長い旅の果て、ついに故郷イタケへ帰還したオデュッセウス。
しかし王宮には、妻ペネロペとの再婚を狙う男たちが居座っています。
そして始まるのが、弓の名手オデュッセウスと男たちとの戦い。
狭い室内で、一人対多勢。
このアクションがすごかった。
狭い場所での立ち回りって、撮影も編集も難しいと思うんです。
ところが、そんなことを考えていたのも最初だけ。
気がつけば、ぼくは息を止めていました。
途中、敵の一人が二階の床に穴を開ける。
「何やってるんだ?」
と思っていたら、その穴から槍や剣を落として仲間に渡す。
なるほど。
最短兵站だ(笑)。
こんな凄惨な場面で不謹慎だけど、ちょっと可笑しかった。
そして満身創痍になりながら、ようやくペネロペのもとへたどり着くオデュッセウス。
ぼくは心の中で、
「よかったなあ。無事に戻れたなあ……」
と、半分涙になっていました。
一番感動したのは「弓の弦の音」だった
この映画で、ぼくが一番心を動かされたところ。
怪物でもありません。
大海原でもありません。
トロイアの木馬でもありません。
オデュッセウスが弓の弦を指で弾く瞬間です。
ピンと張った弦。
指を離す。
そして、
「ビン……」
と音が響く。
あの一音が、映画のすべてを表していたようにぼくには思えました。
弦は一本の線です。
そして線というものは、二つの世界を分ける「境界」にもなる。
調和と不協和。
人間と神。
生と死。
静と動。
平和と戦争。
安寧と混乱。
この世界には、無数の境界が存在しています。
その境界のどちら側を選ぶのか。
弦を張る人間一人ひとりに選択の自由がある。
しかし、選んだ以上は責任も引き受けなければならない。
「ビン……」
あの一音を思い出すたびに、そんなことが喚起されるんです。
これは画家であるぼくだから、そう聞こえたのかもしれません。
でも、映画を観終わったあと一番長く残ったのは、巨大な映像ではなく、あの小さな音でした。
映画『オデュッセイア』ぼくの評価は?
映像的に美しいシーンが満載でした。
画家として、かなり好きです。
そして「実物」を前に置いて撮るノーラン監督だからこそ生まれた、古代世界の肌触りも素晴らしかった。
一方、ノーラン独特の時間構成は好き嫌いが分かれると思います。
また日本人にとって『オデュッセイア』は、必ずしも身近な古典ではありません。
子どものころからホメロスの物語に触れてきた人と、ほとんど予備知識のない日本人とでは、映画の中に仕掛けられた「隠し球」を拾える量が違うでしょう。
そこはどうしてもあると思います。
それでも、予備知識がなくても、大海原を旅し、戦争を経験し、仲間を失い、それでも家へ帰ろうとする一人の男の物語として十分に力があります。
ぼくの評価は——
★★★★☆ 星4つ。
満点には届かなかった。
でも、あの弓弦の「ビン……」という音は、しばらくぼくの中から消えそうにありません。
