『しあわせの絵の具』ネタバレあらすじ・感想・評価まで〜画家が読み解く実話映画の魅力

ヒューマン・ハートフル

『しあわせの絵の具 愛を描く人モード・ルイス』星四つ半⭐️⭐️⭐️⭐️✨
画家が読み解く実話映画の魅力

こんにちは!映画好き絵描きのタクです。

今回取り上げる映画は『しあわせの絵の具 愛を描く人モード・ルイス』。原題:Maudie=実話映画です。2018年日本公開のアイルランド・カナダ合作。上映時間は116分・2時間弱です。

ぼくは、モード・ルイスという画家を映画の予告編を見るまで知りませんでした。

カナダの画家で、ニクソン大統領まで顧客だったといいますから、たぶんカナダはもとよりアメリカあたりでもメジャーな画家なんだろうと思います。

大統領が顧客というのは、日本で言うなら、「皇室御用達クラス」ですよね。しかし、モードの人生は孤独と病と闘いながらのつましいものでした。そんな境遇にありながらも温かい絵を描き続けたモード・ルイス。そんな女流画家の半生を描いた、『しあわせの絵の具』を、絵描き目線アリ&ネタバレアリでレビューしてみます。


『しあわせの絵の具 愛を描く人モード・ルイス』あらすじは?

舞台はカナダの小さな漁村。

絵を描くことが好きなモード・ルイスは、叔母と暮らしています。

モードは、村の雑貨屋の求人広告板で家政婦募集のメモを見つけます。メモの主は魚の行商人=エベレット。叔母の元から離れたいモードは、独り立ちするためエベレットの家に向かい家政婦の職を得ます。

リウマチが持病の、村社会で上手く生きる術を知らないモード・ルイスと、孤児院育ちの、無骨で無口なエベレット。小さな掘建て小屋のような家で、二人の同居の日々が始まります。

衝突ばかりの二人ですが、やがて二人は結婚。 

家事の合間を見て、モードはわずかな画材でひたすらに絵を描きます。もちろんモードは絵など習ったことはありません。アトリエは窓際に置かれた小さなテーブルの上です。

しかし、そんな彼女に一つの転機が訪れます。

バカンスシーズンだけ都会から村にやってくる一人の女性がモードの絵に才能を認め、モードに絵の制作を依頼したのです。

水を得た魚のように筆を動かし、オーダーに応えるモード・ルイス。

彼女は小さな家の前に「絵を売っています」の看板を出すようになり、いつしか彼女の絵の評判が広がりそしてある日、アメリカ大統領から絵の依頼が舞い込みます……。

というストーリーです、ちなみに実話です。




『しあわせの絵の具  愛を描く人モード・ルイス』ネタバレあり感想レビュー

輝きと暗さは表裏一体

あらすじでも書きましたが、モード・ルイスは重度のリウマチなんです。歩くことさえ大変なほど。それは辛そうです。でも、観終わってこう思いました。

「一人の人物の一生」を俯瞰した時、ハンディは光り輝くための暗い背景となるんだな、と。

ここからは絵描き目線で話を進めますね。

絵で「光」を描くときに何が必要かというと、暗いバックなんです。

美術の教科書を思い出して見てください。肖像画ってほとんどが暗い背景です。例えばこれはレンブラントの肖像画ですけど、バックは暗いですよね。これは顔を浮き立たせるためでもあるんです。

光はダークがあってこそ輝くんです。

モードルイスの絵、そして人生が、素晴らしく輝いてぼくらの元に届くのは、ハンディという暗い背景があってこそなのだと思います。

そのハンディを負ったモードの姿が、全編に崇高なトーンをもたらしていました。

かつて見たことがない愛の物語

この映画の愛の形は、かつてどんな映画にも見たことがないかたちです。

イーサン・ホーク演じる夫エベレットの、なんとぶっきらぼうで愛想のないこと。エベレットほど性格のつっけんどんな夫って他の映画に見たことがありません。

しかし、サリー・ホーキンズ演ずる柔らかな性格のモードと、ぶっきらぼうの極みの夫=エベレットに扮するイーサン・ホークが、それぞれ真逆な個性を際立たせていることも、この映画を輝かせているを輝かせている理由の一つだとぼくは思います。

孤児院育ちで、とことん人付き合いが苦手なエベレット。彼はどこまでも無愛想です。よくあるホームドラマならどこかに「人の良さ」を忍ばせたりするものですが、それすらほぼ、ない。

しかし、彼の存在こそが、社会からつまはじきにされている孤独な二人を際立たせており。結果、次第に物語を温かい空気でつつんでいきます。

では、なぜ、温かい気持ちで見終えることができたのでしょう?

それは、イーサン・ホークの一見ぶっきらぼうにみえて、しかし内には愛情を抱いている見事な演技があったからなんじゃないか…そう感じました。




モード・ルイスの画材はなんでしょう?

モードの持っている画材は、一掴みの使い古した筆と、たぶんそこいらで売っているペンキ、そしてパレットがわりの空き缶です。

ぼくの仕事も描くことですが、仕事場に転がっている画材は、プロ用の絵の具や筆、パソコンにはペイントアプリが一通り装備、そんな環境です。

しかし、この映画でモードが手にする道具を見て、バットで殴られたような衝撃と感動がありました。さらに言えば、恥ずかしくなりました。

時代が違うと言えばそれまでかもしれませんが、そうではない。

「表現に大切なのは道具ではなく、あくまで感じ、慈しむ心であるんだよ」と映画の行間がずーっとぼくに語り続けていました。

画家業をしている方や、描くことが趣味の方なら、『しあわせの絵の具』は必見だと思います。




『しあわせの絵の具』に学ぶ絵画の見方

「うまい絵」と「染みる絵」の違い

モードの絵が劇中登場します。それらは花だったり、家畜だったり、日々の家の周りのことや多分彼女の記憶に刻まれたあれこれが描かれた絵です。

それらの絵は、「うまい絵」かと言われると、決して上手い絵ではありません。むしろ、絵画技術の面で上手か下手か?と問われたら、下手な絵です。実際彼女は芸術の専門教育を受けていません。多分、絵画技法のことも、画材のことだって詳しく知らなかったと思います。

モードはただ「描く」ことが好きなだけで絵を描いているんですね。

しかし、ぼくは彼女の絵が心に沁みてきました。いわゆる「上手な絵ではないけど、いい絵=染みる絵」なんです。

よく「絵って、見方がわからない」という言葉を耳にします。ぼくも展覧会によく行きます、有名無名の作家問わず、いつも見るときに大切にしていることは、「絵がぼくに響いてくるか、響かないか」です。どんなにうまい絵でも響いてこなければ残念絵画です。

一方、下手に見えたりよくわからないような絵であっても、響いてきたならそれは「いい絵」です。ぼくは絵の前で足が立ちどまるかどうかが大事だと思っています。

なので、ぼくは絵画展の入り口に貼ってある挨拶文やキャプションは最初に読みません。順番にもみません。まずは会場内の真ん中に立ってぐるっと壁の絵を見回します。それは「どの絵が響いてくるのか。しみてくるのか」のサーチです。それから響いてきた絵と向き合って、じっくり心の対話をします。

そう、別に評論家や美術番組の復習や受け売りなんて必要ないんです。

「見方がわからない」という方は、響くか響かないか=絵の前で自ずと立ち止まるか立ち止まらないか=で絵を見ると面白いと思います。

おっと、話がそれました。モードのことに戻しますね。

モードの日常を彩っていたあれこれへの慈しみ

モードの描いた、一見幼稚にさえ見える絵が何故にあんなにも支持されたのでしょうか?

描くということは、見つけて興味惹かれた対象にとことん意識を注いであげることです。慈しむ心がそこには必要です。絵が上手になればなるほど、普通の人は「もっと上手くなりたい!」と技術の向上を目指します。そして、そう、ついつい「技術のブラッシュアップ」が「描く目的」となり、対象を慈しむ気持ちがないがしろにされがちです。

モードは、下手でした。絵画教育を受ける環境にもありませんでした。絵を習いたい、、、なんて思いもよらなかったと思います。そして、日々、彼女は多分、「上手に描こう」なんて、これっぽっちも思わなかったんだと思います。だからこそ、モードの描く対象に対しての「慈しみの心」は、他の画家のそれを遥かに上回っていた。

彼女の絵が響いてくる理由は、多分、そこです。「慈しみの心」をほかの言葉に置き換えるなら、そう、「愛」です。

彼女の一見下手くそに見える筆致からは、最上級の「愛」がほとばしっているのです。

劇中で女優サリー・ホーキンスの描くシーンには「描く人の愛」が見えていました。絵描きのそんな面まで演じ切る….すばらしい役者さんだと思いました。



何を愛おしく感じるか?

ぼくはよく田舎へ絵を描きに行きます。そうすると、例えば山奥の小村で腰を曲がったお婆さんが庭の花々の手入れしてたりします。誰かにその行為を見せるわけでもなく、名前もわからないような山村で、です。

でも、ぼくは、その姿を抱きしめたくなって、その感覚を絵筆に託したりするんです。

モードが日々小さな家で重ねてたことは、なんてことない、そんな日本の山村で花の手入れするお婆さんたちがやっていることと、なんら変わりないことだ、と、感じました。

モード・ルイスは、そんな目線で彼女の日常を切り取り慈しみ、絵にあらわしていた。だから世界に広がったのでしょう。

『身の回りに散らばっている小さな美しさをいくつ見つけたか。人生にはそれが大切だ』

それが、「切なくも可愛い映画」からぼくが受け取ったメッセージでした。とても好きな映画になりました。ぼくの評価は画家目線もありで、星四つ半⭐️⭐️⭐️⭐️✨です。




『しあわせの絵の具 愛を描く人モード・ルイス』スタッフ・キャスト

監督・脚本/アシュリング・ウォルシュ

キャスト/サリー・ホーキンズ イーサン・ホーク

2016年製作/カナダ・アイルランド合作 原題:Maudie




『しあわせの絵の具 愛を描く人モード・ルイス』受賞歴

四つの映画祭で受賞しています。

第28回シネフェストサドバリー国際映画祭・観客賞 / 第6回モントクレア映画・観客賞 / 第35回バンクーバー国際映画祭・観客賞 / 第12回ウィンザー国際映画祭・観客賞

『しあわせの絵の具 愛を描く人モード・ルイス』配信は?

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