『異端の鳥』ネタバレ感想考察・あらすじ・評価|子どもの目線で描く戦争とホロコーストの断片〜禁断の戦争映画

戦争・歴史・時代

『異端の鳥』ネタバレ感想
さまよえる子どもの目を通した戦争寓話の考察

こんにちは!映画好き絵描きのタクです。
今回レビューする映画は『異端の鳥』。制作国は、チェコ、スロバキア、そしてウクライナ三国合作。
2019年10月9日に公開された作品です。




『異端の鳥』解説

舞台は第二次世界大戦の東部戦線、今のウクライナやチェコ付近。一人の少年が、戦争の歯車に弄ばれるようにさまよい歩く様が描かれます。

実話ではありません。ですが、戦争において戦場にならない地域では、普通の人々の暮らしは、映画に似たようなものだったと思います。

子どもを主人公にした点では、傑作アニメ『ほたるの墓』の延長線上に位置すると思います。そんな『異端の鳥』の感想を考察交えながら書いてみます。

 

この記事でわかること

・『異端の鳥』あらすじ

・『異端の鳥』は実話か?

・『異端の鳥』感想

・『異端の鳥』画家考察

・『異端の鳥』はおすすめか?




『異端の鳥』あらすじ(ネタバレなし)

『異端の鳥』は、第二次世界大戦下のロシア戦線=ドイツ軍がソビエト連邦に攻め入った戦線のどこか…というハッキリと明かされない場所ではじまります。

一人の少年がテンを抱えて逃げている。追いかけているのはやはり少年たちだ。捕まった少年は痛めつけられ、テンは焼き殺される。

とぼとぼと一軒の農家に帰りつく少年。初老の女性が迎え入れる。どうやら少年は戦争で親元から離れて叔母の農家に疎開しているようだ。少年は地元の子どもたちからいじめを受けていたのだ。

ある日少年の叔母は急死。少年は家を燃やしてしまい、行くあてなく彷徨いだす。

ようやく村を見つけ安堵するが、それも束の間、村人に捕まり、一人の女シャーマン(呪術師)に命を託される。

少年はシャーマンの弟子となりあちこちで行われる祈祷について回るが、ある時村人から川に突き落とされてしまう。

荒野の中を、村から村、人から人へとタスキのように繋げられてゆく少年だが、どこへ行こうが誰からも受け入れてもらえない。辛い日々だけが重なってゆく。

とある野原の一軒家で一人の鳥飼いにたすけられる少年。ある日少年は、大空を見上げる。そこには小鳥の群れが舞っていた。

鳥飼いが放った一羽の小鳥が空を舞う鳥たちの仲間に入ろうとするが鳥たちはその小鳥を嘴で攻め、墜死させた。

少年はそんな『異端の鳥』のような存在であることが、次々と降りかかるエピソードで繰り返されてゆく…。



『異端の鳥』実話か?・背景解説

異端の鳥の原題は、『the painted bird』です。第二次世界大戦中、ユダヤ人ホロコーストを逃れて疎開した1人の少年が、迫害に抗いながら流されるように生き抜いていく…。そんな少年目線の原作を書いたのは、ポーランドの作家イェジー・コシンスキ。彼の書いた同名小説をベースに映画化されたもので、実話ではありません。

しかし、実話でないにせよ、ホロコーストは実際にあったことですし、ポーランド人のイェジー・コジンスキは戦時下ならばたぶんどこにでも存在する戦争の寓話だと思います。映画に近いことは実際あちこちにあったのでは…と、思います。

この映画の大きな特徴は、全編モノクロで撮られていることと、使われているセリフにあります。

ソ連兵が話すのはロシア語、ドイツ兵が話す言葉はドイツ語ですが、それ以外は、インタースラーヴィクという人工言語が使われているそうです。理由は、国や場所が特定されないように、とのこと。インタースラーヴィク語が映画で使用されるのは初なそうです。

第76回ヴェネツィア国際映画祭でユニセフ賞を受賞しています。



『異端の鳥』ネタバレ感想

子どもを主人公に据えた戦争背景の映画は、観ていて辛いです。

この映画『異端の鳥』で主人公となる少年に降りかかる苦難や蔑み、侮蔑は、とどまるところがありません。もう、えげつないほどです。

そんな大勢出会う大人たちの中で、少年をひとりの人間として扱うのは、3人だけ。それも、奇しくも、敵を殺す仕事の「兵士」2人と、命を癒す「聖職者」1人だけです。

ステラン・スカルスガルド演じる初老のドイツ兵(=少年は多分ロシア人。なので敵軍側)。もう一人は、バリー・ペッパー演じる赤軍のスナイパー兵士。そしてハーベイ・カイテル演じるロシア正教会神父です。

いやはや、大勢の大人たちが登場しますが、マトモに見えるのは、たったの3人だけ、です。どれだけバーツラフ・マルホウル監督が、「大人たちを信用していないか」が、わかります。

前にも書きましたが、『異端の鳥』は、アニメ『ほたるの墓』に通じるところがあると思います。ぼくは『ほたるの墓』の監督からも、大人への不信感を感じました。
ぼくが受け取ったのは、こんなメッセージでした。
「子どもにとって戦争は、漠としたものでしかない。もちろん子どもなりに、戦争が行われていることは、頭のどこかではわかっている。けれど、子どもにとっては、どこか遠い何処かの話である。しかし、遠い国の戦争が現実下にまるで液状化して表出され、子どもを容赦なく襲う。戦争が形をかえて液状化されたそれは、得体の知れない醜さとおぞましさをはらんでいる」

『異端の鳥』も、主人公の少年を取り巻く大人たちの世界が、見事に狂気に満ちています。

映画人は、戦争映画に関わる時、みな誰もが、「戦争の現実というものがあるのならば、果たして、どんな表現で伝えたら、観客に伝わるのか?」という命題とぶつかり葛藤すると思います。

その答えの一つを『異端の鳥』は出していると思います。

マルホウル監督は、柱をロードムービーに据え、ロードムービーと呼ぶにはあまりにも酷な旅放浪の表現を横糸にすることで、答えを出したように思えます。

『異端の鳥』の少年は、最後、父親と出会い、生きながらえます。

なぜ生きて会えたのか?

狂気に満ちた世界にありながら、食うことだけは許されていたからです。だから生きていられた。

その結果、少年は奇跡的に親と会えたのです。

しかし、少年の目には、もはや子どもが持ちうる輝きはありません。

少年と同じ境遇にあり、のたれ死んでいた子どもたちだって大勢いたはずです。たぶん、彼は、異端の鳥だったから、逆に生き延びることができたのでしょう。でも、たぶん異端の鳥だったから、心を無くしたのだ、とも思います。

映画『異端の鳥』は、戦時下の大人の世界は醜いんだよ、とか、戦争が全てを奪うんだ、なんてありきたりのメッセージを連呼したりしません。

この映画の凄さは、少年の目の前に現れる無慈悲な大人たちや残酷な村社会、そして戦争という化け物の〝無垢への無関心さ”を、無垢な少年の目を通して淡々と描くところにあります。

監督の持つ目線=大人が作った社会への冷徹ななまなざしがすみずみまで行き届いている映画だと感じました。

この映画はどこまでも大人の膿を見せつける脚本でした。そんな世界の中をさまよう少年を演じ切った俳優の心は、どれほど辛かったでしょうか?

もちろん撮影にあたって、子役には心のケアアドバイザーがついたに違いありません。しかし、それでも、映画で描かれてきた大人社会のあまりのえげつなさに、少年を演じた彼のこころが、とても心配になりました。そんなことを思わせるほど、映画が突きつける大人の社会はえげつなかった…ということです。

戦場のシーンはほとんど出てきません。

しかし、観終わってもなお、しばらく心を掻き乱す戦争映画には久しぶりに出会いました。

嬉しかったのは、キャストの中に、有名どころの俳優が出ていること。こういうクセモノ映画に、知っている俳優が出ているとメチャクチャ嬉しくなるのはなぜなんでしょうね??

ドイツ軍兵卒役のステラン・スカルスガルドが敵兵ながら、少年と微妙に絡み、いいところを持っていきます。その絡みのシーンは、少年とステラン演じるドイツ兵の間にはセリフが一言もないんですね。それでも成立してしまっている。演技とはこういうものだ、と、見せつけられた気がしました。

また、少年の面倒を見るソ連軍狙撃手役がバリー・ペッパーというところもニヤリです。『プライベート・ライアン』のアメリカ陸軍の名狙撃手役がいまだにリアルに思い出されますが、今回も狙撃手。今回も渋みを増してのスナイパー続投。哀愁たたえたソリッドな表情がたまらないですね。

そして、聖職者役にハーベイ・カイテルです。悪役やクセもの役で名を馳せてるハーベイおじさんが、聖職者!です。クセもの聖職者ではなく、見事に聖職者でした。やられました。完敗です。



画家の目で見る『異端の鳥』

絵描き目線

『異端の鳥』は、全編モノクロですが、とにかく美しい、のひと言につきます。内容が酷なだけに、その美しさが悲しさを呼びます。

特に農地の真ん中に立つ叔母の農家の佇まいなんて、ずるいほど絵になっています。

他のシーンも同様です。ワンカットワンカット、丁寧に撮られている、カメラマンが監督の意図を汲んで撮っている映画だと思います。

演出見どころ

全編これ演出の手帖と言いたくなるほど素晴らしいのですが、なんといっても見どころは「鳥の群れが一羽の色を塗られた小鳥をなぶるシーン」でしょう。

『異端の鳥』の原題はa painting birdです。もちろんa painting birdとは放浪する少年のことを指しています。

筆で色(モノクロだから何色かはわからない)を塗られた一羽の鳥が空に舞い上がりますが、鳥の群れに混じろうとしますがなぶり殺されてしまいます。

このシーンが映画の全てを表現しているように思えます。考える角度によって様々な考察をくれる名シーンだと思います。



構図の妙

そして見どころの一つは、考え抜かれた構図でしょう。

ただ「クールだ」とか「決まってる」んではありません。

観客の心を次へ、先へと向けることを計算した構図なのです。

基本的に静かです。パンしたり、引いたり、迫ったりなのですが、ぼくの目は常に、その構図の「先」に、ズィーっと引っ張られていました。

モノトーンのチカラ

モノトーンは、カラートーンと違って、情報量が少なくなります。モノクロデータがカラーデータに比べてデータ量が軽いことからもわかりますね。

少ない情報量を補うのはなんでしょうか?それは、見る人の想像力なのですね。

例えば、ベージュの壁も、黄色い壁も、桃色の壁も、モノトーンの場合、ほぼ薄いグレーとなります。

『異端の鳥』で壁が出てきた時、特に何色をかは考えずに観ていると思います。でも誰しもが、脳内では無意識のうちに「何色か?」を考えて置き換えていると思います。

その脳内カラー化のモトのソースとなっているものはなんでしょうか?

それぞれ映画を観る人の過去体験です。

モノクロ映画の面白さの一つはそこにあると思っています。

カラー映画以上に、観る人それぞれの選択肢が広がるのがモノクロ映画の魅力だ。ぼくはいつもモノトーンの映画を見るたびにそう思っています。

ネタバレになりますが、ラストは安穏とした田園風景に伸びる曲がりくねった道を、少年と父親を乗せたバスが走ってゆくシーンで終わります。

そのシーンももちろんモノクロなのですが、ぼくがそのラストシーンを思い出すと、なぜかカラーで思い浮かぶのです。

それは、なぜなのか?

バスに乗った少年が、ようやく父親と再会する。そこには一見救いがあるように見えるけれど、少年の目に安堵感はありません。

多分それは、ドラマの中で最も非現実感を感じ「浮いていた」からでしょう。

浮いていたから、脳内が勝手にモノクロの絵柄に塗り絵をしていた。

本能的に、「悪い夢だったんだ」と、夢から醒めて現実の世界に舞い戻り、別の物語にしてしまう。そのことで、ぼくの心は辛さから逃れようとしていたように思えるのです。




『異端の鳥』に心震えた方へのオススメ作品

『異端の鳥』にアンテナが立った方に、以下に当サイトでレビューしているオススメ作品を三本選んでみました。

『アウシュヴィッツのチャンピオン』 第二次世界大戦のアウシュヴィッツでボクシングを強要されたボクサーの物語。勝者と敗者が生まれるスポーツを通し、戦争の理不尽さを描き出しています。実話です。

『コット 始まりの夏』 戦争ものではありませんが、大人とは異質な子どもの目線を大切にした映画。舞台はアイルランド。セリフは全編、アイルランドの母国語であるゲール語。

『ベルファスト』子どもの目線で描くアイルランド紛争と家族の肖像。モノクロの美しさは必見。俳優でもあるケネス・ブラナーの自伝的作品。監督も彼自身。実話です。




作品データ

2019年制作 チェコウクライナ合作

監督

ヴァーツラフ・マルホウル英語版

脚本

ヴァーツラフ・マルホウル

原作

イェジー・コシンスキ

製作

ヴァーツラフ・マルホウル

撮影

ウラジミール・スムットニー

 

出演者

ペトル・コトラール

ステラン・スカルスガルド

ハーヴェイ・カイテル

ジュリアン・サンズ

バリー・ペッパー



配信先

ABEMA、Amazon Prime Video、U-NEXT、TSUTAYA DISCASなどで視聴可能

『異端の鳥』ぼくの評価

『異端の鳥』はオススメかどうか?

『異端の鳥』は万人向けか?と聞かれたら、答えはNoです。クセが強すぎますし、救いらしい救いもありません。さらにはユーモアのかけらもありません。そもそも”異端”というワードで、そこそこ観る人は篩(ふるい)にかけられると思いますが。

でも、でも、戦争と子どもを考える。目の前の我が子を見つめ直す。大人の在り方=自分自身を問う(恥ずかしくなるけど)。…様々な視点で考察がもらえる映画なので、「ちょっとみてみようか、、、」と少しでもアンテナがたった方、モノクロ映画が嫌でない方には、ぜひ、オススメです。

もっとも子どもに見せるのはオススメできません。理由ば、暴力と虐待シーンが容赦ないこと、性的なシーンが結構リアルに描かれますから。

星評価

様々な暴力や虐待を受けつつも流れるように旅し生きてゆく男の子の姿にたくさんの考察をもらえました。また、今、どこか紛争地で同じような境遇にある大勢の子どもたちのイメージがエンドロールにオーバーラップするように立ち上がってきました。

この映画は観る人それぞれに評価がバラけると思います。

ぼくの評価は、堂々星4つ半🌟🌟🌟🌟✨です。

考えさせられる映画を、ありがとうございました。


コメント

タイトルとURLをコピーしました