『アンブロークン・不屈の男』に見る本当の“不屈”の意味
こんにちは、映画好き画家のタクです。
病院のベッドで再見したのが『アンブロークン・不屈の男』(以下:アンブロークン)でした。
初めてみたのはレンタルビデオ店全盛の頃、レンタルしてみました。
タフな時でないと観れないなあ、、、というのがその時の印象でした。
その後、監督としてのアンジェリーナ・ジョリーが気になってきたこともあり、改めて観返してみたのです。
が、やはり二度目観ても強烈な作品でした。
正直に言うと、観終えるまでかなりのエネルギーを使います。
当たり前ですが、日本が敵国として描かれます。なので、正直、日本人として気分がいい映画ではありません。
しかしそれでも、ぼくは観てよかったと思える映画でした。
なぜならこの映画は、戦争という化け物が「抑圧する側の人間から何を奪うのか」そして「抑圧される側の人間性の踏みしだかれ方」を、容赦なく描いているからです。
『アンブロークン』とは?
2014年公開の戦争ドラマ映画『アンブロークン』は、実在のオリンピック選手であり軍人でもあった ルイ・ザンペリーニ の実話を映画化した作品です。
監督はアンジェリーナ・ジョリー。
主人公ルイを演じるのは ジャック・オコンネル 。
そして日本軍の捕虜収容所でルイを執拗に追い詰める渡辺伍長“バード”役を、ミュージシャンでもある MIYAVI が演じています。
ベルリンオリンピックで注目を集めた若きランナーが、戦争によって人生を大きく狂わされていく。
そんな実話がベースになっています。
『アンブロークン』ネタバレあらすじ
少年時代のルイ・ザンペリーニは問題児でした。
しかし兄の支えによって陸上競技の才能を開花させ、やがてベルリンオリンピックに出場するほどのランナーへと成長します。
ところが時代は第二次世界大戦。
ルイはアメリカ陸軍航空隊へ入隊し、爆撃機の搭乗員となります。
本作前半の爆撃機シーンは圧巻です。
戦争映画には様々なジャンルがありますが、「爆撃機映画」という視点で見ても非常に完成度が高く、短い出番ながら強烈な印象を残します。
やがて任務中に搭乗機が太平洋へ墜落。
生き残ったルイたちは小さな救命ゴムボートで漂流を始めます。
彼らを襲うのは、飢餓、渇き、サメの群れ、そして日本軍機の機銃掃射……。
想像を絶する47日間の漂流の末、ようやく助かった……と思った瞬間、彼らは日本軍に捕らえられてしまいます。
そこから始まるのが捕虜収容所での地獄です。
ルイは反抗的な態度を見せたことで、渡辺伍長の標的になります。
ルイを襲うのは、殴打、そして屈辱です。
精神と肉体の両方を徹底的に破壊されながらも、しかしルイは屈しません。
終盤、巨大な角材を頭上に掲げる象徴的な場面があります。
倒れれば撃たれる。
それでも彼は立ち続けます。
そして終戦。
ルイは故郷へ帰還します。
映画はそこで幕を下ろします。
しかしぼくは、後に知ることになりました。本当の戦いは、その後にあったことを。
感想考察① アンジェリーナ・ジョリーの「冷徹な優しさ」
私は以前、ジョリー監督の『最初に父が殺された』を観ています。
この2作品には共通する特徴があります。
それは感傷を極力排除していることです。
泣かせようとしない。
盛り上げようとしない。
悲劇をエンターテインメントとして消費させない。
そんな強い意志を感じます。
本作でも「アメリカ万歳」の物語にはなりません。
国家やイデオロギーよりも、一人の人間がどのように削られ、それでも生き延びるのか。
その一点に視線を固定しています。
私はそこにジョリー監督の持つ、冷徹な視線の先にある優しさを感じました。
感想考察② 美しい映像だからこそ痛みが際立つ
ジョリー監督作品は、本当に絵が美しいのです。
画家視点で観ていて、とても惹きつけられます。
しかし、その美しさは観客を癒やすために存在しているわけではありません。
むしろ逆です。
美しい空。
美しい海。
美しい光。
だからこそ、その中で起きる暴力や飢餓や絶望が際立ちます。
光が強いほど影が深くなる。
映画の中で語られる「光と闇」という言葉がありますが、まさにその構造です。
私には、まるで ジョルジュ・ルオー が描いたキリスト像のようにも感じられました。
絵の具を何層にも重ねて苦しみを描いたルオーのように、ジョリー監督もまた、森羅万象の美しさをさしはさむことで、人間の痛みを浮き彫りにしています。
感想考察③ 本当の『アンブロークン』は映画の後にある
「無事生還は良かった…ところで、ルイは暴力の嵐を受け生還したのち、普通に生きることができたのだろうか?」
『アンブロークン』を観終わって最初に思ったのは、そんな疑問でした。
なので、「ルイのその後」を調べてみました。
映画を観ていると、「ルイは生き延びた」「不屈の精神で勝利した」
そんなハッピーエンド的物語にも見えます。
しかし、実際は違いました。
むしろ帰国以後こそが新たな苦しみの始まりだったのです。
戦後のルイは、重度のPTSDに苦しみます。
悪夢にうなされ、アルコール依存に陥り、憎しみに支配されます。
彼の人生は終戦によって救われたわけではありませんでした。
ですがやがて、彼は信仰を通じて立ち直り、自分を虐待した元日本兵たちを赦す道を選びます。
赦しへの道こそが壮絶なイバラの道だったに違いありません。
私は、この戦後の歩みこそが本当の意味でのルイの「アンブロークン」だったように思います。
漂流47日間よりも。
捕虜収容所よりも。
虐待した人を赦すことの方が難しい。
憎しみを手放すことの方が難しい。
……ぼくだったら多分……どこまでも赦せません……。
映画は壮絶な前半戦で終わります。
しかしぼくは、エンドロールで少しだけ紹介される人生後半戦こそが、
ルイ・ザンペリーニの不屈への歩みだったのではないか、と思うのです。
『アンブロークン』評価
ぼくの評価は星三つ半⭐️⭐️⭐️✨(3.5/5)です。
描き込みのしっかりした戦争映画です。
爆撃機シーンも漂流シーンも捕虜収容所の描写も圧倒的でした。
ただし、観る方の精神的消耗度もかなり大きい映画です。
エンターテインメントとして気軽に楽しめる作品ではないと思います。
先に「映画の続きを知りたくなった…」と書きました。
主人公ルイがどのようにPTSDと向き合い、どのように「赦し」へたどり着いたのか?
そこまで描かれていたら、私にとっては文句なしの作品だったと思います。
それでもなお、本作は観る価値のある一本だと思います。
・戦争が人間から何を奪うのか。
・そして人間はどこまで折れずに生きられるのか。
その二つを『アンブロークン』はガチっと教えてくれますから。
