映画『ザリガニの鳴くところ』
ネタバレ考察評価レビュー
〜DOGと神と森羅万象と〜
こんにちは、映画好き絵描きのタクです。
今回レビューする映画は『ザリガニの鳴くところ』。
タイトルから難解な作品を想像して、正直、少し距離を置いていました。
けれど観終わった今、この映画は「静かな法廷ミステリー」であり、「自然と神をめぐる物語」でもあると感じています。
本記事ではネタバレを含めつつ、「DOGとGOD」「自然に善悪はない」という視点から、この映画の核心を考察します。
『ザリガニの鳴くところ』解説
監督・キャストについて
監督はオリビア・ニューマンといいます。短編で才能を開花させた俊英とのこと。
主役カイアを演じたのはデイジー・エドガー=ジョーンズ。カイアが心を開く男性テイト役をテイラー・ジョン・スミス。チェイス役をハリス・ディキンソン。老弁護士役としてデビッド・ストラザーンが脇を固めています。
本作が描く3つの顔(法廷劇/ロマンス/自然哲学)
謎解き法廷モノの面もあります。ボーイミーツガールのほろ苦さもあります。自然の神性まで問いかけます。観客に謎解きを仕掛けながら、家族関係の陰、男女の愛情まで、多分見る人によって見え方がガラッと変わる、そんな映画だと思います。
昨今、「こんな視点の映画、観たことない!」という、アーティスティックな表現の作品もポンポン見かけますが、『ザリガニの鳴くところ』もそんな一本だと思います。
映画『ザリガニの鳴くところ』スタッフ・キャスト
スタッフ
| 名前 | |
|---|---|
| 監督 | オリヴィア・ニューマン |
| 原作 | ディーリア・オーエンズ(『ザリガニの鳴くところ』) |
| 脚本 | ルーシー・アリバー |
| 製作 | リース・ウィザースプーン/ローレン・レヴィ・ニュートン |
| 撮影 | ポリー・モーガン |
| 編集 | アラン・エドワード・ベル |
| 音楽 | マイケル・ダナ |
| 主題歌 | テイラー・スウィフト「Carolina」 |
キャスト
| 役名 | 俳優名 |
|---|---|
| カイア | デイジー・エドガー=ジョーンズ |
| テイト | テイラー・ジョン・スミス |
| チェイス | ハリス・ディキンソン |
| ジャンピン | スターリング・メイシー・Jr |
| メイベル | マイケル・ハイアット |
| カイアの父 | ギャレット・ディラハント |
| 弁護士 トム・ミルトン | デヴィッド・ストラザーン |
『ザリガニの鳴くところ』あらすじ〜ネタバレあり閲覧注意
簡単な筋立ては、映画.comさんの記事紹介を転載します。
ノースカロライナ州の湿地帯で、将来有望な金持ちの青年が変死体となって発見された。犯人として疑われたのは、「ザリガニが鳴く」と言われる湿地帯で育った無垢な少女カイア。彼女は6歳の時に両親に捨てられて以来、学校へも通わずに湿地の自然から生きる術を学び、たった1人で生き抜いてきた。そんなカイアの世界に迷い込んだ心優しい青年との出会いが、彼女の運命を大きく変えることになる。カイアは法廷で、自身の半生について語り始める。
物語の骨格はここに集約されていますが、映画の魅力はこの“あらすじの外側”にこそあります。
では、もう少しくわしくあらすじを紹介します。
事件の発端
ノースカロライナ州の湿地で男の死体が発見された。死んだ男の名前はチェイス。湿地帯からほど近い町の富豪の息子だ。
検察は、湿地に一人暮らす若い女性カイアを容疑者として拘束する。
弁護に立ったのは、小さなまちで弁護士を営んでいた老弁護士。カイアを少女時代から知っていたのだ。
ドラマはカイアの生い立ちと法廷を行き来しながら前に進む。
湿地で生きる少女カイアの成長
6歳で家族に見捨てられたカイアは、村の人々に「湿地の少女」と蔑まれるが、彼女は、湿地の自然と共生する生き物を愛し、絵に描き、森羅万象から様々な学びを得る。
たったひとりで生きる術を大自然の湿地から学んでゆく少女カイアが心を許した人間は、3人。
雑貨屋の夫婦と、湿地に遊びにやってくる少年テイトだ。
雑貨屋の店主はカイアの成長と生活を陰ながら見守り、彼女がやってくるたびに、社会の中で生きる術をそれとなく教える。
若者になったテイトは、自然を慈しむカイアの姿に共鳴し、テイトはカイアに読み書きを教え、互いに恋心を抱く。
しかしテイトは大学へ進むため、町を出なければならなくなる。
出発の日、カイアに描いた絵を出版社へ送るよう伝え、いくつかの版元のメモを渡し、一年後に必ず帰ってくると伝え、カイアの元を去る。しかし、一年後、テイトは戻ってくることはなかった。
再び一人ぼっちになり、失意のカイア。
あるとき、村の裕福な家の青年チェイスがカイアにデートを申し込む。
しかしチェイスがカイアに近づいたのは、息苦しい家から逃れるための遊びに過ぎなかった。
力づくでカイアをねじ伏せるチェイス。
そんな時、町から去っていたテイトが突然湿地にカイアを訪れる。
テイトは今まで連絡できなかったことを詫びるが、カイアは受け入れない。
チェイスはさらに力でカイアを服従させようとするが、、、
『ザリガニの鳴くところ』あらすじネタバレ〜映画見る方は閲覧禁止!
チェイスの死と裁判
カイアの描いていた自然観察ジャーナルはとある出版社の目にとまる。
編集者との会合が、近くの街のホテルで決まり、カイアはその街へバスで出向く。
チェイスの死亡推定時刻は、カイアがその街へ滞在している時間帯だった。
しかし検察はバス移動で殺害現場に戻ることはギリギリ可能だと、カイアの有罪を主張する。
老弁護士は、検察のいうカイアの移動時間は、あくまで机上のものであり、ナンセンスであること、陪審員皆が、過去カイアに対して「湿地の子」と蔑んでいた事実を突き、公平な審理を求める。
結果、カイアは「無罪」を「勝ち取る。
ラストに明かされる真実
その後、カイアは湿地の家でテイトと余生を送る。
老いたカイアは、沼で母親の影にいざなわれるようにボートで息を引きとる。
悲しみに暮れるテイト。
ある晩、テイトは書棚に一冊のスケッチブックを見つけ、ページを開く。
するとそのスケッチブックにはチェイスを描いた肖像スケッチと、所持品で殺害後に行方不明になっていた「貝のペンダント」が忍ばされていた。
テイトはその貝を水辺へと持っていき、自然へと還し、物語は終わる。
『ザリガニの鳴くところ』考察・感想です
切なくも温かい物語としての魅力
感想をひとことで言うなら、『ザリガニの鳴くところは』心が切なくも暖かくなる物語でした。
タイトルに二の足を踏んでいましたが、観てよかったです。
若い男女の心のすれ違いや心の揺らぎを、どう捉えるかで、映画はロマンスにもなるし、ミステリーにもなります。
でも、本作はその両方、ロマンスにもミステリーにもしているんですよね。おまけに神とは何か?にまで、わかりやすく踏み込んでいます。
ヒューマンラブストーリーでもあり、神との対話でもあり、謎解きミステリでもある…とても贅沢な映画だと思います。
ザリガニの鳴くところとは何か?
どんな映画でもフックになるセリフってありますよね。
『ザリガニの鳴くところ』では、カイアの母が、カイアに向かって言う「ザリガニの鳴くところまで逃げなさい。」が、たぶん、それです。
「?…ザリガニって鳴くんだっけ?そのセリフ、何を意味してるんだろう?…」
そのセリフを聞いて多くの人がそう思うのではないでしょうか?
なので、そのセリフへのぼくなりの考えを書いておきたいと思います。
考察A|「誰も知りえない場所」という象徴
A=ザリガニが鳴くところは、具体的な場所ではなく、「誰も知りえない場所」という象徴的な考え方です。
誰も知りえない場所とは「自分の内側」ですよね。翻って「内に閉じこもれ=黙して己を守れ」…ということかな?と、おもいました。
考察B|母と子が再会する場所
B=ザリガニが鳴くところは、母親と子供たちだけが知っている”再会できる場所”という、ストーリーを俯瞰した考え方。
ネタバレになりますが、ラストでカイアが母のイメージと再会する場所があります。
ストーリーの中で非常に印象的なシーンですし、その場で長く別れた母との再会を果たすことを考えると、「ザリガニが鳴くところ」とは、たぶんそのシーンなのかな?…とも思いました。
ぼくは、「ザリガニの鳴くところまで逃げなさい」への答えは、この2つしか考えつきませんでした。
どちらかを選べと言われたら、、、
そうですね、ぼくの一択は、、、「A」です。
カイアは法廷では終始黙ったままです。なので、「黙して己を守れ」の「A」がぼくのたどり着いた「ザリガニの鳴くところ」のアンサーです。(はずれているかもしれません。悪しからず…)
映画のパワフルなメッセージ
自然には善も悪もない
主人公カイアは、きわめて特殊な生い立ちから、おのずと自然と常に向き合い、対話し、そして自然を絵に描く幼年期〜少女期を過ごしてきました。
彼女は、その自然の中に生きる日々から、自然が持つ”当たり前のこと”を、知ってしまいます。
カイアが知ってしまったのは、「自然には善も悪もない」という真理です。
人間社会との対比としての法廷
自然には善も悪もない。
しかし、人間社会は善悪を名札のように貼り付け、法廷は人を裁く。
宗教家のようなそのメッセージにどきっとしました。そしてじわじわと理解できました。
キャンプ、ネイチャートラベル、山歩き、ウォータースポーツと、世界は自然の中での体験にあふれています。
自然と向き合うことが好きな人、自然の怖さを少しでも知った人の多くが、『自然には善も悪もない』というメッセージにうなずくように思います。
「DOG」と「GOD」の意味は?
カイアにとっての神=森羅万象
カイアがはじめて小学校に登校したときに、カイアは教師から「犬はどう書くの?」と質問され、カイアが黒板に書くのが「GOD」です。
「D O G」をお尻から逆に書くと「G O D」になります。
読み書きを知らなかった少女が、最初に“神”という言葉を書いてしまう皮肉。
カイアにとってのGOD=神とは、いわゆる”イエスキリスト”ではなく、”森羅万象”という意味でしょう。
“森羅万象”に神性を感じとっていた幼いカイアだからこそ、のちに出てくるカイアの「自然には善も悪もない」というセリフに納得するのです。
教育以前に、彼女はすでに世界の本質に触れていたのです。
それにしても、「DOG」から「GOD」=「犬」から「神」を導きだすなんて、すごい映画だと思いませんか?
映画に感じた「家族間連鎖」
暴力と愛情の引き継がれ方
この映画の裏側に、ぼくは、あるキーワードを感じとっていました。
それは心理学用語の「家族間連鎖」です。
実は映画を見る前日、こんな出来事がありました。
友人女性が我が家に遊びにきました。
彼女は心理学を学んでいたのですが、雑談の中で心理学用語の「家族間連鎖」を教えてもらいました。
「家族間連鎖」って、簡単に言うと子供が親の悪いクセを引き継ぐことです。
例えば、こんな感じです。
父親に暴力を振るわれる母親を見て育った子供が、異性からの愛情を受け止めることができなくなったり、アル中の親を見るのが嫌だった子供が、逆に厳格すぎる親となり子に精神的負担を与えたり。
よく「親の反面教師」とか「うまくいってない両親がトラウマになって…」なんて聞きますけど、それを心理学では「家族間連鎖」とネーミングされていると彼女から教えてもらいました。
(もしかすると間違っているかもしれませんが、その場合彼女に罪はなく、ぼくの理解不足です)
その翌日観た映画が、偶然にも『ザリガニの鳴くところ』です。
フタを開けたら、映画はまさに主人公の少女が暴力的父から受けた体験を影のように引きずる「家族間連鎖」のストーリーだったのです。
個人的体験と映画の共鳴
映画を観終わってぼくは、しばらく言葉を失いました。
友人から家族間連鎖の話を聞いた翌日の出来事が、家族間連鎖をテーマにした映画『ザリガニの鳴くところ』との出会いだったのですから。
ぼくは『ザリガニの鳴くところ』は、見るべき時に、見るべくしてみた映画だと思っています。
誰がチェイスを殺したのか?
ミステリーとしての余白
ぼくは観終わってその謎解きがすぐできたわけではありませんし、いまだに確信はもてません。
弁護側に立っていたのは、もちろんカイアの味方だったテイトや店主夫妻です。
テイトが犯人かな?と思っていたのですが、裁判で無罪の判決を受けた瞬間、テイトに笑顔はないんですよね。そのカットから、ぼくの頭に中では「テイトは直接の犯人ではないのでは?」という言葉が巡っていました。
もしかすると味方の彼ら全員が、チェイス殺害に関してなんらかの役割を「知らぬ間に」負わされていたのではないか?
と、これがぼくの推測です。
自然の論理で描かれる真相
以上は、あくまでも、ぼく自身の体験と重なって見えた解釈です。
この映画は、法廷では「無罪」を描き、自然の中では「生き延びるための選択」を描いた物語なのだと思います。
でもこの映画は、人それぞれが、自身の答えを探せば良いようにも思うのです。
だって、この映画は謎解き法廷スリラーという見せかけを持った、大自然の論理と調和した美しいファンタジーでもあるのですから。
主役女優デイジー・エドガー=ジョーンズの魅力
主演女優の魅力を少し書いておきたいと思います。
主役のデイジー・エドガー=ジョーンズを初めて知りましたが、セリフが少ない中でさまざまな表情を「チラッ」と、しかし見事に見せる女優さんでした。
最初は決して美人に見えないのですが、(いや、美人ですよ!)テイトに恋するあたりから表情がくるくる変わるんですよね。
ナチュラルな印象から、恋する表情、そして冷たい水の淵をのぞいたような表情まで、実に多くの表情を見せてくれます。
ぼくはデイジー・エドガー=ジョーンズさんがお気に入りの女優の一人になりました。
そうそう、老弁護士役のデビッド・ストラザーンも、めちゃくちゃかっこいいです。
あんなふうな老人になりたいものだなあ。
『ザリガニの鳴くところ』の評価
総合評価とおすすめポイント
ぼくは『ザリガニの鳴くところ』をほぼ前情報なしで観ましたが、最後まで一気見でした。
カメラが捉える自然の美しさから、法廷ドラマとしての筋立ての妙。
そして、壊れてしまった家族から再生していく女性の力強い生命の物語でもあり、さらには暖かいファンタジーとしても成立している….。
さらにはあちこちに大自然への畏怖メッセージが隠されていました。
ぼくは観終わり数日間『ザリガニの鳴くところ』が頭から離れませんでした。
なので、ぼくの評価は星四つ半⭐️⭐️⭐️⭐️✨です。(五つ星満点中)
いい映画をありがとうございました。
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