映画『アウシュヴィッツのチャンピオン』実話です。配信先・キャスト・感想評価~結末まで。ネタバレレビュー

実話・リアリティ

今回は、2020年のポーランド映画『アウシュヴィッツのチャンピオン』(上映時間91分)を紹介しましょう。

第二次世界大戦時の負の遺産、ポーランド・アウシュビッツユダヤ人収容所で実際にあった実話を映画化した作品です。(アウシュビッツはドイツの呼び名です:ポーランド名はオシフェンチムと言います)

収容所映画は、人間の業を描く内容のせいでしょうか、佳作も多いです。今また一本、名作が世に送り出されました。ポーランド映画陣の渾身作をレビューします。

『アウシュヴィッツのチャンピオン』には、いま生きる誰もが知っておかなければいけない、そして目を背けてはいけない負の歴史と、人間の業、さらには小さいけれど究極の愛が描かれていました。



 



『アウシュヴィッツのチャンピオン』スタッフ・キャスト

監督・脚本:マチェイ・バルチェフスキ 音楽:バルトシュ・ハイデツキ 

キャスト:ピョートル・グォヴァツキ/グジェゴシュ・マウェツキ/マリアン・チェヂェル/ピョートル・ヴィトコフスキ/ラファウ・ザヴイエルハ/マルチン・チャルニク/ヤン・シドヴォフスキ



『アウシュヴィッツのチャンピオン』配信先は?

以下のサービスでご覧いただけます。

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『アウシュヴィッツのチャンピオン』実話です〜あらすじ紹介

ポーランドのクラクフからほど近いところに、今も、アウシュビッツユダヤ人収容所跡があります。大量虐殺で悪名高い強制収容所です。

ぼくはその昔、まだ東西の行き来が今のように楽ではない時代に、アウシュビッツ収容所を実際に自分の目で見てみたく、旅したことがありました。

収容所後には数棟の収容所と延々と続くレンガ煙突が、まるでホロコーストの標柱…墓標のようで心に残っています。

こちらが古いけど、現場で撮ってきた写真です。

『アウシュヴィッツのチャンピオン』は、多分実際に現地にロケされている….と感じました。セットを作ったにしてはリアリティありすぎました。

ちなみにゲートの上部にある文字は、ドイツ語スローガンで『ARBEIT MACHT FREI』です。

「アルバイト マハト フライ?」この言葉はいったいどういう意味でしょうか?

日本語に訳すと『働けば自由になる』です。

一度入ったら最後、自由になどなれなかったアウシュヴィッツです。凄まじいスローガンですね。

映画『アウシュヴィッツのチャンピオン』劇中もしっかり撮影されていますので、よく見てくださいね。

この収容所内で、ワルシャワに住んでいた一人のボクサーが、ドイツ将校の娯楽のためリングに立たされていた、という事実があったとは、もちろん映画を観るまでぼくも知りませんでした。





以下に、あらすじを簡単に紹介します。

ワルシャワに暮らす主人公、ボクサーのテディ・ピトロシュコスキは、ある日、ドイツのユダヤ人狩りにあい、家族と生き別れ、アウシュビッツ・ユダヤ人強制収容所に送られる。

アウシュビッツはユダヤ人の人格は完全に否定され、過酷な強制労働が待っている地獄だった。

ある日、テディは一人のユダヤ人少年ヤネックとともに強制労働に従事しているさなか、ふとしたことで、カポ=囚人看守とボクシングの試合をすることになる。

ボクシングに通じたカポだったが、テディのボクサーとしての実力に舌を巻く。

そのカポはドイツ将校にをボクシング試合の選手として推薦、テディは、収容所内で余興のための試合に出ることになる。

テディは過去、バンタム級とフェザー級で100試合をこなし、ボクシング選手権で決勝まで登りつめた実力派のボクサーだった。

アウシュビッツ内での試合でテディは連戦連勝、ドイツ将校に目をかけられた彼は、食料を分けてもらえることになる。それらを少年ヤネックや仲間達に分け与えるテディ。

しかし、過酷な環境ゆえ、テディが心を通わせていた少年ヤネックは病に倒れてしまう。

ヤネックを救うべく救護所から医薬品を手に入れるテディ。その救護所には一人の若い女性囚人看護師がいた。

ヤネックは淡い恋心を手彫りの天使像に託し、看護師にプレゼントする。

しかし、看護師はヤネックの目の前で射殺され、ヤネックは生き抜く気力を失ってしまう。

気力が全てだ。テディはドイツ兵看守で最強の元ボクサー相手に、試合に挑ませてくれ、と、ドイツ将校たちに願いでる。

試合が始まった。互角の戦いだが、しかし、水に毒物を混ぜられたテディは、途中から前後不覚となってしまう。

そのリングに連れてこられたのは、ヤネックだ。両手の拳に鉄条網を巻き付けられている。

将校から「テディと戦え」とけしかけられる少年ヤネック。テディも「俺を殴れ」と誘うが、ヤネックは戦いを拒み背を向け、ライフルで射殺される。

絶望とともに縛り上げられるテディ。縛られた目の前では、ガス室へ送られるユダヤ人の長い列があった。

テディは生きてアウシュビッツを出ることができるか、、、。

というあらすじです。



結末〜ネタバレあり・閲覧注意

以下はネタバレラストまでです。映画を観たい方はスルーしてください。

縛られ柱に吊るされたまま、テディは朝を迎える。

ドイツ将校に縛り紐を解かれたテディは、遺体焼却の穴に連れていかれる。

遺体がくすぶる穴の中で、テディは一つの焼け焦げた人形を見つける。

それは少年が、射殺された看護師にプレゼントした天使像だった。

天使像を手に、テディは収容所内のボクシングリングへと向かう。

リングにはドイツ兵ボクサー。

グラブはなし。素手での戦いが始まる。

何度も殴られるテディだが、テディの放ったアッパーカットがドイツ兵ボクサーをリングに沈める。

その様子をみていた一人の他の収容所長が、テディをスカウトする。

絶滅収容所アウシュビッツを後にするテディ。

エンドロールでは、戦後、テディがワルシャワで子供たちにボクシングを教えるジムを始めたことが伝えられ、幕が降ります。




『アウシュヴィッツのチャンピオン』ぼくの感想は?

冒頭でも書きましたが、アウシュビッツを実際に見たぼくは、ナチスの蛮行はアウシュビッツの展示などを見て知ってはいましたが、余興としてボクシングの試合が行われていたこと自体、衝撃的でした。そしてテディが実在の人物だったことも。

『アウシュヴィッツのチャンピオン』における、アウシュビッツ内でユダヤ人の命が軽かった、、、という描写は、秀逸です。実に抑えた演出で、その場にいるような錯覚さえ受けます。

必要以上にドラマチックにすることなく、くしゃみをするように淡々と「命」が消されていく…そんな描写です。

その淡々とした描き方によって、、過去のホロコーストへのポーランド映画陣の「怒り」を、逆に強く感じました。

『アウシュヴィッツのチャンピオン』では、ナチスドイツの一人の高級将校が重要な役回りを担っています。

任務に着くために家族でアウシュビッツ近郊に住んでいるのですが、その将校の家族が壊れていくドラマがサイドストーリーとなって、ドラマに重みを与えています。

ドイツ将校の心の揺れもまた見どころです。



『アウシュヴィッツのチャンピオン』から感じてほしいこと

「手彫りの天使」

ヤネックは女性看護師に、手彫りの天使像をプレゼントします。

その天使像は、ほんの1秒ほどしか画面に出てきません。

しかし、ぼくはその不器用に掘られた天使像が画面に映し出された瞬間、思わず涙がこぼれました

「心をこめて創り出すとは、どういうことか?」を、突きつけられたのです。

その天使像は、極限の中で少年が見つけた「愛」を形にしたものでした。

天使の顔の彫り方は、左右不釣り合いでした。

そんな不出来な造形だけれども、切ないほど愛が込められていることがわかりました。

そのシークエンスの前に、「生まれる前、全て人は天使だった」と、少年ヤネックが口にするセリフがあります。

この言葉は、決して抑圧されている側をなだめる単純な言葉ではありません。

敵の非情なドイツ将校にさえ、掛けられている言葉なのだ、と感じました。

さらにその「手彫りの天使」は結末まで大切な物語の鍵となります。

「手彫りの天使」のその顔は、一時停止をかけても、じっくり見る価値があります。

ぼくは天使の顔立ちに、久々に「極限の愛の表現」を見た気がしました。



勝者はいったい誰?

『アウシュヴィッツのチャンピオン』はスポーツ映画ではありません。

テディは試合を切り返し、何度も勝ち抜きます。

ぼくはしかし、「勝者は誰だったのだろうか?」とは思いました。

決してテディは「倒した」とは思っても「勝った」とは思っていないのです。

その証拠に、彼の表情からは勝者のもつ「光や輝き」は微塵も感じられません。(「ここでのボクシングはスポーツじゃない」というテディのセリフもあります)

アウシュビッツを出ることが叶ったときの表情にさえ、勝者の光は全くありません。

誰も勝者がいない世界が絶滅収容所アウシュビッツでした。

あえて映画の中に「勝者」をあげるとするなら、ぼくは、二人をあげます。

一人は背を向け、自ら死を選んだ少年ヤネック。

そしてもう一人は、ヤネックが手彫りの天使像を渡した看護師の女性です。彼女もまた、自ら死への道を選び取った一人です。



『アウシュヴィッツのチャンピオン』の伝えたかったこととは?

これもまたネタバレになりますので、閲覧注意です。

映画のラストで、ドイツ将校からテディはこう問いかけられます。

「いつか全てが終わったらどこへいく?」と。

テディはこうつぶやきます。

「住むところを探す」

「住むところを見つけたあとは、君はどうやって生きる?」と、ドイツ将校。

その問いにこうテディは答えます。

「ひとつだけ心に決めている。自分が生きたいように。」

+ + + +

「自分が生きたいように。」とは、当たり前のような言葉ですが、「決して当たり前ではない」のです。

「自分が生きたいように生きられない」。そんな世界が今もなお、あちこちにあまたあるんだ、、、。 

『アウシュヴィッツのチャンピオン』は、ポーランドが矜持を見せた、歴史に長く刻まれる映画だと思います。深く心に残る91分でした。






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