映画『ひろしま』感想レビュー
壮絶。原爆投下後の阿鼻叫喚を記録し残す役割
こんにちは!映画好き絵描きのタクです。
今回レビューする映画は日本映画の『ひろしま』です。
ぼくがこの映画を観たのは、もちろんサブスク配信です(U-NEXT)。
この映画の存在を今の今(2025年)まで知りませんでした。それ以上にこの記事を書いているのは、決して狙った訳ではないのですが、8月5日。そう、原爆ピカドンが落とされた命日8月6日の前日です。
1953年の映画ですので、原爆投下からわずかに8年後の公開なのです。
監督は関川秀雄。出演は岡田英次、原保美、加藤嘉、山田五十鈴、月丘夢路、岸旗江、利根はる恵、神田隆、薄田研二、三島雅夫(以上U-nextからコピー)、そして、ひろしま市民の皆さんです。
ベルリン映画祭では長編劇映画賞受賞しています。
8月6日必見、8月15日終戦記念日必見、戦後80周年必見と言えるでしょう。
原爆の恐ろしさを生々しく伝える『ひろしま』、戦争映画の傑作をレビューします。
『ひろしま』ってどんな映画?
「忘れてはいけないから…。生き地獄と化した広島の“あの日”を人々の胸に刻む衝撃作」と、U-NEXT配信のキャッチには書かれています。
素晴らしいキャッチコピーだと思います。まんま、『ひろしま』の髄を突いて言い表しています。
1953年に公開された映画『ひろしま』は、広島で実際に被爆した方々の証言や体験をもとに制作された作品です。
脚本監督は関川秀雄。出演者には、一般の市民や広島の教師・学生たちも多数参加しており、その数はなんと9万人にものぼったと言われています。
原作となったのは、広島の教師と生徒たちが綴った体験記『原爆の子』。戦争の悲惨さと原爆の恐ろしさを、実際の声で伝えることを目指して映画化されたといいます。
この映画は、原爆が投下された直後の広島の街と、そこで生きようとする人たちの姿を描いています。
空襲警報が解除され、ようやく安心した瞬間に落とされた原子爆弾。その光と熱に包まれた街で、多くの人たちが命を落とし、傷つき、家族を失いました。映画は、そうした日常の中に突如として訪れた悲劇を、淡々と、けれど強く訴える形で描いています。
特徴的なのは、ドキュメンタリーと劇映画の手法を組み合わせていることです。
実際の被爆者が出演し、リアルな状況を再現することで、見る人に深い衝撃と問いを投げかけます。当時としては非常に重いテーマでありながら、国際的にも高く評価されています。
『ひろしま』制作の舞台裏
市民と教職員×映画人の力わざ
映画『ひろしま』は、広島県教職員組合と広島市民の全面的な協力によって作られました。
企画には日教組も関わっており、広島の中学生や高校生、先生や一般市民など、なんと約9万人がボランティアでエキストラ出演しています。
特に、原爆投下の場面で幽霊のように傷つき逃げまどう人びとは、広島市民が参加、演じています。
また、撮影には地元の広島市役所や労働組合(総評・広島県労会議)、被爆者の支援団体なども協力。企業では広島電鉄や藤田組(現在のフジタ)も名を連ね、地域・企業ぐるみの支援体制のもと撮影が行われたようです。
さらに、当時の戦時衣服やヘルメット、防毒マスクなどの小道具も、約4,000点ほど広島県民から寄付されたものなそうです。
撮影は原爆投下前後の広島をリアルに再現するために、現地ロケ合わせて168のシーンセットが用意されたといいます。
原爆地獄絵図再現にこだわった関川監督
監督の関川秀雄は、実際に起きた惨状をスクリーンに再現するため、撮影に手間をかけたといいます。
CGも特撮もない時代に、太田川周辺や救護所の混乱、焼けただれた街など、地獄絵図を見事に再現しています。その再現はセットと照明、大道具小道具、メイクといったスタッフの尽力によるものでしょう。
モノクロ映画ですが、修羅場と化した広島のシークエンスは、カラー以上にぐいぐいと迫ってきます。
若き才能と熟練スタッフの手によって
『ひろしま』制作スタッフには、録音の名手・安恵重遠や、のちに教育映画で活躍する小松浩、編集の河野秋和など、腕のよいスタッフが揃いました。
美術を担当したのは、後に『砂の女』で有名になる平川透徹。
セットは、のちに怪獣映画で知られる高山良策が手がけています。
助監督の一人としては、のちに『帝銀事件 死刑囚』や『海と毒薬』などの社会派映画で高く評価されることになる熊井啓が名を連ねています。
『ひろしま』あらすじ
広島市のある高校で女子生徒みち子が倒れます。原爆後遺症の白血病です。担任北川は、生徒たちと原爆後遺症について話し合う。
シーンは過去にカットバックし、原爆が投下された1945年(昭和20年)8月6日。暑い夏の日の午前8時15分に原子爆弾が落とされる。
「行ってきます」と家を出た子供たちが…
勤労奉仕で工場にいた女学生たちが…
小学校で崩れた校舎の下敷きになった子供たちが…
地獄へ叩き落とされる。
焦土と化した広島を、さまよう傷ついた市民たち。その姿はあたかも幽霊のようだ。
救護所に押し込まれた人々はまるで地獄絵図の餓鬼たち…。
原爆の恐ろしさが容赦なく描かれる…。
『ひろしま』あらすじ〜ネタバレラストまで
回想から親を亡くして生き残った子どもたちは荒んだ路上生活者となる。
瓦礫の中を生き抜く子どもたちの棘のような目線。
彼らは生き延びるため、盗みはもとより、見つけたドクロを記念品として占領軍に売りつけようとする。
焼け野原にバラックが立ち始め、戦災からの復興一歩一歩がイメージされる。
白い服を纏った市民たちが原爆ドームに向かって歩き始める。
その姿は原爆で死んだ市民たちを弔う精霊流しのようでもあった。
原爆ドームを背景に歩みを続ける生き残ったものたちに、死んでいった人々の魂がオーバーラップし、幕となります。
『ひろしま』感想
ぼくは映画が好きです。特に第二次世界大戦を舞台に戦争をとらえた作品はできるだけ見るよう努めています。
ぼく自身、広島を訪ね、原爆ドームを訪ね、原爆記念館にも足を運んだことがあります。もちろん絵にも描いています。ひとこと、圧倒されました。
しかし、ぼくは2025年の夏まで、この映画『ひろしま』の存在を知りませんでした。
見て、絶句でした。戦後まもない頃、こんなリアルな映画が作られていたなんて…。
映画を見終わると洪水のようにいろんな感情が押し寄せてきました。
ここではそんな押し寄せシャッフルされた感情を振り分けて、書き記してみたいと思います。
たぶん第一の感想は、「こんなすごい反戦、反核映画があったのか」だったと思います。
そして同時に、思っていたのは、この映画を知らなかった自分にたい対しての腹立ち感でもありました。
第二の感想。スクリーンを見ながら思い出していたのは、漫画『はだしのゲン』です。ぼくが小学生だった頃(1970年代)、ぼくが原爆のことを知ったのは『はだしのゲン』を通してでした。
『ひろしま』で描かれる地獄絵はまさに『はだしのゲン』が映像として実写で再現されているような印象でした。
世に出た順番としてはもちろん映画『ひろしま』が先で、『はだしのゲン』が後です。
でも前・後ろなんてどうでも良いのです。
絶句した幾つものシーンが実際に起こったことなのです。ワンカットワンカット、それは丁寧に作り撮られたことがわかります。
そんな地獄絵の再現からは、監督、制作スタッフ、キャストたち、そしてエキストラ参加した広島市民の熱量、圧を感じました。
映画の後半は、戦争が終わって復興への道のりが描かれますが、戦災孤児たちのドラマとなっていったところも良かったです。子役たちの表情がリアルでいい。
こどもたちにフォーカスしたシーンは、戦後を生き延びるための必死さが、痛いほど伝わってきました。
ここから先の感想はネタバレになりますので、映画を観たい方はスルーしてください。
ラスト、大勢の広島市民が原爆ドームに集まってゆくシーンがクライマックスとなりますが、ロングで引いて上空から見えせる絵は、まるで死んでいった人たちへの祈りの灯籠流しのように感じました。
たぶん、監督はエキストラ市民に「白い服を着ての参加」を求めたように思います。
それは、ぐしゃぐしゃになって死んでいった霊たちを鎮める、弔いの色に見えて仕方ありませんでした。
『ひろしま』ぼくの評価は?
戦後80年となり戦争の実体験を記憶している人も少なくなってきました。8月必見の戦争に関わる映画がまた一本増えました。
『ひろしま』ぼくの評価は、星5つ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️です。
音楽があまり好きではない、とか、相変わらずこの時代の録音は聞き取りづらくてイラつく、など、もちろんマイナスはあります。ですが、原爆を落とされて数年後にこんな映画を作ってしまったことに、表現者の力を感じました。
また時代は変われども、表現者とはどうあるべきか?という問いをも突きつける映画だとも思います。
『ひろしま』をいろんな人に知ってもらいたい、みてもらいたいです。
いい映画をありがとうございました。
『ひろしま』配信先は?
Prime Video https://amzn.to/3J1ez5B
以上で配信されており、レンタルできます。
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