兵士たちの精神描写は、今観ても秀逸。あっという間に観る人を深海に引きずり込みます。すごい西ドイツ映画(当時)です。(原題Das Boot)
『Uボート』予告編
以下の予告編はディレクターズカット版予告です
『Uボート』レンタル配信先は?
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『Uボート』映画のあらすじは?
第二次世界大戦、フランスの軍港ラ・ロシェル。一隻のUボート『U96』が出航する。
乗っているのは、艦長以下47人の若者たちと、一人の従軍新聞記者。
Uボート『U96』を操艦する彼らの任務は、敵艦補足後、魚雷で沈めることだ。
ドラマは、敵空軍機との遭遇、輸送船団との魚雷戦、そして駆逐艦からの爆雷攻撃へと続く。
爆雷の打撃では操舵不能となり、水圧限界深度を越えて『U96』は海底に着座。
酸素がなくなってゆく中、限りある資材と知恵で浮上を目指す乗組員たち。
はたして彼らは生還することができるのか?
『Uボート』感想~この映画の見どころ5つのポイント
1.冒頭タイトルバックのシーン絶品
真っ青な画面にぼんやり浮かび上がってくる潜水艦のシルエットで映画は始まります。
そのオープニング、Uボートのスクリーン登場シーンは、めちゃくちゃ良いです。
スターウォーズエピソード4の冒頭、帝国軍デストロイヤー登場の衝撃に匹敵します。
映画名作の基本「冒頭でつかみはオッケー」そのものです。
2.乗組員の張り詰めた精神表現
役者さんは皆知らない役者さんばかりですが、深海の狭い空間での緊迫感、そして、恐怖の連続から乗組員の徐々に壊れてゆく精神描写が抜きん出ています。
歴戦の強者機関長さえも、極限状態でボロボロになっていくシーンでは、恐怖が狂気を呼び覚ますことがリアルに描かれています。
戦場でのココロの壊れかたは、平和な中でのそれとは全く別モノなんだと、この映画は教えてくれます。
3.一人の従軍記者の目を通した設定。
この映画では、戦争の素人、「記者の目を通した戦場」という視点も持ち込まれています。
一般人を潜水艦内という戦場に投げこむことで、緊迫感と束の間の安堵をうまく表現しています。
といってもあの極限では、一般人も兵士も同じ精神状態になるように思えますが…。
この記者、ラストでもキーパーソンになっていますので、ご注目です。
4.水圧の表現がすごい
潜水艦はどこまでも潜れるものではありません。敵から逃れようと深く潜っても、そこには「水圧」という別の敵が待っています。
水圧限界ギリギリを越えて沈んでいくシーンでは、水圧で生じた隔壁のゆがみから「金属ボルトが吹っ飛ぶ」。水圧の恐ろしさを描写した見事なカットです。
実際には潜水艦にはボルトは使われないらしいですが、水圧の怖さを表現するために、あえて取り入れた表現らしいです。
そのはじけ飛ぶ音『バン!!』に、見ている方も恐怖感が最高調まで高まります。
5.カメラワーク
潜水艦内を縦横無尽に動き回るカメラもすごいです。
あっ、狭い艦内、縦横無尽という言葉は語弊がありますね。
「乗組員の動きにピッタリくっつくようなカメラワーク」と言った方が良いです。
潜水艦は急速潜航する時に、手の空いている乗組員が全員、狭いフネの前部に全力疾走します。
その狭さが半端じゃありません。
チューブの中を腰屈めて走る。それをカメラが追う。
よく、スポーツ番組でカメラマンがプロテクターみたいなのを肩から腰までつけて、そこにカメラをくくりつけている絵って、見ませんか?
カメラマンは動き回る選手たちを走って、でもブレずに撮影するためにあんな装備を付けています。
あれを最初にやったのが、『Uボート』の撮影なのです。
想像してみてください。突起やバルブ、計器やパイプがごちゃごちゃある艦内セットを。
カメラマンが中腰で走ると、当然カラダをあちこちにぶつける。…ということは、生傷が絶えないということになる。
なので、映画撮影現場ではアメフトの防具を付けて、カメラを持ち突進したようです。
ムービーカメラの重さも、フィルムの時代のそれですから、抱えるだけでも大変だったはずです。
昨今の映画は、CGも併用しつつ狭いとこをカメラが駆け回るのも当たり前になった感があります。
ですが、『Uボート』には、今は当たり前のそれを「アナログ」でやってのけたことによる「ど迫力」があります。
あらすじラストまで〜ネタバレ閲覧注意!
ここからは、ネタバレになりますので映画を見る方は閲覧注意です。
+ + +
ボロボロになりながら、Uボートは基地に帰還します。
軍楽隊が迎え、艦長以下乗組員は安堵の表情を浮かべています。
そこに、空襲警報が鳴り響き、爆撃機が港に爆弾を落とします。
逃げ惑う軍楽隊や乗組員。
爆撃が終わると、乗組員たちは皆、斃れている。
艦長は、帰投したばかりの潜水艦が沈んでゆくのを無常に見守り、息絶える。
新聞記者だけが生き残り、力無く座り込む。
エンドロール。
映画史上に残る、バッドエンドですよ。
このバッドエンドは『戦場にかける橋』のラストの超絶無情さに匹敵しました。
ぼくは、公開当時、茫然と映画館を後にしたことをおぼえています。
第二次世界大戦が終わったのは、1945年。ドイツは国土が戦場となり、負けました。そのドイツが、あらゆる意味を込めて『Uボート』を製作した意義はなんだったのか?
その意味が、『Uボート』のラストシーンに込められている、と、ぼくは今も思っています。
『Uボート』戦争映画としての質は?
戦争映画と一言でいっても、いろんなジャンルがありますね。
1.スペシャリスト特殊部隊系(ランボーとか)
2.スペクタクル系(パットン大戦車軍団など)
3.冒険活劇系(荒鷲の要塞やナバロンの嵐系)
4.兵卒目線最前線投げ込み系(プライベートライアン、戦争のはらわたなど)
5.ドラマ系(戦場のピアニストなど)
6.収容所系(アンブレイカブルほか)
7.人間存在哲学系(シン・レッド・ライン)
パッと考えただけでも、これだけ出てきます。
ちなみに『Uボート』は「4」兵卒目線最前線投げ込み系です。
潜水艦内という最前線。観客は、乗組員と一緒に潜ることになります。
空気のない海中が主戦場となる潜水艦には、「帰還」か「爆沈」あるいは「水圧での潰滅」のどれかしかありません。
帰還はイコール生還を意味し、他は全乗組員の死を意味します。この映画はその極限を表現しています。
「第二次対戦中、Uボート乗組員4万人のうち、3万人が帰らぬ人となった」とパンフレットに書かれていました。
この映画の劇中、ほとんどの組員は「名前」で呼ばれません。
47名の中で名がついているのは艦長や機関長といった士官クラスだけ。他の若者たちは「名無し」です。
「戦争をはじめる国家からすると、兵士は「名無し」である」という事実を、この映画の脚本は突いているように思えました。
『Uボート』はそんな点でも、戦争の持つ非情さにいいおよんだ映画となっていると感じます。
観終わったあと、原作本まで買って読みましたが、正直、本は翻訳が合わず、読了にいたりませんでした。
映画と本は、やっぱり別モノですね。
『Uボート』はみだしレビュー~ワインのこと
なんでワイン?と思われるかもしれません。ぼくは、この映画ほど、ワインがおいしそうに飲まれてる映画を見たことがありません。
修理に挑む乗組員たちがボロボロになるシーンが出てきます。そこで兵士はワインボトルからラッパ飲みする。それだけです。別にテーブルで行儀よく飲むわけじゃあ、ありません。それでも美味しそうなんです。絶対美味しかったに違いない。
というわけで、ぼくの家では、『Uボート』を観た後、必ずテーブルに白ワインが置かれることになっています。
『Uボート』音楽・サントラもまたステキ
音楽を書いたのは、クラウス・ドルディンガー。
意外と皆さん、テレビのバラエティなどで『Uボート』のメインタイトル、耳にしていると思いますよ。
ホルンの主旋律とリズム刻むドラムがアップテンポで絡み合い、「よっしゃ!行くぞ!」となる名曲です。
『Uボート』監督とキャスト
監督のウォルフガング・ペーターゼンは、この映画の成功でハリウッドに進出して、『ネバーエンディングストーリー』や海洋もので『パーフェクト・ストーム』、ウィルステーマの『アウトブレイク』、活劇系で『エアフォース・ワン』などを撮っています。
主役の艦長役を演じたユルゲン・ポロホノフも、この後アメリカハリウッドに進出しました。『イングリッシュ・ペイシェント』『ダ・ビンチ・コード』他、多数。ペーターゼン監督と再タッグでは、『エアフォース・ワン』に出ています。
最後にぼくのこの映画オススメ度。
映画『Uボート』、星五つ。時代を超える映画だと思っています。
(原題 Das Boot 1981年 西ドイツ映画)
ちなみに最近のUボート映画『U:235潜水艦強奪作戦』のレビューも書いていますが、、、ぼくとしては残念ムービーです。お時間あれば、こちらのレビューを覗いてみてください。
同じくUボート映画『U571』レビューはこちらに書いています。
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