『フューリー』
ネタバレ考察評価レビュー
こんにちは、映画好き絵描きのタクです。今回レビューする映画は『フューリー』です。
第二次世界大戦末期のヨーロッパ戦線を舞台にした戦争映画です。(2014年公開。アメリカ映画)
敗戦の色濃いドイツ軍との戦いをアメリカ陸軍戦車兵目線で描いた映画が『フューリー』です。ブラッド・ピットが主演しています。
この映画のウリのひとつは、使われた戦車にあります。
『フューリー』の撮影で使われたタンクは、現在動かせる本物のシャーマン戦車、そして、唯一稼働可能なドイツ軍のティーガー-I型。それらを実際に動かして撮影されたことが、戦争映画ファンやミリタリーファンの間で評判となりました。
しかしネット上ではミリタリー好き評価は賛否両論でした。…まあ、こだわりのあるミリタリー好きが見れば、細かいところを突っついて見せたくなるのが、人情ってものでしょう。
そんな機甲部隊戦争映画『フューリー』を、ぼくなりの目線でレビューしてみます。
※あらすじ・感想にはネタバレが含まれますのでご注意ください。
解説『フューリー』はどんな映画?
『フューリー』は実話??
戦争映画は、たいていが実際過去にあった戦争が舞台となります。戦争は史実として記録されているので、戦争映画を観ると、それが「実話」か?それとも「フィクション」か?が気になるところです。
では『フューリー』は実話でしょうか?
この映画は、第二次大戦の戦場をリアルに泥臭く描いた映画なので、実話のように思えるかもしれませんが、実話ではありません。
映画のクライマックスにかなり似た史実エピソードの存在は確認できましたが、映画のシナリオはあくまでフィクションであって、実話ではありません。
『フューリー』は、史実エピソードを横目にして、オリジナルストーリーとして練り上げられたもの、と理解した方が良いと思います。
『フューリー』はどんなタイプの戦争映画?
戦争映画といっても、タイプはいろいろです。
⚫︎『プライベート・ライアン』や『戦争のはらわた』、『西部戦線異状なし』『ブラックホーク・ダウン』といった歩兵視点のタイプ。
⚫︎『パールハーバー』『ミッドウェイ』といった海空系史実を再現したタイプ。
⚫︎『ハートロッカー』や『スターリングラード』などは、爆発物処理班やスナイパーを主人公にした、いわゆる特殊技能兵士を主役にしたタイプ。
⚫︎『眼下の敵』や『Uボート』、『メンフィスベル』といった潜水艦や爆撃機という乗組員や搭乗員を描いた「クルー」主役タイプ。
ちょっと無理矢理分類した感はありますけど、ひとくちに戦争映画と言っても、そんなふうにいろんなタイプがあります。
『フューリー』は戦車兵は主人公なので、「クルー」主役タイプでしょうか。
でも戦車クルー主役の機甲師団タイプって、最近あまり映画になっていませんでした。
戦車を登場させた映画には、その昔には『パットン大戦車軍団』とか『バルジ大作戦』といった作品がありました。
そのあたりが機甲師団型のハシリにあたるのでしょう。
しかし『フューリー』のような「一台の戦車を動かす戦車兵たち」をドラマでみせた映画って、あまり記憶にないんですよね。。。
多分『フューリー』という映画は、一台の戦車と搭乗員にフォーカスしたという点で、斬新な映画だとぼくは思っています。
最近でこそロシアの戦車T-34とクルーを主人公にした、まんまタイトル『T34』という、VFXをフルに使った見せ場満載のタンクアクションムービーも出てきましたが、この記事は『フューリー』公開時の2014年の目線でレビューしてみます。
それでは、まず、あらすじを紹介しましょう。
『フューリー』あらすじ
以下あらすじはネタバレを含みますので、映画をこれから楽しむ方はスルーしてください。
プロローグ
時代は1945年4月。舞台は終戦間近のドイツのどこかだ。
ドイツ国内で進撃を続けるシャーマン戦車の一個小隊があった。
砲身に「FURY」と車名を書き殴られた戦車の指揮官は、ドン・「ウォーダディー」。
乗組員は砲手ボイド・「バイブル」、装填手グレイディ・「クーンアス」、操縦士トリニ・「ゴルド」。副操縦士は新兵ノーマンの5名が乗っている。
ノーマン以外は数々の戦地を生き延びてきた歴戦クルーだ。それゆえに腰のひけているノーマンへの風当たりは強い。
ノーマンのためらい
ある任務で森の脇を進む小隊は、パンツァーファウストによる奇襲を受け、小隊長の乗るシャーマンが撃破され擱座する。
奇襲直前に敵兵を見ていたことを警告しなかったノーマンは、ドンから「女こどもであってもドイツ兵は殺せ」と叱責される。
さらに続く戦闘でもノーマンは戦意消失。
ドンはノーマンを無理矢理に、投降してきたドイツ兵を射殺させる。
ノーマンはその後、町の制圧戦を通じて、徐々に引き金を引くことを厭わない兵となってゆく。
小休止
ある町で部隊は小休止する。
女を買うもの、酒を飲むもの、兵士たちの気の抜き方はさまざまだ。
ドンはノーマンは一軒の家で、偶然ドイツ人女性2人と会う。
ドイツ人女性に食事をいざない、ノーマンにひとときの安らぎを与えるドンだったが2人の行動は戦車クルーたち=バイブル、クーンアス、ゴルドとっては、ただの「抜け駆け」だ。
一触即発となる3人と、ドンとノーマン。
そこにドイツ軍機による爆撃が始まる。
爆撃が終わるとノーマンがベッドを共にした女性は瓦礫に埋もれ、死体となっていた。
呆然とするノーマン。
装填手クーンアスは手荒に「これが戦争の現実だ」と告げる。
ティーガー戦車との戦い
ドン率いる戦車小隊に、一つの命令がくだる。それはとある交差点の死守だった。
小隊は交差点へ向かう途中、一輌ドイツ軍戦車と遭遇する。当時最強だったのティーガー-Iだ。
ティーガー-Iの88ミリ砲は強力だ。次々と撃破されていく小隊の戦車たち。
ドンのシャーマン戦車も被弾しつつもティーガー-Iを背後から捉え撃破する戦法に出る。
ギリギリの攻防の末、背後からティーガー-Iを仕留めるフューリー。
小隊の戦車はドンたちの乗るフューリーただ一輌だけとなってしまう。
しかし、ドンは、死守せよと命令を受けた十字路へとフューリーを進める。
果たして一輌だけで、防衛ラインの十字路を守り通せるのか?
『フューリー』あらすじ〜ネタバレラスト結末まで
以下はクライマックス*ラストまでのネタバレとなりますので、映画を観る方はスルーしてください。
+ + +
丘陵地が広がる田園地帯に交差する十字路に着いたフューリーだったが、対戦車地雷を踏み転輪を破損、走行不能となってしまう。
十字路で立ち往生するフューリー。
その時十字路の遥か彼方からドイツ軍の軍歌が聞こえてくる。
ナチス武装親衛隊の歩兵大隊だ。
ドンは戦うことを表明するが、クルーたちは戦車からの退避を主張する。
当然だ。動けない戦車はただの鉄の箱だ。
しかし、ドンと戦うことを選んだノーマンの姿にクルーたちの心が揺れ、結局、皆フューリー号に残ることを決意する。
日が暮れた。
死守が始まった。クルーたちの武器は、機銃からピストル、手榴弾まで車内に持ちうる全てだ。
身動きが取れないフューリーへの猛烈な集中砲火に、ひとり、またひとりとクルーは斃れてゆく。
コマンダーのドンも外部機関銃にとりついていた時に狙撃兵から狙われ撃ち倒された。
最後に残ったノーマンは、死にゆくドンから「脱出ハッチから逃げ出せ」と指示され、底部から脱出する。ドンは車内に投げ込まれた手榴弾で戦死する。
朝がきた。
ノーマンは、フューリーの転輪を吹き飛ばした地雷が作った窪みに身を潜め、無事だった。
進軍してきた友軍に助けられるノーマン。
友軍兵士に「君こそ英雄だ」と声をかけられる。
ラスト、カメラが、擱座したフューリーとドイツ兵の死体が散乱する十字路を真上から捉え、エンドロールへとつなっていく。
戦車兵映画『フューリー』感想
ぼくはこの映画を公開時に劇場で見ましたが、観客の大多数が中高年男性だったのが妙に記憶に残っています。
そりゃそうでしょう。「戦車」って昭和フタケタ生まれのボーイズにとっては必須アイテムでした。ぼくを含めてそのまんま大人になってしまった男性(簡単にいえばミリオタですね)が、その観客だったように思います。
で、同時にぼくはこうも思っていました。
「ああ、皆、オレと同じく、本物シャーマンと本物ティーガーをスクリーンに見たくて映画館にきたんだろうなあ」
…って。
まあ、そんなことより、『フューリー』が面白かったかどうかですよね?
はい、ぼくは、目をつぶるところも多少あったけど、それ差し引いても、面白かった!です。
その証拠に、その後DVDまでゲットして何度か見直し、そのたびにドキドキハラハラしています。
ツッコミどころ満載?おかしい?何がよかった?
つっこみどころ満載な『フューリー』?
しかし、ネット上では冒頭でも書いたのですが、『フューリー』は結構賛否両論があるんですよね。
確かに、ミリオタ目線で見ると「それってないだろ!」というつっこみどころや、「あれれ?」と首傾げたくなる部分があるんですよね。
あちこちのサイトで、戦史上、また戦闘シーンでのあり得ない設定や、軍事的に間違っている作戦行動、戦い方などが、指摘されています。
たとえば銃撃戦で昼間なのに弾筋が光って見えたり、”一台だけでドイツ軍に立ち向かう”という、兵力温存を大事に考えるアメリカ軍としてありえない設定、クライマックスでのドイツ軍の猛烈に無駄な攻め方などなどです。
それは確かにその通り!なんですよ。
さらには、ノーマンがピアノを弾き、若い女性といい仲になるシーンは、あまりに唐突で無理やり感がありました。またクライマックスのフューリーへの集中砲火に至っては、鉄の塊の戦車に対して、小銃や機銃を撃ちまくるドイツ軍って、絶対あり得ないな、、、と、ぼくも思いました。
だって、分厚い装甲の戦車に対して”砲弾ならぬ銃弾”を雨あられに撃ちまくるドイツ兵って、いなかったと思うのですよ。戦車が戦場に初めて投入されて「戦車が何モノかわからない」第一次世界大戦じゃあるまいし…。
そう、戦車に対しての攻撃は「機銃打つ前にパンツァーファウストで仕留めるのが戦い方ってもんじゃないか?」と、ぼくも思いました。
あ….パンツァーファウストって携帯用の対戦車ロケット弾のことです。米軍御用達対戦車兵器バズーカのドイツ軍版ですね。一発打ったら発射筒は捨てる式。ネタバレになりますが、映画ではクライマックス後半、激戦の果て、最後の最後にようやく撃ち込まれます。
でもまあ、最初にパンツァーファウストを撃ち込まれたら、映画は即、ジ・エンド。ドラマが破綻してしまいますね。だから脚本的には後半にパンツァーファウスト攻撃を持ってきたんだろうなあと、理解しています。
また、ラストの「君は英雄だ」の一言にも、「イマドキまだそんなベタなセリフを言わせるのか。ハリウッド、大丈夫か?」と、ため息まじりに、参ってしまいました。
しかし、、、それでも、、、やっぱり『フューリー』は戦争映画として「面白い!」んですよね。
だって、わかっていながら何度も繰り返し見ているんだもの、ぼくは…。
では、なぜ、つっこみどころ満載『フューリー』が面白く観れてしまうのか?を以下に書いておきます。
なぜぼくは『フューリー』をおもしろく見れるのか?
はい、では『フューリー』のおもしろフックを書いてみましょう。

1.多分、戦車という密室ゆえに、観客をドラマに引きずり込んでいる。
戦闘時は、めちゃくちゃに狭い車内でシーンが進みます。その狭さ故の緊張感が映画の要所要所に入ってくるので観ている方のアドレナリンが上がる。

2.今まで描かれることが少なかった戦車兵の日常が描かれている。戦車兵ルポみたいな目線が新鮮。

3.戦闘シーンのバリエーションが全て異なることでアドレナリンが上がる。『フューリー』の戦闘シーンは、”戦車 対 対戦車砲”、”戦車 対 戦車”、”戦車 対 歩兵” …と全て異なるんです。それがストーリーに変化を生み、最後までぼくを引っ張った。
と分析してみました。
うーん、要は、徹底したミリオタや戦史好き、軍事好きの方々だと冷めてしまうところを、ぼくはそこそこユルいミリタリー好きゆえ、「アクション映画」として楽しめているのだと思います。
そう、この映画はリアルディテールを求めては、多分ダメなのです。
『フューリー』は、本物の戦車を使い、当時の報道写真やニュース映像をミキサーにかけて戦闘シーンにシャッフルして、うまくウソをついたタンクアクション映画。それが『フューリー』なのだと思います。
M4シャーマン中戦車がバリエーション豊かな理由
映画に登場するシャーマン戦車のことについてはミリタリー好きのサイトで数多く語られていると思いますので、詳しいことは書きません。
ここでは、映画に登場するシャーマン戦車のカタチが、それぞれ微妙に違っていることについて、書いておきます。
映画に登場して進軍するシャーマン戦車の小隊は5輌で編成されています。(そのうち2輌は早々に撃破されてしまう)
後半3輌でドイツ軍のティーゲルIと戦いますが、砲身が長かったり短かったり、形が微妙に異なっていたりします。
シャーマン戦車の形が違っている理由は、アメリカがありとあらゆる国内自動車メーカーにシャーマン戦車大量生産を指示したことによります。
わかりやすく言うと、「ありとあらゆる使えるエンジンをぶち込んで、とにかくシャーマンを作り上げろ」という指令だったのですね。なので、エンジンはもとより、サスペンションや砲塔の形も多種多様となったようです。
そう言う理由で増産されたM4シャーマン中戦車の数は、なんと約50,000輌でした。
戦車兵の髪型ヘアスタイルのこと
どうでもいいことなんですが、劇中シャーマンに搭乗している戦車兵のうち、ブラピ含めて3人がソフトモヒカンみたいな髪型なのです。
「なぜ、戦車兵がソフトモヒカンなのか?」が気になって気になって仕方なかったので、調べてみました。
答えから言ってしまうと、戦車兵のソフトモヒカン髪型はフィクションでした。
第二次大戦中のアメリカ陸軍戦車兵の標準的な髪型は、ごく普通の短髪(ショートカット)です。規律の観点からも、極端なモヒカンは実際にはほぼ存在しなかったようです。
しかし『フューリー』で、ブラッド・ピットの髪型がソフトモヒカンになっている理由は以下のとおりです。

① “戦場での実用性”を強調するため
監督デヴィッド・エアーは、兵士のリアリズムと泥臭さに徹底的にこだわるタイプなんです。兵士たちは長期戦で風呂も散髪もままならず、自分で刈ったり仲間が適当にバリカンを当てることも珍しくありません。
そのため、「整えようのない中で、実戦下で自分で刈った粗いスタイル」を象徴する髪型として、あえてソフトモヒカン気味の形にしたそうです。

② 兵士の“凶暴性・野性味”を視覚的に表現するため
モヒカン系の髪型は、反骨、獰猛さ、戦場で“人間性が削られた”状態を表すシンボルになりやすい。
ウォーダディーは心が擦り切れ、冷酷な面を持ちながら仲間を守る“狼のような男”です。そのキャラクター性を一目で理解させるためのビジュアル・シンボルとして劇中のソフトモヒカンが採用されたそうです。
映画の世界の中だけで採用されたヘアデザインだったんですね。
公開当時は理容業界でブラピの髪型再現のイベントも行われたようですよ↓
エンドロールの記録映像のこと
『フューリー』のエンドロールは第二次世界大戦の記録映像がシャッフルで流されます。
実は第二次世界大戦フェチのぼくですが、あまり見たことがない映像が次々と使われます。
つい、「おお!」と、食いついてました。
ミリタリー好きなら、たまらないエンドロールだと思います。
もっとも、そんなエンドの締めくくり方はサム・ペキンパー監督の『戦争のはらわた(原題Cross of Iron)』ですでに使われています。
間違いなくこのロールバックは、脚本も手がけた監督デビッド・エアーの、今は亡きペキンパー監督へのリスペクトでしょう。
『フューリー』僕の評価は?
以上、感想が評価のようにもなってしまいましたが、僕の評価は、星は三つと半分です。
細かなこと言わずに、SF映画やアクション映画を見る感覚で楽しむのが良い映画だと思います。
ぼくは大好きな映画です。
『フューリー』スタッフ・キャスト
監督・脚本:デビッド・エアー
キャスト: ブラッド・ピット/シャイア・ラブーフ/ローガン・ラーマン/マイケル・ペーニャ/
ジョン・バーンサル 他
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