『ロストケア』考察|ネタバレあらすじ感想・評価まで〜介護と絆のもつ呪縛

シリアス・問題提起

【ネタバレあり】映画『ロストケア』感想と考察|介護のリアルと“喪失”に向き合う静かな衝撃作

こんにちは、映画フリークでイラストレーターのタクです。
2023年、日本の平均寿命は男性81.09年、女性87.14年。私たちは今まさに「超高齢化社会」の渦中にいます。

そんな現実に鋭く切り込むのが、今回取り上げる映画『ロストケア』。主演は松山ケンイチさんと長澤まさみさん。原作は葉真中顕の同名小説です。

ぼく自身も、両親が平均寿命を超え、介護がリアルな課題に。そんな背景から、本作が突きつけてくる“問い”を、個人的視点も交えて深掘りしていきます。

映画『ロストケア』とは?あらすじと基本情報

物語の舞台は、どこにでもある町。介護士・斯波宗典(松山ケンイチ)が起こした連続殺人事件を、検察官・大友秀美(長澤まさみ)が追求するというストーリーです。

斯波は42人の高齢者を殺害したと自供。その動機は「介護で追い詰められた家族を救うため」――。
彼の行為は、果たして“殺人”なのか、“救済”なのか。

※詳細なあらすじとラストは、【ネタバレ】章で紹介しています。

「ロストケア」という言葉の深層|タイトルが示すもう一つの意味

作中で繰り返される「ロストケア」という言葉。直訳すれば“喪失の介護”ですが、ぼくはそこに「崩壊からの救済」という裏の意味を感じました。

  • 認知症によって人間性を失う高齢者

  • その介護に疲れ果て、心が壊れる家族

斯波はこの2つの“喪失”に対し、死という手段で“救済”を与えたのではないか――。
そんな問いを投げかける、静かで重い作品です。

『ロストケア』あらすじ

あらすじ前半はウィキペディアから転載します。

ケアセンター八賀の職員、斯波宗典は若くして白髪だらけな風貌ながらとても献身的な介護士。親切な仕事でセンターの利用者からも好感を持たれ、新人や同センターの同僚、センター長からも信頼される好人物だった。

ある日、利用者の自宅でその父親とセンター長である団元晴が亡くなっているのが発見される。借金があり金にだらしなかった彼は事務所にある利用者の合鍵を持っており、窃盗目的で犯行に及び、その最中に足を滑らせて階段から落ちての事故死である可能性が濃厚な線だった。しかし屋内に落ちていた注射器の存在だけが不明の中、犯行近くの防犯カメラ映像から斯波がアリバイの証言と異なる行動をとっていたことが判明する。彼を取り調べると、利用者が心配で利用者宅へ赴いた所、団と鉢合わせとなり、口論の末にもみ合い、階段から転落死させてしまったことを語る。 正当防衛を主張する斯波宅の家宅捜索を行い、3年間分の介護ノートを見つける。それとは別にケアセンター八賀での利用者の死亡件数が県内平均よりも多いことがわかり、介護ノートと合わせて調査を行うと、斯波の休日に亡くなることが多いことと、別の利用者宅から盗聴器を見つけたことから彼を追及すると、斯波は殺人を認めた。その理由は、介護している家族のためであると語った。

取り調べの担当検事である大友秀美に、斯波は42人の老人を殺害したと自供する…。

 


【完全ネタバレ】映画『ロストケア』結末と伏線の回収

ここからは完全ネタバレです。未視聴の方はご注意ください。

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42人を殺したと自供する斯波。しかし上がっている数は41人。

大友は42人目が誰なのかをいぶかる。

42人目の被害者は、斯波自身の父親だった。

斯波は認知症の父親の介護のために職を辞めたが、生活保護も断られ、貧困の果てに父親をニコチン注射で殺していた。

それが、斯波のロストケアの始まりだった。

記録として残された家族の証言を得る大友。

被害者遺族から発せられたのは、斯波の行為への安堵と肯定の言葉だった。

その言葉に、検察官としての大友の心は大きく乱される。

死刑判決の下った刑務所の斯波のもとを検事の大友が訪れる。

「今更なぜぼくのところに来たのか」と問う斯波に、大友は「自分も父を殺していた」と打ち明ける。

彼女の両親は離婚していた。

縁遠くなった父から頻繁に連絡が入っていたのだが、彼女はそれを無視していたのだ。

結果、父は孤独死。斯波との対話を経て、大友はようやく父に詫びる気持ちを持てたと話す。

斯波の脳裏には、父が彼に残していた折り鶴に書かれた感謝の言葉がオーバーラップしていた。

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エンドロール

ドラマのキーワードに使われる小物に斯波がよく折っていた「折り鶴」があります。それは父親が息子に託した命のようにも思える、伏線の回収でした。


感想と考察|映画『ロストケア』が観るたびに印象を変える理由

正直に言えば、初見では戸惑いがありました。
この映画、映画というより“舞台劇”のようなんです。

斯波と大友の対話は、観客に向けて何かをぶつけてくるような緊張感。観るたびに印象が変わるのは、この作品が「演劇的構造」に寄っているからだと、3回目でようやく腑に落ちました。

何度も観ることで深みが増す映画、そう多くはありません。


映画『ロストケア』が描く“介護のリアル”と社会的メッセージ

「8日に1度、親族による介護殺人が起きている」――。
斯波の言葉に、ぼくは現実を突きつけられた気がしました。

この映画が訴えるのは、「これは他人事ではない」という現実。
介護と向き合ったことのある人、これから直面するすべての人にとって、心を揺さぶられる作品です。


刺さるセリフ|「安全地帯から言うなよ」が突きつけるもの

斯波が大友に投げかける、「安全地帯にいるあなたには、現場の悲惨さはわからない」というセリフ。

これは、観ているぼくらにも向けられた言葉です。
「本当の地獄を知らないお前に、何がわかる?」と突きつけられているようでした。

この言葉が、大友自身の心を揺さぶり、彼女を変えていく。
そのプロセスが、この映画のもう一つの核心です。


介護の“その後”を描く視点|笑顔の母子が示す可能性

印象的だったのが、終盤に登場する母子の笑顔。
それは『ロストケア』の中で唯一、希望の光が差し込む瞬間です。

でもそれは、ただの“救い”ではありません。
「あなたならどうする?」という問いの先にある、自分自身の“もしも”を見せられているような感覚があるのです。


「絆」という言葉の裏側|呪いにもなる“美談”の影

2011年以降、美しく語られることの多い「絆」という言葉。
でも『ロストケア』は、それが時に人を縛り、壊すものになる現実を描いています。

親だから、子だから、家族だから――その重さが人を追い詰める現実に、静かに切り込む。
この視点は、今だからこそ必要な問いだと感じました。

『ロストケア』トレイラー

『ロストケア』配信先は?

以下のサービスで配信レンタルされています。(2025年2月現在)

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