映画『大脱走』レビュー
マーチとバイク、ポピーと折れない男たち
こんにちは。映画好き絵描きのタクです。今回取り上げる映画は、『大脱走』(原題: The Great Escape)。大胆不敵なドイツ軍捕虜収容所からの集団脱走を描いた映画です。(1963年公開・アメリカ映画)
『大脱走』マーチは、誰もが知る名曲ですし、スティーブ・マックィーンのスタントなしバイクシーンは名シーンとして映画史に刻まれています。
監督は『荒野の七人』のジョン・スタージェス。出演はスティーブ・マックイーン、ジェームズ・ガーナー、リチャード・アッテンボロー、チャールズ・ブロンソン、ドナルド・プレザンス、ジェームズ・コバーン 、デヴィッド・マッカラム……と往年の名俳優が並んでいます。
『大脱走』は戦争映画にジャンルわけされますが、実は戦場での戦闘シーンが一切ありません。それでも時代を超えて映画史に名を残し今も観つづけられている理由と魅力はなんなのか?を探ってみたいと思います。
『大脱走』解説
『大脱走』はどんな映画?
ドイツ国内にあった捕虜となった連合国空軍兵士を収容する捕虜収容所での「トンネル脱走作戦」が描かれた映画です。
第二次世界大戦のアフリカ戦線で、一機のイギリス空軍機が撃墜されました。パラシュートで脱出しドイツ軍捕虜となったパイロットは、ポール・ブリックヒル。彼が『大脱走』の原作者です。
ポール・ブリックヒルは戦後、捕虜収容所での実体験を本に書きました。
その本=『The Great Escape』=の魅力に惚れ込んだジョン・スタージェス監督が製作に名乗りを上げて世に送り出した映画が『大脱走』です。
『大脱走』は実話なの?
『大脱走』は実話が元になっています。映画の冒頭でもそのクレジットが流れ、ラストカットでもその旨の字幕がインサートされます。
しかし、映画はあくまで映画、事実に基づいて脚色さtれていますので、いわゆる「ドキュメンタリー」ではありません。
娯楽エンターティメントとして脚色されていると考えて良いでしょう。
『大脱走』スタッフ・配役キャスト(軍属・キャラつき)
スタッフ
| 監督 | ジョン・スタージェス | 群像劇と娯楽性を両立させた職人監督。 |
| 原作 | ポール・ブリックヒル | 実体験に基づくノンフィクション。 |
| 音楽 | エルマー・バーンスタイン | 名スコア・誰もが知る大脱走マーチを作曲 |
登場人物・キャスト(配役/軍分類/キャラクター解説)
| 登場人物 | 俳優名 |
軍属 |
キャラクター解説 |
| ヒルツ大尉 | スティーブ・マックイーン | アメリカ空軍 | 一匹狼的存在。常習脱走兵。独房生活にも屈しない反骨精神の塊。 |
| バートレット大佐 | リチャード・アッテンボロー | 英国空軍 | 英国将校団のリーダー格。「ビッグX」として大規模脱走計画を指揮する冷静沈着な戦略家。 |
| ラムゼイ大佐 | ジェームズ・ドナルド | 英国空軍 | 連合軍側の代表トップ。片足が悪く杖をついている。 |
| マクドナルド大尉 | ゴードン・ジャクソン | 英国空軍 | 情報通。ロジャーの参謀格。収容所内のあらゆる情報を収集、脱走メンバーに伝達。語学堪能。 |
| ヘンドリー大尉 | ジェームズ・ガーナー | アメリカ空軍 |
英語とドイツ語を操る「調達屋」。なんでもくすねる。物資・情報の入手を一手に担う現実主義者。 |
| セジウィック大尉 | ジェームズ・コバーン | 英国空軍 | 製造担当。オーストラリア人。トンネル掘削用のツルハシから送風機まで、所内のあらゆる物を流用して道具を作り上げる。 |
| ダニー | チャールズ・ブロンソン | アメリカ空軍(ポーランド軍) | トンネル掘削担当。閉所恐怖症を抱えながらも仲間のために黙々と掘り進める不器用な優しさを持つ。 |
| アシュリー=ピット大尉 | デヴィッド・マッカラム |
英国空軍 |
知的で誠実な将校。脱走準備の中で仲間を思いやる良心的存在。 |
| コリン・ブライス大尉 | ドナルド・プレザンス | 英国空軍 | 身分証偽造担当。航空写真解析のプロ。バードウォッチングが趣味。ミルクティーを愛する。 |
| ウィリー | ジョン・レイトン | 英国空軍 | 「トンネル王」。階級は大尉。ダニーと共に行動する。トンネル掘削担当。誠実。仲間想い |
| フォン・ルーゲル大佐 | ハンネス・メッセマー | ドイツ空軍 | 捕虜収容所所長。捕虜を尊重しつつも脱走には容赦しない。しかし空を知る者同士の共感も持っている。 |
『大脱走』あらすじ(前半・中盤まで/脱走計画)
第二次世界大戦下のドイツ。
脱走常習犯を集めた新設捕虜収容所に、英空軍を中心とする連合軍捕虜が移送されてくる。
所長フォン・ルーゲルは「ここからの脱走は不可能だ」と豪語するが、先任将校ラムゼイ大佐は「脱走は将兵の義務だ」と真っ向から反論する。
捕虜たちはいずれも脱走歴数回から数十回という猛者ばかりで、彼らは到着早々から脱走を試みるが、厳重な監視に阻まれる。
アメリカ兵ヒルツ大尉は大胆不敵な行動で所長の目を引き、早速独房送りとなる。
一方、ゲシュタポに連れられて到着したロジャー・バートレットは、集団脱走計画の伝説的リーダー「ビッグX」だ。彼は夜のうちに早速に仲間を集め、250人規模の大規模脱走計画を打ち明ける。
一人の脱走兵を捉えるためにドイツ軍は一定の兵力をさかねばならなくなる。250人もの兵が脱走すれば、捜索に割かれるドイツ軍の兵力は甚大だ。「脱走は効果的な後方撹乱となる」……バートレットの目論見はそこにあった。
収容所には調達屋、偽造屋、仕立屋、計測屋など各分野のスペシャリストが揃っており、三本のトンネル=コードネーム「トム」「ハリー」「ディック」を掘る計画が動き出す。
厳重な監視の中、彼らは知恵と工夫で作業を進めていくが、一匹狼のヒルツは単独脱走を繰り返して失敗し、仲間のアイブスは精神的に追い詰められていく。
やがて最も進んでいたトンネル「トム」が偶然発見され、計画は危機に陥る。その混乱の中、絶望したアイブスは射殺されてしまう。
ロジャーは残された「ハリー」での脱走決行を決断し、ヒルツは外部情報を得るため、あえて単独脱走を行い、再び捕虜として連れもどされる。
『大脱走』後半・ラストまで/脱走決行〜ネタバレ閲覧注意
ヒルツが独房から戻る頃、トンネル「ハリー」は完成し、脱走決行の日を迎える。
しかし出口は予定していた森に届かず、草地の真ん中に開いていた。
彼らはロープで合図を送り合い、監視の隙を突きながら次々と地上へ脱出していくが、76人目で発覚し、脱走は中断される。それでも76名が収容所を脱出することに成功。
脱走者たちは列車、ボート、自転車、バイクなど様々な手段で散り散りに逃走する。
途中、アシュレー=ピットは仲間を救うため身を挺して命を落とし、多くの脱走者が再逮捕される。ヒルツもバイクを奪い逃走するが、国境越え寸前で、再び捕らえられてしまう。
やがてゲシュタポの管理下に置かれた将校50名が護送中に射殺されたことが明らかになる。
ロジャーを含む多くの仲間が命を奪われ、その名はラムゼイ大佐の口から収容所に読み上げられる。
一方、ダニーとウイリー、セジウィックらわずかな者だけが中立国へ逃れることに成功していた。
捕虜たちが戻る中、収容所所長フォン・ルーゲルは解任。ヒルツも再び収容所へ連行される。ヒルツはまた独房へ向かう。失敗に終わった脱走だった。しかし彼の反骨の火は、その目から消えてはいなかった。エンドロール。
『大脱走』感想〜マーチとバイク、そして折れない男たち
大脱走のテーマ〜マーチの素晴らしさ
大脱走のマーチの作曲者は、エルマー・バーンスタイン。『荒野の七人』の音楽でも知られる映画音楽作曲家です。
その音楽の素晴らしさを書いた、ぼくの別記事がありますので、以下にちょっと改稿引用します。
作曲者エルマー・バーンスタインはどんな人?
エルマー・バーンスタインは1922年生まれ。お父さんがウクライナ人、お母さんがハンガリー人。東ヨーロッパからアメリカに渡ってきた移民です。子供の頃からショービジネスに子役で出たりしていたようですが、音楽が性に合ったようで、ピアノを学び、のちに映画音楽の道に進みます。
(中略)
2002年まで、年に一本〜二本の映画の音楽をコンスタントに作曲。有名な作品には、『十戒』(1956)、『荒野の七人』(1960)、『レマゲン鉄橋』(1969)、『ゴーストバスターズ』(1984=レイパーカージュニアの曲でヒットしましたが、エルマー・バーンスタインも二曲だけ書いてます)、『レインメイカー』(1997)があります。
『荒野の七人』は誰でもが知っている音楽ではないかと思います。
アカデミー賞音楽賞にノミネートされた回数はなんと14回。(作曲賞・歌曲賞・ミュージカル映画音楽賞)。アカデミーノミネートの常連でした。
1968年、ミュージカル映画、『モダン・ミリー』でアカデミー作曲賞を受賞。
『エデンの彼方に』(2002年 監督:トッド・ヘインズ キャスト:ジュリアン・ムーア、デニス・クエイド)の作曲を最後に、2004年に亡くなりました。
まさに名匠というにふさわしい映画音楽作曲家です。
『大脱走のマーチ』のココがいい!
さて、『大脱走のマーチ』です。超絶有名な曲です。
最初の四小節から次の四小節に移るとき、微妙に音程をずらすところなんて、何度聞いても渋いなあと唸ります。
また、その後に続く小節に、バス(チューバ)によるリズムが続きます。
「ボン、ボン、ボン、ボーンボ♪ボン、ボン、ボン、ボーンボ♪」と、静かにリズムを刻ませるあたりは「きたぞきたぞ」とワクワク感を高めます。バスの使い方が絶妙なんです♩
それに続くメロディは華やか!「この映画はただの戦争脱走映画じゃない、どんな逆境でもユーモアと硬い意志を忘れない男たちのドラマなんだ」という映画のメインテーマを体現しています。
では、オリジナルサウンドトラック版の『大脱走マーチ』聞いてみたい方はこちらをどうぞ↓
エルマー・バーンスタイン先生自ら指揮する「大脱走マーチ」
『大脱走マーチ』は国内外問わず多くの吹奏楽団が演奏していますが、驚きのクリップを見つけました!
それは、エルマー・バーンスタイン先生自らが指揮棒を振っている、オーケストラ版の『大脱走マーチ』です♫
指揮するエルマー・バーンスタイン先生、何とも優しそうなおじいさんではありませんか!
そして、自らの曲を指揮する姿の、なんと嬉しそうなこと!
バイオリン奏者が「口笛」を吹き入れるあたり、ニヤッとしてしまいました。
素敵な登場人物相関図
多彩な登場人物がそれぞれ際立っています。登場人物のキャラの立ち方が、良いのです。
1・一匹狼の米軍パイロットの主人公ヒルツ。11のアイブス中尉とは凹凸コンビ。
2・作戦組み立てと組織づくりに突っ走る、ミスターX。3のマクドナルド大尉とは相棒。
3・常に周りに気を配るまとめ役のマクドナルド大尉。2のミスターXを支える、トンネル脱走作戦の参謀的存在。
4・頭の回転の速い調達屋で、ユーモアでまとめるヘンドリー大尉。5のブライス大尉が病気が発覚するがどこまでも支える。
5・バードウォッチングと紅茶を愛する、どこまでも英国紳士な、ブライス大尉。4のヘンドリー大尉とコンビを組んで逃げる。
6・常にクールなセジウィック大尉。単身逃亡する。
7・力仕事は任せておけという屈強なダニー大尉。8のウィリー大尉とコンビを組んでトンネル掘りを主導。
8・トンネル掘削王、友達思いのウィリー大尉。7のダニー大尉が閉所恐怖症を発症するがどこまでも支えて逃亡する。
9・心根の優しい、皆に気を配るピット大尉。2のミスターXと3のマクドナルド大尉を助けるため、自分に敵の目を引きつける
3・常に周りに気を配るまとめ役のマクドナルド大尉。
10・測量を担当するカベンディッシュ大尉。
11・心根が繊細で1のヒルツ大尉とは凹凸コンビ的なアイブス中尉。
12・仕立てなら任せろとありとあらゆる布地から偽装の服を仕立てるグリフィス。
13・陰ながら盾になる連合軍側代表のラムゼイ大佐。
14・敵国ドイツ空軍大佐の収容所長のフォン・ルーゲル大佐。敵同士だがヒコーキ乗りの気持ちを汲んでいる。
ざっとあげただけで14人。もちろんもっとキャラ立ちが素晴らしい登場人物が他にもいます。
そうですね……料理に例えるならば、たくさんのスパイスを入れて煮込み、絶妙に出来上がった料理が『大脱走』といった感じでしょうか。
登場人物それぞれが、おもわずニヤリとしてしまうような「粋な」セリフを交わしながら、物語を進めていくのです。
キャラそれぞれの立ち方を楽しめますし、その彼らの交わすセリフの「粋」さもこの映画の魅力のひとつでしょう。
あなたは『大脱走』の誰に肩入れするでしょうか?
3時間を感じさせない密度!
『大脱走』のすごさは、3時間という長い時間が中だるみなしで一気にクライマックスまで持っていく脚本にあります。
捕虜収容所から、捕虜たちが地下トンネルを掘って脱走する…というシンプルな物語のなかで次々立ち塞がる難関。それらをどうやって皆でクリアしていくか?という、まるでゲームのような楽しさがあるのです。
・前半はトンネルをどうやってドイツ軍側にバレずに掘るのか?
・後半は脱走した後のドイツ軍の追手からいかにして逃げるのか?
緩急自在とはこの映画のためにあるような言葉です。
ハラハラさせつつ、笑わせて、ところどころで息を抜き、クライマックスに至っては、いくつもの逃亡劇を一本にまとめ上げる……。ヘタするとチグハグになってもおかしくないところをしゃきっとまとめる演出と編集はまさに職人技です。
監督ジョン・スタージェスのノリに乗った演出が光っています。
どこまでも折れない男たち
映画が始まり、次々にメインとなる登場人物たちが紹介されますが、とにかく彼らの過去の脱走回数が数回から数十回までと半端ありません。
冒頭近く、「ドイツ軍の広報撹乱が捕虜となった兵士の義務だ」というセリフがあります。
『大脱走』は、その義務を重ねてきた….脱走を重ねては捕まってきた兵たちのドラマなんです。
実話ですから、その脱走繰り返しては連れ戻されるの連続を想像してみると、彼らの心の芯が、以下に強かったかがわかります。
その強さは、ナチスドイツに対して「あくまで自由のために戦っているのだ」という旗印があるからこそなのでしょう。
どこまでも折れない登場人物の姿は、今生きるぼくらに「諦めなければ大丈夫だ。いつかきっと、自由をつかめるはずだ」というメッセージを発しています。
今だからこそマックイーンのバイクアクション必見
映画の後半、脱走後の逃亡劇は、いくつものハラハラが並行で進みます。
逃亡劇って、1人のケースでさえ面白いのに、それが6本の逃亡劇が同時進行するんです。
エスケープ系映画は数あれど、『大脱走』ほど逃亡の大盤振る舞いを見せられる映画は見たことがありません。観ている方の緊張ハラハラ度も考えてほしい…と言いたくなるくらいです。
中でも伝説的な逃亡劇は、やはりスティーブ・マックイーンがバイク軍用BMW(ツェンダップか?)を駆り、ドイツ軍が彼を追うシーンでしょう。

ちなみにそのシーンはマックイーンがスタント吹き替えなしでバイクを操っています。それも、アップダウン激しい丘陵地です。バックにドイツの村が見えていますので、現地ロケです。
観るとわかりますが、マックイーンが取り回すのはイマドキのオフロードバイクじゃなく、重量級の軍用バイクです。
それでバイクをバリバリに走らせます。その姿はじゃじゃ馬を手なづけ手綱を握るカウボーイのようでさえあります。
マックイーンがスピード狂だったことは有名ですが、「スタンド無しでいいよ。オレ、バイクうまいよ」と言ったかどうかはわかりませんが、グリーンバック主流の合成VFXが主流となった今の撮影現場では考えられない撮影だと思います。(あ、決してVFXを否定するものではありません。グリーンバックVFXは俳優の命に関わる問題がクリアできているわけですから)
バイクの重量感がすごいです。ぜひホンモノの俳優によるホンモノバイクスタントを楽しんでほしいです。
ちなみに、有名なジャンプシーンは、保険上の理由でマックイーン本人ではなく、スタントマンのバド・イーキンスが担当しています。
撮影にはどんなバイクが使われた?
撮影でマックイーンが乗り回したドイツ軍のバイクは、実はイギリス製のトライアンフ TR6 トロフィー(Triumph TR6 Trophy)です。
主な特徴とエピソードを以下にまとめておきます。
車種&仕様
モデル: 1961年〜1962年型のトライアンフ TR6。
排気量: 649cc(空冷並列2気筒エンジン)。
映画の設定=ドイツ軍のBMW R75に似せるため、ジャーマングレーで塗装され、シングルシートやキャリアが追加されたようです。大戦当時のドイツ軍バイク(BMWやツェンダップ)は重量がありすぎて映画スタントには不向きだったため、トライアンフが選ばれました。
劇中使用の実車は、イギリス・ヒンクリーにあるトライアンフ・ファクトリー・ビジター・エクスペリエンスに展示されています。
逃げ切ったのは誰?
さて、ここでネット上でよく話題となっている「逃げ切ったのは誰?」について、答えを書いておきます。もちろんネタバレなので、映画を見たい方は絶対にスルーしてください。
収容所から脱走した人数は79名ですが、最終的に逃げ切ったのは、以下の2組=3名のみです。
大きなカバンを持って逃げたセジウィック大尉(演:ジェームス・コバーン)は、レジスタンスの協力を得て国境を超えて逃げ切ります。
トンネル掘削の主要メンバー・ダニー(演:チャールズ・ブロンソン)と「トンネル王」・ウィリー(演:ジョン・レイトン)はボートで川を河口まで下って貨物船に潜り込み、脱出を果たしました。
大脱走マーチをバックに咲き乱れるポピーの意味
大脱走とポピーの花言葉
誰もが知っている「大脱走マーチ」に合わせてはじまるオープニングは、これからはじまるドラマを嫌が応にも高めますが、そのオープニングでぜひ目に留めてもらいたい、ある”もの”があります。
それは、路傍に咲き乱れるポピー=ひなげしの花です。
「脱走映画なのに、なんで花なんか気にかけるの?」と思うかもしれません。
兵員輸送トラックが列をなして走っていく、その手前で風に揺れるポピーの映し方が、とても意味深なのです。
だって、ミュージカルならいざ知らず、戦争映画に”お花”ですよ。
これは、監督ジョン・スタージェスがそのポピーに何らかの意味づけをしたに違いない…と思って調べてみました。
ネット検索では、そんな大脱走とポピーの関係を解説している記事は見当たりませんでしたが、なら、ポピーの花言葉は?と調べたところ、花言葉は「思いやり」「いたわり」「陽気で優しい」とわかりました。
「やっぱりそうか……」
ぼくは、『大脱走』を観て、最も強く刻まれたのは、「相手を思いやる気持ち」「弱いものをいたわる優しさ」「陽気な反骨」でもあったのです。
このポピーの花言葉「思いやり」「いたわり」「陽気で優しい」をキーワードに『大脱走』を観ると、第二次世界大戦のドイツ軍捕虜収容所での実話ドラマがさらに深く楽しめるのではないしょうか。
「いたわり」と「優しさ」、「思いやり」と「ユーモア」がマーチとともに流れているのが『大脱走』だとぼくは思っています。
ポピーに隠されたもう一つの意味
実は、このポピーには、もうひとつ大きな意味があります。
イギリスや英連邦諸国では、ポピーは第一次世界大戦の戦没者を追悼する象徴の花です。
毎年11月、「リメンバランス・デー」が近づくと、人々は胸に赤いポピーの造花をつけ、戦争で命を落とした人々を静かに想います。いわゆる「ポピー・アピール」と呼ばれる習慣です。
この風習の原点は、遠く、第一次世界大戦のフランドル地方での激戦地です。
砲撃で荒れ果てた大地に、真っ赤なポピーが一面に咲いたという記録と、カナダ軍軍医ジョン・マクレーによる詩「In Flanders Fields」に由来しています。
そう考えると、『大脱走』冒頭、兵員輸送トラックが走り去る手前で、風に揺れるポピーが映されるあの一瞬は、単なる風景描写とは思えなくなります。
それは、
「これから描かれる脱走劇は、実在した人々の犠牲の上に成り立っている」
という、監督ジョン・スタージェスからの無言のメッセージではなかったか──
ぼくにはそう思えてならないのです。
最後にカナダ軍軍医ジョン・マクレーによる詩「In Flanders Fields」の日本語訳を紹介して終わりにしたいと思います。
「フランドルの野にて(In Flanders Fields)」日本語訳・全文
フランドルの野にて
フランドルの野に ポピーは揺れる
十字架から十字架へと 果てしなく
その下に 我らは眠る
空には 雲雀がなおも勇ましく歌い
だが砲声にかき消され
その声は もはや聞こえない
我らは死者
つい先日まで生き
朝を迎え 夕べを愛し
そして今
フランドルの野に横たわる
我らの争いを 敵へと受け継げ
衰えゆく我らの手から
汝らへと この松明を投げ渡す
高く掲げ 走り続けよ
もし 我らが死んだのに
汝らが誠を失うなら
フランドルの野に咲くポピーは
再び 眠ることはないだろう
ジョン・マクレー

『大脱走』評価は?
僕の評価は星五つ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️(五つ星満点)です。
いい映画をありがとうございました。
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