Netflix『THE DAYS』実話ドラマの評価レビュー〜あらすじからネタバレ感想まで。福島原発事故再現の8話連続。

実話・リアリティ

誰も知り得なかった福島原発事故の現場が、リアルに描き出されるネットフリックス制作8話連続ドラマが『THE DAYS』です。

吉田昌郎所長役に役所広司、菅直人首相役を小日向文世。他、キャストの力のある静かな演技で、原発事故現場が今、明かされます。

ぼくは8話連続の「続き」を明日に伸ばすことができませんでした。面白いです。

震災当時、仙台で被災したぼくの家は電気が止まり、事故情報はラジオのみ……。小さなスピーカーから流れる酷い原発事故情報に、ぼくら家族は固唾を飲んで耳を傾けていました……。

そんな体験を持った経験をもとに、実話ベースのドラマ『THE DAYS』をひもといてみます。


 




『THE DAYS』評価レビュー

極力虚構を排除した重量級ドラマ

『THE DAYS』を観るずいぶん前に、『死の淵を見た男』という本を読みました。門田隆将が書いたノンフィクションです。

現場関係者に丹念な取材を重ねたというその本は、福島原発事故の知られざる現場の実態をリアルに浮かび上がらせていました。

そして、現場を指揮した吉田昌郎所長が残した現場記録に「吉田調書」と名付けられた報告書があります。

『THE DAYS』は、『死の淵を見た男』と「吉田調書」を元に、虚構を極力排除して作られたというドラマです。

8話完結です。11時間として8時間の計算になります。

しかし、『THE DAYS』では中だるみなどなく、しっかりと組み立てられています。

吉田昌郎所長役に役所広司、菅直人首相を小日向文世。

福島原発の吉田昌郎所長役を演ずるのは役所広司です。

原発事故をあつかった映画『フクシマ50』で演じられた吉田所長とは全く違った、どちらかというと寡黙なトーンで演じられています。

吉田所長が実際現場でどんな感情の発露をしたのかは分かりません。

しかし、『THE DAYS』において役所広司が静かに演じた吉田昌郎所長の方が、悲惨な事故現場の指揮者としてリアルを感じました。

また、菅直人首相を小日向文世が演じています。首相の傍若無人さを演じきっています。死をかけて放射能を抑え込みにかかる現場とのギャップを、小日向文世は見事に浮き立たせ、絶品でした。




映像の持ちうる、活字ではなし得なかったパワフル説得力

原子炉暴走を止めるべく、放射線量の限界で人力の作業にあたる発電所員たちは、実在の、地肉が通っている人たちです。

「おい、マジかよ。現場ではそんな状況だったのか

本で読んで知ったつもりになっていたのですが、映像には、人の視覚に「修羅場」を直接刻み込む、活字とは異なる別のチカラがありました。

現実ほど胸を打つものはありません。




『THE DAYS』あらすじは?(8話連続ドラマです)

『THE DAYS』はノンフィクションドラマです。

ですので、以下、大雑把にだけあらすじを書きます。

2011311日、大地震が宮城県沖で発生、巨大津波が三陸沿岸部に襲来。

福島県浪江町の福島第1原発も高さ15メートルの津波に飲まれ、原子炉冷却に必要な「電源を喪失」する。

冷却装置が動かなくなった原子炉は化け物だ。メルトダウンに向かって放射能を撒き散らしながら暴走をはじめる。

吉田所長以下、原発の技術者、作業員たちは、限られた時間の中、原子炉メルトダウンを防ぐべく、必死の作業を続ける。

現場とは逆に後手後手に回る、政府と東電幹部。それぞれがそれぞれの思惑を振りかざし、現場発電所員は翻弄される。

ドラマはいままで明らかにされてこなかった、そんな酷い現場を描いた8話連続ドラマです。

『THE DAYS』感想〜ネタバレありの解説

決して派手な演出はありません

『THE DAYS』では派手な演出を極力控えています。多分、意図的に。

たとえば、劇中、自衛隊の出動シーンがあります。

アクション映画ならそのテのシーンは、お決まりの「カッコええ撮り方」というものがあります。『トップガン』を思い出してもらうとわかりやすい。

しかし、この映画では、その手法をあえて取っていませんでした。

あくまで淡々と自衛隊の出動を描き出します。それが、逆に、リアリティを押し上げています。

そんな、確信持って抑えた演出から、制作陣の「この映画は記録としても残すべき映画だ」という意思が随所に感じられます。

そして役者もまた、それに応えています。騒がしいオーバーな演技など一切出てきません。

それは、現実に原子炉溶融という恐怖に対峙した男たちへの敬意の表れだ、と、とぼくは感じました。

「原発事故対応に必死に当たる原発所員」を描くって、ついついドラマチックに盛り上げたくなるような素材ですよね。しかしこの映画は逆の抑えた表現をすることで、リアリティを高めていました。




『THE DAYS』は究極のホラーだ

『THE DAYS』において、原発所員が電源喪失した真っ暗な原子炉建屋で戦う相手は、「目に見えない放射線」「致死量まで高まった放射能」です。

原発所員は。限られたわずかな時間でバルブを開けるために漆黒の建屋内を手探りで進みます。

『真っ暗闇の中、登場人物が、目に見えない「何か」に襲われる恐怖の中、手探りで前に進む』

このシチュエーションは、どんなジャンルの映画でしょう?

そう、ホラー映画です

123とドラマが進むにつれて、ぼくは正真正銘の「ホラー映画」を観ている気分になってきました。

ホラー映画と違うのは、映像として迫ってくる内容が、現実にあったということ。

防護マスクの中で聞こえるのは自分の呼吸音のみ。

そして暗闇の中、無慈悲に鳴り響く、線量計。

懐中電灯だけを頼りに、必死の作業に従事する彼らの恐怖は、いかほどだったでしょうか?

汗と吐く息で曇り切った防護マスク越しのカットが何度も出てきます。

そのカットもまた、従事した作業員への敬意の表れだったと思います。




ぼくらは原発事故を知ったつもりになっていただけ

震災当時、マスコミが撮った「水蒸気爆発」の映像は世界中を駆け巡りました。

その映像は衝撃的なものでした。

なので、誰もがなんとなく「知ったつもりになっている」のですが、実は誰も「なにも知らなかった」のです。

なにも、って?

それは、

「爆発の直後、現場で当たっていた人々の目線では、どんな惨状だったのか?」です。

『THE DAYS』では、自衛隊員の目線を借りて、爆発当時の修羅場をていねいに描き出していました。このシーンも必見です。だって、誰も見たことがなかったことを再現しているのですから。




『THE DAYS』ぼくの個人的感想

『THE DAYS』を観ている途中、こう思いました。

「放射能というバケモノクリーチャーを生み出し、襲われ、終わりなき戦いへと突き進んでいる今、結局、日本に生きている誰もが、恐るべきクリーチャーなのかもな…」

ぼくの感想は、これに尽きます。

ぜひ、一人でも多くの方に見てもらいたいドラマです。

『THE DAYS』原発事故の時ぼくら家族はどう動いたか

これは『THE DAYS』からちょっと離れまたおまけ記事ですので、興味ない方はスルーしてください。以下は、100キロ離れた仙台でぼくら家族がどう動いたのか?のノンフィクションです。

『THE DAYS』劇中、日本地図がクローズアップされます。

その地図には福島第一原発を円の中心に、北東北から関東一円までがぐるりと囲まれています。

当時、実際に仙台で被災した僕ら家族は、ライフライン寸断、テレビは見られませんでした。

しかし、ラジオの原発事故ニュースを聞きながら、ぼくの頭の中にはまさにその地図がイメージされていました。

行政はもちろん仙台市民に避難の指示は出していません。

しかし、そのイメージを紙にざっと描いたぼくは「これはやばい。仙台はアウトだ。実家のある盛岡まで避難しよう」と思いました。

なぜぼくがそう思ったのか?それは過去のチェルノブイリ原発事故があったときに原発関連本を読みあさっていたからです。

それら関連本に書かれていた断片が記憶の底から急浮上してきました。

「放射能被害は現場に限ったことではないよ」と、浮かび上がった記憶の断片はぼくに訴えました。

結果、家族で話し合い、最低限の荷物を車に詰め込み、残り少ないガソリンを気にしながら北へ向かいました。

以下、その時の教訓です。

『逃げるか残るか?決めるのは、行政やマスコミではない。自分たちだ。』

原発事故のみならず、自然災害大国となっている日本。

いざという時の決定は、自分たちです。

THE DAYS』を観ながら、そんな体験を思い出していました。




『THE DAYS』歴史の記録としての映画の役割

ぼくの弟は、その昔、とある映画学校で映画作りを学びました。

先日久々に彼と会って映画談義となりました。

会話の流れで、彼は言いました。

「映画には歴史上の事件を記録す役割があるんだ。

アメリカではウォーターゲート事件や、9.11の後にすぐに映画が作られたよね。

アメリカの映画界には、そんな役割認識があるんだよね。

日本でも大事件を取り上げた映画、あることはあるけど、そんなに多くはないでしょう?

残念だけど、日本は遅れをとっているかもしれない。」

なるほど、と、思いました。

この映画はまさに、「負の歴史の記録」でした。

8話連続ドラマで配信のスタイルをとりましたが、日本の映画史にも刻まれる一本だと思います。




『THE DAYS』スタッフ・キャスト

企画脚本制作 増本淳 監督 西浦正記 中田秀夫

キャスト 役所広司 竹野内豊 小日向文世 小林薫 音尾琢真 光石研 遠藤憲一 石田ゆり子 他

2023年 8話連続ドラマ Netflix配信

 




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